ふれあいママブログ

バービー人形大好きです。魅力を語らせて下さい。エブリスタ(estar.jp)で小説も公開中。ペンネームはmasamiです。大人も子供も楽しめる作品を、特に貧困や格差をテーマに書いてます。

あなたのバービーは何を語る?⑧後編


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「このドレスに着替えて、ジニー。

 つなぎ姿で、パーティーに潜り込むわけには

 いかないからね」

「持ってきてくれたんですか?わざわざ…」

「帽子以外は、楽なものだったよ。潰れていな

 ければ、いいんだけどね。女性の帽子だけは

 どうにも苦手だ」

「サンディは?」

「僕はこのままでいいんだよ。さ、早く」f:id:fureaimama:20211009112403j:image

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「どうですか?」

「美しいよ、ジニー。とても綺麗だね」

「自信ないですけど…」

「大丈夫だよ」

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「この生け垣を潜り抜ければ、そこがゴールだ

 ここまで来てバレたんじゃ、泣くに泣けない

 慎重にね、ジニー。覗いてみてごらん。

 辺りに人はいない?」

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「誰もいません」

「よし、一気に向こう側に!」

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「やったわ!でも…ここ、本当にパーティー

 会場なんですか、サンディ。美しい庭園です

 けれど、人もいないし、何もないわ」

「実はね、ジニー。ちょっとした嘘をついたん 

 だ。ここは、まだ会場ではない。

 パーティーは、ここから十分ほど歩いた所

 で開催しているよ」

「え?まだ、そんなに先?」

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「じゃあ、サンディも早くこっちに来て」

「ここでお別れだよ、ジニー。僕は行かない」

「え?え?」

「もうしばらくすると、リンという子が現れる

 憶えているかな?遊園地で会った子だよ」

「ああ…赤毛の…とても綺麗な…」

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「リンが、全て説明してくれるから。

 じゃ、僕は帰る」

「そ、そんな…一緒に行ってくれるとばかり…」

「ジニー。よくお聞き。

 僕はね、今回、自分勝手に行動することにし

 たんだ。君がどう思うか、どう行動するのか

 知った事ではない。自分が良かれと思った事

 を独断で進め、後は放っておく」

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「サンディ…そんな人じゃないでしょう…」

「ところが、今は、そんな人なんだ。

 後は好きにしたまえ。君の判断でね」

「どうしたらいいのか…わかりません…」

「とりあえず、リンと会ってみればいい。

 彼女に、この手紙を渡しておいてくれ。

 じゃあね」

「待って!行かないで!」

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「怖がるなんて、おかしいな、ジニー。

 これが世の中だよ。勝手にカードを配ってく

 る奴らばかりだ。

 君の周りにもいるだろう?

 それでいいんだ。

 カードを捨てるも、うまく使うも、君次第。

 自己責任になるんだ、よろしく」

「困るわ…サンディ…サンディ…」

「僕は困らない。さよなら」

「あっ…」

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「勝手にカードを配る奴…?私の周りにも…?」

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「ちょっと、ちょっと、ヤッホー!ジニーって

 いう子、ここに来てるう?」

「え?え?はいっ、ここです!」

「ここって、どこよう?」

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「こっちですっ」

「見えないわ、右?左?前なの、後ろなの?

 まさか、上?」

「そんなわけがないでしょう…」

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「こっちかな?」

「ちょ…どこに行ってますか!?逆です、

 そっちじゃありません!」

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「ああ、そこだったのね!今すぐに行くわ。

 こちらから回り込めば…」

「方向音痴な方…」

「あれ?ジニーがいないわ!どこ?どこ?」

「ここにいます!どこをどう見たら、

 そっちの方角に進むんですか?」

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「文句言うなら、あなたから来てよ、ジニー」

「わかりました…動かないで下さいね!」

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「万歳!巡り会えたわね。ジニー、憶えてる?

 私、リンよ」

「あの…お久しぶりです…憶えてます」

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「サンディから話は聞いてるわ。手紙、預かっ

 てるでしょ。頂戴」

「これかしら?」

「天下のサンディの署名入りか。全てのドアを

 開く鍵ね」

「サンディ…逃げちゃったんです」

「そりゃ、逃げるでしょうよ。社長に見つかっ 

 たら、大変だもの」

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「社長って…?」

「シェ・デュアンヌの社長。国内トップの

 モデル・エージェンシーなの。私も、そこの

 モデル」

「すごいですね」

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「でもないわ。コネで入ったから。確かに私は

 完璧だけど、それだけでは入れないのよ」

「でも、どうしてサンディは、社長から逃げて

 いるんですか?」

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「歩きながら、話しましょ。

 なんでも以前、社長はサンディに助けられた

 事があったみたいで、恩を返したいみたい。

 ただ、どうかな…単にサンディに夢中になっ

 てるだけかも。あそこまで、ハンサムな人も

 そういないものね、フフフ。

 でも、サンディは、付きまとわれるのが、

 好きではないから」

「ああ…また、そのパターン…。社長さんも、

 サンディが嫌がっているのなら、止めればい

 いのに」

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「あのねえ。サンディの欠点はね、人を必死に

 させすぎちゃう所なのよ。社長は、サンディ

 の為なら、どんな事でもするわ」

「ちょ…ちょっと待って下さい。そもそも、

 あなたが協力しているなら…パーティー

 主催者と仲がいいなら…サンディ、なぜ、

 わざわざ『もぐり』なんか?

 正面入り口で、あなたと私を引き合わせて、

 帰ってしまえば、それで済んだのに。

 あんなに苦労して、疲れて、汚れて、時間を

 かけて『もぐり』をする必要なんかなかった

 わ。なぜ…そんな事を?」

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「あなたを、よく知る時間が欲しかったのだと

 思うわ」

「それだけの為に…」

「サンディは、そういう人だから」

「…。」

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「ところで、あなた、仕事を探しているのよね

 モデルになってみない?」

「私なんて、無理ですよ。採用されません」

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「あなたは綺麗で、スタイルもいいわ。

 それに、サンディの紹介状があれば十分。

 トップ・モデルになれるわ」

「絶対に無理です。なんで、私が?」

「逆に、なんで、あなたじゃいけないのよ?

 いい?トップクラスのエージェンシーの社長

 が、売り出すと決めて本気を出せば、誰でも

 スターになれるのよ。もちろん、大変な仕事

 だし、厳しい訓練があるけれど」

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「それは構いませんし…モデルのお仕事にも

 憧れます。でも…なんか…」

「社長から見れば、あなたは、大切なサンディ

 からの、大切な預かりものよ。厳しいお稽古

 はあっても、大事に扱ってくれるわ」f:id:fureaimama:20211010063312j:image

「でも、それは、サンディの力でしょう?

 私の実力じゃない。ズルみたいで…」

「ハハッ!ずいぶんエラソーね」

「そんなつもりじゃ…」

「実力うんぬん、言えるレベルだとでも?

 最初は、みんな、誰かの手助けや後押しから

 始めるのよ。サンディに巡り会えて、本当に

 ラッキーだった…そう感謝すればいいの」

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「感謝って言えば…大変!」

「何よ?いきなり」

「私…サンディの連絡先を知らないんです。 

 どうやって、お礼を言えばいいのかしら。

 連絡先、教えて下さい」

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「必要ないわ」

「でも…」

「もし、あなたと、これからも友達付き合いを

 したいと思っているのなら、サンディは、

 必ず、連絡先を教えたはずよ。うっかり忘れ

 るなんて、絶対にしない人だから」

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「私と会いたくないって事ですか…?」

「ま、そうでしょうね」

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「…。」

「…。」

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「私…お仕事、頑張ります。サンディが誇りに

 思えるような、そんなモデルになります。

 そうしたら、きっといつか、また会えます

 よね?」

「ええ。そう思うわ」

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「サンディと会う為に、私、努力します。

 リンさんも、力を貸して下さい」

「他の人の為かと思ったわ…」

「え?」

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「なんでもない。大丈夫よ。私に出来る事は、

 何でもして、あなたを助けるわ。

 私にとっても、あなたは、サンディからの

 大事な預かりものなのだから」

「サンディの欠点…わかります。

 もう、居てもたってもいられない気持ち」

「そのガッツで、明日からいきましょう」

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次は、バービー・シェモーナさんのお話です。

お楽しみに。

 

エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasamiです。

「いつもの帰り道」「ヘルズ・スクエアの

 子供たち」など。

覗いてみて下さいね。

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑧中編


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「ジニー…ジニー!」

「ふあぁ…うーん…」

「良かった、生きてる…ジニー、ジニー、ホラ

 起きて起きて」

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「うーん…う…ん?あ…れ?」

「もう、さすがに起きなさい。午後1時半を

 とっくに過ぎてるよ」

「あなたって…あ…遊園地の…え…サンディ!」

「覚えておいてくれて、ありがと」

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「まだ、寝ぼけていて…おはようございます」

「おはよう。でも、もう午後2時近くなんだ」

「そんなに?寝過ごしちゃいました」

「睡眠をしっかり取るのは良いことだ。でも、

 公園のど真ん中で、派手な寝袋にアイマスク  

 で…となると、少なくとも、普通とは言えな  

 いよ。何してるの?」

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「私、その…今は、住む所が無いんです」

「どうして?」

「一週間前、家出してきたんですけど…お金を

 ほとんど持たないまま、出たので…」

「それは知らなかった。大変な状態だったんだ

 ね。気がつかなくて悪かった」

「いえいえ…私がいけないんですもの。家の

 お金をこっそり使ってしまって、家族に叱ら

 れたのは、私なんで…」

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「それで家出を?」

「いえ…別にそういう訳では…。そこまで怒られ

 てないというか…父なんかは、かなりお説教

 しましたけれど、家出するほどじゃ…」

「だったら、なぜ?」

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「恋人を探しに来たんです。でも、手掛かりが

 全然なくて…ウロウロしている内に、僅かな

 食べ物を買うお金もなくなって…あなたに

 会った時には…丸一日、何も食べてなくて」

「ずいぶん複雑な話みたいだね。ひとまず、

 あそこの水道で顔を洗って…トイレで、この

 服に着替えて、さっぱりするといい。大丈夫

 見張っていてあげるから。それにしても…

 若い女性が、人もまばらな公園で、寝袋で夜

 を過ごすなんて…危険極まりないよ」

「他には、どうにもしようがなかったんです。

 家出する時、持ち出したのが、寝袋とお菓子

 ぐらいだったから」

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「よしんばキャンプだったとしても、それでは

 準備不足だね。水筒が無いもんね。怖い目に

 会ったりしなかった?」

「いえ…別に。どうしてです?何か出るんです

 か?この公園…」

「そういう意味じゃない。さあ、服を着替えて

 きて」

「これに?」

「新品ではないけど、清潔だよ。『もぐり』に

 必要なんだ」

「ああ…そうでした…。『パーティーもぐり』

 の方法を、教えてくれるんでしたっけ…」

「そんな事をしている場合じゃなさそうだね」f:id:fureaimama:20210923101447j:image

「いえ、いいんです。今日する事はないし、

 行く当てもないし。私の彼は行方不明の

 ままだし、出来る事もないし…つまり…その

 どうせ、何も無いんです、今日は」

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「わかった。じゃあ、予定通りに行動しよう。

 簡単なブランチセットを持ってきたんだ。

 この『もぐり』は、時間がかかるからね。

 食べておいた方がいい」

「ええ…ありがとう…。すごくお腹が空いてたん

 です。早く食べたいわ。着替えてきます」

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「こういう服は、初めてで…でも、着心地が

 とてもいいわ。似合います?」

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「それは良かった。可愛いよ。さあ、食べて」

「美味しそう。いただきます」 


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「元気が出たみたいだね。じゃあ、出発だ。

 今日、潜り込むのは、レインボー・クラブ。

 そこの中庭で、ゴージャスなパーティー

 催しがあるんだ。警備が厳重で、侵入者に

 手荒い。ベテランの『もぐり』でも、苦労

 するレベルだよ」

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「頑張ります。それに、良く考えたら、彼に

 会うチャンスかも。彼は、有名人専属の

 フリーカメラマンなんです。今月もね、

 マドンナや、マイケル・ジャクソン

 ケニー・ロジャースの撮影があるって。

 それ、誰かしら…でも、有名なんでしょう?

 ゴージャスなパーティーにも、よく仕事で

 行くんですって。巡り会えるかもしれない」

「僕の記憶に間違いがなければ、マイケル・

 ジャクソンと、ケニー・ロジャースは、

 もう亡くなられたと思うけどね」

「そうなんですか?だったら、別の人かも…」f:id:fureaimama:20210923081222j:image

「会えるといいね。さあ、出発だ。この公園

 の、まずこの茂みを潜り抜ける。途中に、

 寝袋を隠していこうね。かなり深い林に続く

 から、距離があるよ」

「わかりました、隊長」

「しっかりついてきたまえ、ジニー隊員」f:id:fureaimama:20210923081328j:image

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「結構、大変でしたね」

「やっと抜け出したね。少し休憩しよう」

「喉がカラカラ」

「水筒の中にレモネードが入ってるから、

 どうぞ」

「リュック、重そうです。持ちましょうか」

「中身は軽いんだよ、大丈夫」

「優しいんですね」

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「君の恋人はどう?優しい?」

「とっても。それにすごくハンサムなんです。

 あなたも…その…すごく…その、ハンサムです

 けど、全然、違うタイプというか…」

「彼の名前は?僕も知っているかもしれない」

「ジョン・スミス」

「…。」

「ご存知ですか?ここらへんの出身みたいなん

 ですけど」

「いや…残念だけど、知らないな」

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「いいんです。彼、ものすごい有名人の仕事

 しか受けないし、大金持ちとしか付き合いが

 ない人だから…。宇宙に行ったり、深海の

 写真を撮ったり、私達、普通の人とは、別の

 世界の人ですもの」

「すごい人だね。だけど、不思議なんだ。君か

 ら見ると、彼は行方不明な訳だけど、彼から

 見ても、君は一週間以上も行方不明だ。心配

 じゃないのかな?連絡したら?」

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「携帯はアマゾン川で落としたんですって。

 その後は、エジプトのピラミッドに行って

 今は、どこにいるのか、はっきりとは…」

「ちょっと待って。マイケル・ジャクソン

 写真を撮りに行くっていうのは、どうなった

 の?エジプトなの?マイケルなの?どっちな

 の?さっぱりわからないんだけどね」

「エジプトに、マイケル・ジャクソンがいるん

 じゃありません?」

「なる…ほど…かもしれないね。それはそうと、

 次は、この草原を突っ切るよ」

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「レインボー・クラブって遠いんですか?」

「街中の、普通の道を通り、堂々と正門から

 入るなら近いよ。せいぜい、15分かな。でも

 それじゃあ『もぐり』にならないよね?

 『もぐり』というのは、人が知らないルート

 を使って、人に気づかれずに会場に入り込む

 ことだ。遠回りにはなるね、すごく。出来る

 かな?」

「ええ…だって…ここは…本当に美しい場所です

 もの」

「確かに。そうだね」

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「疲れたね。少し、休もうか」

「私は平気ですけど…サンディ、疲れやすい質

 みたいですね。座って下さい」

「ありがとう。風が気持ちいいね」

「草の香りって、いいですね。爽やかだわ」

「彼の話の続きを、聞かせてくれない?嫌で

 なければ」

「不思議だわ。ここに…広々とした自然の中

 にいると、素直に話したくなる。 

 とにかく…彼と連絡は出来ない状態で。ただ

 この町が、彼の生まれ故郷だと知ったんで、

 ここに居れば、いつかは会えるかな…と。

 お金があれば、エジプトまで行ったんですけ 

 ど」

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「君なら行きかねないな。ここが、彼の出身地

 だって、よくわかったね」

「よくわからないんですけど…」

「だって、君はたった今…」

「デートの後、彼を尾けた事があって…」

「やれやれ…女の子って、よくよく尾行するも

 のなんだな。

 世の男性は、もっと背中に気をつけないと」

「え?」

「いや、失礼。独り言だよ。それで?」f:id:fureaimama:20210923083945j:image

「この町のアパートに帰って行ったから」

「だからって、出身地だとは…て、そんな事よ

 り、アパートを知っているなら、そこに行け

 ばいいんじゃないの?」

「行ってみました。今はもう、取り壊されてて

 当時から、崩れそうなボロアパートだったか

 ら、無理もないわ。

 実際、何も無いのに、いきなり崩れたんで

 すって。幸い、怪我人はなかったそうです」f:id:fureaimama:20210923084145j:image

「それで居場所がわからなくなって、困ってる

 わけか…。複雑だね。

 さてと。今度はけっこう大変だよ。この倒木

 の山を乗り越える。怪我しないように、気を

 つけてね」

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「まだ、話の続きがあって…」

「わかってるよ。でも、歩きながら話さないと

 日が暮れてしまうからね」

「でも…」

「時には、行動しながら考えた方がいいことも

 あるんだよ、ジニー」

「そうします…キャッ、髪が絡まるわ」

「帽子をかぶりたまえ」

「こんな帽子、かぶるのは初めて」

「似合うよ。でも、足元に気をつけて!」f:id:fureaimama:20210923085818j:image

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「ジニー。ちょっと気になるんだけどね。

 スミス君は、その…そんなにすごい人だと

 いうのに、ボロボロアパートに住んでたの

 かい?変じゃない?」

「それが…内緒ですよ、これ。政府の仕事をし 

 ているからなんですって!スパイは、目立っ

 てはいけないんだそうです。秘密ですよ」f:id:fureaimama:20210923090105j:image

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「スミス君は、実に忙しい人だねえ。大丈夫。    

 拷問にかけられても、喋らないよ」

「乗り越えたわ!すごい…私、運動はできない

 と思い込んでいましたけど、出来るんだわ」

「何事も、思い込んでしまうのは良くないな」f:id:fureaimama:20210923090515j:image

「次は?」

「この流れを渡る」

「崖じゃないですか!大丈夫かしら…」

「君は、自分で思っているより、ずっと強い子

 だよ。なにしろ、スパイの恋人なんだから」

「私は平気。サンディを心配しているんです」

「それはどうも。大丈夫だよ」

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「ちょっと、待って、ジニー。速すぎるよ」

「こんな事したの初めてだけど、楽しいわ」

「子供の時、しなかった?」

「私、一人っ子で、両親は、ものすごく心配性

 なんです。外で遊んだ事なんか、ほとんど

 ないわ。お稽古事とかも忙しくて」

「そうなんだ…友達も、そういうタイプ?」

「友達って…いないから…」

「それは寂しいな」

「人見知りで…自分の気持ちとか、うまく話せ

 ないんです。でも、沈黙って気まずいじゃ

 ないですか。慌てて、話題を作ろうとしては

 変な事ばかり言っちゃって…。人とうまく

 付き合えない、私、ダメ人間だわ」

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「彼とはどう?スミス君とは話せたの?」

「ええ!もちろん!彼は、私が内気でも、全然

 構わないって言ってくれた。色々な性格が

 あって、それでいいんだって。僕は話すのが

 好きだから、君は聞いててくれればいい。

 無口な人の方が、僕は好きだ。内気な人の方

 が好きだって」

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「そうか…」

「ありのままの君が最高だって…そんな事を

 言ってくれたのは…彼だけだから…」

「ご両親は?」

「大事にしてくれたけど…全部、私の事を決め

 ちゃう。まるで、赤ちゃんみたい。私が何か

 ミスするでしょ?でも、私のせいじゃない…

 自分たち親のせいだって…なんか違う気が…

 もう、大人なのに…ずっと面倒みてくれる気

 なんです」

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「確かに、それは、ありのままの姿を受け止め

 る事ではないね」

「いい人達ですけどね。優しい両親だわ。なぜ

 イライラするのかしら」

「なぜだろうね」

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「次は、この建物によじ登るんだ。屋根から

 飛び降りれば、そこがレインボー・クラブの

 裏庭だ。あのクラブは、裏庭の存在を忘れて

 いるらしくてね。何年もの間、手入れもせず

 に放置してある。うまく忍び込めるんだよ」

「この家の人に悪いじゃありませんか」

「廃屋なんだ。誰も住んでない」

「出来るかしら」

「出来るよ。君にはスミス君がいる」

「そう…彼がいます。彼だけだわ。私を本当に

 幸せにしてくれたのは」

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「見事に登ったね、ジニー。それじゃあ…」

「待って、サンディ」

「え?」

「少し、屋根の上にいません?もう夕暮れ」

「美しいね」

「とっても」

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「…。」

「…。」

「彼は、いい人なんだね、ジニー」

「サンディ…ありがとう…しんどそうなのに…

 私の為に…ありがとう」

「いいんだよ、気にしないで」

「…。」

「どうしたの、ジニー」

「彼に会えるかしら…不安だし、恋しいわ」

「そうだろうね。苦しいね」

「これ…」

「何を握りしめてるの?」

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「以前、彼がくれた手紙です」

「メールとかLINEじゃないんだね。古風だ」

「メールは記録が残るからダメだって。手紙な 

 ら、焼けば復元できないから、読んだら燃や

 してくれって…でも…そんなこと…三枚だけ、

 とっておいたんです…」

「スミス君なら、知っていそうなものだけれど 

 ね。恋する女の子は、手紙を燃やさないって

 ことぐらいは」

「読んで下さい」

「いいの?非常にプライベートな物だと思うん

 だけど」

「そうですよね。他の人なら、絶対に見せない

 わ。でも、サンディには…見てもらいたいん

 です…。なぜか、わからないんですけど。

 説明しろと言われても、できないんです」

「そんな事は言わないよ、心配しないで」

「どうぞ…お願い」

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「声に出してもいいかい?うんと小声で読むか

 ら」

「構いませんけど…なぜです?」

「そうすれば、君も内容がわかりやすい」

「でも、もう何十回も読んでます。暗記して

 るわ。内容は、よくわかってます」

「そうかな?」

「え?」

「じゃあ、読むよ。真剣に読むからね」

「ええ…」 

「素敵なジニーへ。

 お金をありがとう。本当に助かったよ。これ 

 で裁判を逃れる事ができる。君も知っての

 通り、命懸けの仕事をしていると、始終、

 トラブルが起きるんだ。頼りになるのは、君

 だけだよ。ああ、君はなんて素晴らしい人な

 のだろうか。美しいジニー。この埋め合わせ

 はきっとするからね。

 スミスより」

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「最高のジニーへ。

 お金をありがとう。アフリカ行きが叶ったよ

 しばらく、秘密の任務で会えないが、君の事

 は想っているよ。毎日、毎日、どんな時もね

 君をいつか、女王よりも幸せにすると誓う。

 もっとも、歴史上の女王は、あまり幸福では

 ないようだが。金やダイヤや絹やら、どんな

 に持っていようと、意味が無いんだ。

 君には、もっともっと良いものを捧げたいな

 僕の真心、真の愛を捧げるよ。

 僕らの恋を、秘密にするのが嫌なのは、よく 

 わかる。君は、谷川よりも清らかな人だから

 でも、僕の立場はわかって欲しい…工作員

 秘密のベールに包まれた恐ろしい仕事だ。

 君にも危険が及ぶかもしれない。そんな事に

 なったら、僕は生きてはいけないよ。

 それに、世間向けにしているカメラマンの

 仕事も、有名人ばかりに囲まれてるからね。

 ちょっとした事でも、スキャンダルになる。

 だから、秘密にしておいて欲しいんだ。誰に

 も話さないでくれ。近い将来、必ず、堂々と

 一緒に過ごせるようになるからね、約束だ。

 輝く美しい朝日がアフリカの地に昇る時、

 輝く美しさを持つ君に、遠い空から挨拶を

 送ります。

 スミスより」

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「かけがえの無い、素晴らしきジニーへ。

 お金をありがとう。ギリギリのピンチを脱出

 できたのは、比類なき美女のおかげです。

 (君の事だよ、ジニー)

 君の家のお金がなくなってしまったそうだね

 本当に本当に、申し訳ない。僕はひどい恋人

 だよ。必ず、何倍にして返すからね。お父上

 に挨拶に行く時に。誓うよ。

 ただ、今は、巨大な陰謀を突き止めたばかり

 で、エジプトまで行かねばならない。任務が

 終了すれば、巨額の報酬が入るから、君に

 お金を返して、まだまだ十分に残るよ。

 君にキスの一つもせずに、旅立ってしまう僕

 を許しておくれ。でも、僕はだらしがないの 

 は嫌なんだ。結婚するまでは、お互いに

 純潔でありたい。古風かもしれないが。

 エジプトの後は、ロシア、イギリス、インド

 世界中を飛び回る事になる。いつ帰国できる

 かは、わからない。でも、君への愛は、失わ

 れはしないし、色褪せもしない。僕の愛は

 永遠に君のものだ。僕を信じて待っていて

 欲しい。誰にも話さないでね。

 いつも変わらぬ愛と感謝を。

 さようなら。

 スミスより」

「…。」


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「素敵な人でしょう、サンディ。私にとって、

 初めての恋なんですもの。本当に幸せでし

 た…素晴らしい人でしょう?ね?そう思う

 でしょう?ね?」

「…。」

「サンディ?」

「ああ…そうだね。素晴らしい恋人だ…ね」

「本当に、そう思います?私のした事、間違っ

 てはいないでしょう?大丈夫でしょう?

 彼…良い人ですよね?この恋は、正しいので

 しょう?」

「恋に、間違っているも正しいも無いさ。人を

 幸せにするのは難しいんだ。君が彼といて、

 幸せだったなら、彼は…良い人だったんだろ

 う。信じてあげればいい」

「でも…私…これから…どうすれば…」

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「決まってるじゃないか。彼の帰りを待つんだ 

「でも、住む所も、お金もなくて…」   

「大丈夫。僕に任せておきたまえ。

 仕事を紹介する。大変な仕事だが、真っ当

 で、何にも恥じる事のない職業だよ。

 君さえ頑張れば、ご両親にお金も返せるし、

 生活も成り立つようにしてあげられる」

「やります…何でも…でも…彼は?」

「君がその仕事で成功すれば、彼の方から会い

 にくるさ。その時、君が、彼と会いたいかど

 うか…それはわからないが」

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「どういう意味です?」

「今は、わからなくていい。その内に、わかる

 ようになるよ。さて、実はね、ジニー。

 その職業を紹介するにも、この『もぐり』は

 続けなくてはいけないんだ。

 さあ、ここが、レインボー・クラブの裏庭の

 ドアだ。鍵は壊れてる」

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「ええ…でも…よくわからないわ」

「君は、慣れっこじゃないのかな。よくわから

 ない状況に飛び込むのは…ね」

「私、変ですか?」

「人間なんて、みんな変なんだよ」

「あなたも?」 

「もちろん、僕も。そして君も。

 誰も、それを責められないんだ」

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  後編に続きます。

 

 エブリスタで、小説も公開中。

 ペンネームはmasamiです。

 よろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑧前編


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「そこの方!どちらに行かれますか!受付は

 こちらですよ。チケットはお持ちですか?」

「え?あの…」

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「このパーティー会場には、チケットが無いと

 入れません。購入されましたか?」

「え?そんな…その…」

「チケットがあるか、聞いてるんです!」

「ありません…けど…知り合いの…その…」

「なんですって?よく聞こえません」

「知り合いに招待されたんです!だから…チ、

 チケットは要らないんです」

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「お知り合いのお名前は?」

「え…と、その…何だったかしら…ちょっと…

 度忘れして…」

「お帰り下さい」

「でも、本当なんです!受付にチケットを置い

 ておくからって、そう言われたんです…本当

 よ、嘘じゃない!」

「お名前は?」

「誰の?」

「あなたのです!いい加減にしないと、警備員

 を呼びますよ」

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「ジニーです。ジニー…」

「リストにありません!確認するまでも無いわ

 安物の靴…見ればわかりますよ!

 とっとと、出ていくんです!ゴード!」

「警備会社の者です。すぐ、回れ右して、出て

 行った方がいいですよ。

『パーティーもぐり』を摘まみ出すのが、僕の

 仕事なんで。嫌な話ですけどね…気の毒には

 思うけど、仕方ないんです。僕も給料が必要

 なんで…」

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「ゴード!何やってるの?ぐずぐず喋ってない 

 で、さっさと、叩き出してちょうだい!」

「チッ、うるさいな…」

「何!?」

「いや、何でもないです」

「あんたの替わりなんて、いくらもいるのよ?

 なんなら、その『もぐり』と一緒に出ていっ

 てもいいわ!」

「聞いたでしょう、あれ。僕がクビになる。

 あなたが出ていってくれなきゃ、僕が家賃を

 払えなくなります。まいったな…無理矢理に

 引っ張っていくなんて出来ませんよ、僕。

 もう行った方がいいです、本当に。頼みます

 よ…ね?お願いしますよ」

「足が…足が動かない…」

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「は?大丈夫ですか?僕、何もしてませんよ。 

 痛めたんですか?」

「いえ…大丈夫…です。ごめんなさい、もう行き

 ます。あなたに迷惑かける気は無かったの」

「いいんです。気にしないですから、僕」

「あなたをクビに…だなんて、そんなつもりは

 なかったのよ…」

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「本当に、大丈夫ですか?」

「ゴード!何してるのよ?」

「具合が悪いらしくて…もう少し…待っ…」

「さっさと摘まみ出して!お客様で混み合う前

 に!まともな上流の方々に、こんな醜態を

 お見せするわけにはいかないわ!」

「醜態はあんたじゃないか…」

「な…何か…今…言った…!?」

「いや、その…」

「ごめんなさい…もう…行きますから…」

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「やあ、ゴード!久しぶりだね…て、修羅場?

 どうしたんだい、大騒ぎだね」

「サンディ!会えて嬉しいなあ!もっと頻繁に

 会いたいですよ。腰の具合は?」

「相変わらず、痛いね」

東洋医学とやらが、いいらしいですよ。

 針治療とか、どうです?」

「針を刺すのかい?怖いな」

「効くって話ですよ」

「君は、はち切れんばかりに元気そうだね」

「体が全てですからね、僕は。4つも掛け持ち

 で仕事してるし、医者なんか贅沢品だし。

 薬だって、高いですよ」

「君は大したもんだよ。僕は本当に、いつも

 感心してる。

 ところで、こちらのお嬢さん…ジニーさん…

 だけどね。僕と一緒なんだ。ここで待ち合わ

 せしていてね。チケットも渡しておいたんだ

 けど、なくしたのかな?ジニー?」

「え?は?あの…その…」

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「と、いう訳なんだよ、ゴード。なんなら、

 チケット、買おうか」

「とんでもない!サンディにチケットなんか

 買わせたら、主催者に殴られますって。

 ごめんなさい、お嬢さん。ジニーさんでした

 か。サンディのお連れ様だとは、知らなかっ

 たんで。お詫びします」

「いえ…とんでもない…あなたのせいでは…。

 あなたはご親切でしたわ…」

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「じゃあ、行こうか、ジニー。また今度、ゆっ

 くりね、ゴード」

「主催者の…カミツキガメ婦人が、あなたの事

 鵜の目鷹の目で探してますよ。サンディ、

 来てくれるかしら…て、ピリピリしちゃあ、

 花屋を怒鳴りつけるわ、ケータラーは苛める

 わで、もう六人ばかりも、ウェイトレスが

 泣いて辞めちゃいましたよ。

 どうするんですか?」

「会場は広い。逃げ切るさ」

「僕ら従業員の、平和とチップの為に、犠牲に

 なって下さい」

「いくら君の為でも、夫人をご機嫌にさせるの

 は至難の技だ」

「サンディなら、できますって。傍にいれば

 それでいいんです」

「他人事だと思って…僕は隠れるよ」

「来月、また野球に行きませんか?この前は、

 本当に楽しかった!」

「ああ、行こうね」

「電話します。パーティーを楽しんで!」f:id:fureaimama:20210731155242j:image

「さて。初めまして。僕はサンディ。君は

 ジニー…と言っていたね。何の略称なの

 かな?本名は?」

「ジネヴラ」


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「ジネヴラ…美しい名前だね」

「今は、何も素晴らしいとは思えないんです」

「君は初心者のようだ。そりゃ失敗もするよ。

 落ち込んじゃいけない」

「確かに落ち込んでますけど…初心者って…?」f:id:fureaimama:20210809001058j:image

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「チケットを購入せずにパーティーに参加する

 いわゆる『パーティーもぐり』のさ。

 あんなやり方じゃダメだよ。嘘が下手だね」

「私、何をやらせてもダメな人間で…。もう、

 どうしようもないんです」

「最初から、うまくはいかないよ」

「連れだなんて…嘘ついてくれて、ありがとう

 ございます。でも、どうして助けてくれたん

 ですか」

「仕事上、必要だから仕方なく出席したけれど

 ここのパーティーは嫌いでね。つまり、僕に

 とっても、今日は、ついてない日という訳。

 助け合おうよ。シャンパンはどうかな?君は

 未成年?」

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「二十歳は過ぎてますけど…」

「じゃあ、無事にパーティーに潜り込めた事を

 祝して、乾杯しよう…隠れて!」

「え?」

「そのカーテンと柱の陰に、早く、早く」

「え…?」

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「しーっ」

「…」

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「もう、大丈夫。出てきて息をしてもいいよ。

 あやうく見つかる所だった」

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「まずい!また、戻ってきた。彫像の陰に…。

 早く隠れるんだ」

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「あなたは『パーティーもぐり』じゃないんで

 ですよね…正規の招待客なのに…その…隠れ

 てるんですか?」

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「僕は、フリージャーナリストで、色々な人に

 会って、話を聞くのが仕事なんだ。

 だから、パーティーに出るのも、大事な事で

 それで、ここにいるんだよ。

 でもねえ…失礼ながら、主催者の、サッシャ 

 バックリー夫人にはね。まあ…何というか、

 見つかりたくないんだ。いや、いずれは挨拶

 しなくちゃいけないんだろうけど…出来る

 限り遅い方がいい。数百人もの招待客で溢れ

 てからなら、夫人も忙しくて、僕にくっつい

 たまま…というワケにもいかなくなるから」

「その人の事…嫌いなんですか?」

「好きではないな」

「どうして?」

「さっきの受付での大騒ぎ…あんな事を起こす

 からだよ。始終、誰かを泣かせてる」

「でも…私がいけないんですもの…上流階級の

 パーティーなんですよね…私は…下層の階級

 ですし、招待もされてないんですから…」

「僕だってそうだよ。貧乏ジャーナリストで、

 それ以上でも以下でもない。上流紳士なんか

 じゃないけれど、もし、そうだとしても、

 こんなパーティーは開かないなあ。誰であろ

 うと、人を追い返すようなパーティーはね」

「追い返される方が、いけないんです…」

「そうかな…」

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「あそこのテーブルに座る?彫像の陰になるし

 見つからないかもしれない」

「はあ…」

「じゃあ、改めて、何を飲む?シャンパン?

 レモネード?」

「実はあの…お酒はダメなんです…お腹が空いて

 その…空っぽなんで…出来れば、その、なんか

 食べてからが…」

「そうなんだ。気がつかなくてごめんね。 

 バイキング形式だから、好きな物を取ってお 

 いで。悪いけど、僕の分もお願いできるかな

 隠れていたいから。助けてくれる?」

「あの、あの、長いテーブルの上、全部、料理

 なんですね…すごい…食べ物の山だわ…。私、

 食べていいんですか?主催者に見つかったら

 マズイのは、私だって同じです。叩き出され

 るかもしれないし…」

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「本当に、僕達は、妙な状況になってるね。

 でも、僕達のせいではないよ。パーティー

 方がおかしいんだ。見つかったら、仕方がな

 いからね。僕と一緒だと言えばいいよ。

 大丈夫。安心して、何でも取っておいで」

「ありがとうございます…行ってきます」f:id:fureaimama:20210809001311j:image
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「お腹は落ち着いた?」

「ええ…まあ…」

「でも、思っていたより、食べなかったね。

 腹ペコに見えたけど…足りたの?」

「胃が…縮んでしまったみたいで…あまり入らな

 くて…」

「そうか…後で、またトライしてみるといい。

 ところで、どうして、『パーティーもぐり』

 なんて、しようとしたの?」

「え?」


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「スリルがあるから、とか、面白いからとか、

 そんな理由だとは思えなくてね」

「理由なんかありません…たまたま、この

 ホテルの前を通りかかったら、いい匂いがし

 て…調理場から、それは美味しそうな…

 だから、覗いてみたら、パーティーの案内板

 が立っていたから…フラフラッと…それだけ

 なんです。チケット制だなんて、知らなかっ

 たんです。法律違反する気なんて。

 だから、その…あの…それだけなんです」

「法律まで持ち出す事はないよ。僕だって、

 駆け出しの頃は、こうしたパーティーに押し

 駆けては、放り出されたものだよ」

「惨めじゃなかったですか…恥ずかしい…とか」

「いや。一度も、そんな風に思った事はない」f:id:fureaimama:20210731160344j:image

「私は惨めでした…情けないし…」

「正しいやり方を知らないからだよ。

 よし!僕が正式な『もぐり方』を教えてあげ

 よう。今週の金曜日、空いてる?」


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「いえ…あの…もう、いいんです。二度と

 『パーティーもぐり』なんてしません。

 しませんから、もう…その…いいんです」

「まずい。夫人がこっちに来そうだ。今度こそ

 捕まってしまう。ジニー、何とか誤魔化して

 くれない?」

「無理です…あの…無理、私には…どうしたら

 いいのか、わかりません…」

「…夫人に捕まってしまったら、ミイラか化石

 になるまで、離してもらえないよ…」

「だからって…そんな…何と言えばいいのか、

 わからないんです」

「仕方ない。逃げよう」

「お仕事でいらしたのに」

「そうだけど、僕の仕事は、臨機応変なんだ。

 大丈夫。君は残ってもいいんだよ」

「一緒に行きます…ごちそうさまでした」

「お礼はいらないよ。僕が用意したんじゃない

 からね」

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「ジニー、あっちを見てごらん。綺麗な景色

 だね」

「ええ…そうですね」
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「川向こうに、観覧車が見える?小さな遊園地

 があるんだ。一緒に行かない?」

「いいえ…その…私、その…お金を持ってきてな

 いので…いいです」

「僕が払うから。あの遊園地は、さほど高くな

 いんだ。楽しいよ。君に必要なものだ」

「いえ、別に…必要ないですよ。もう…これで

 失礼します…」
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「ジニー。君は、パーティーで嫌な思いをした

 し、僕みたいな変なヤツに出会うし、まだ、

 お腹は空いたままだし、このまま家に帰って

 も、モヤモヤするよ、きっと」

「もう、ずいぶん長い間…遊園地なんて来てま

 せん…」

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「じゃあ、ぜひ、ご招待したいな。パーティー

 より、あちらに。気取った人も、君を見張る

 人もいないよ。

 ジェットコースターに乗って、ゲームで景品  

 を取って、ホットドッグにかき氷をごちそう

 するよ。それなら、きっと美味しく食べられ

 るから。ね?いかがですか?」

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「え…ええ…本当は、すごく行きたいです…。

 実は…遊園地なんて…生まれて初めてなんで

 す」

「それは、とても良くない事だ。

 そんな事があっては、いけないんだよ。

 誰だって、一度は遊園地に行かなくちゃ。

 元気を出して、ジニー。きっと何もかも、

 うまくいく日がくるからね」

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「サンディじゃない?!キャーッ、素敵」

「リン!それにサマーじゃないか。

 こんな所で会うなんて、驚いたよ」

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「バックリー夫人のパーティーに呼ばれてたん

 だけど、やめたの。退屈そのものだもの。

 こっちの方が楽しいわ」

「僕も、そのクチだよ。こちらは、ジニー。

 パーティーで会ったんだ」

「ハーイ、ジニー!よろしくね。サンディの

 友達は、私達の友達よ!」

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「は…初めまして…あの…」

「私達、これからサマーのパパのヨットで、

 花火大会をするの。二人とも、一緒にどう?

 サンディを一人占めはダメよ、ジニー!」

「す…すみません…あの…私…失礼を…」

「リン。悪いんだけど、今日はジニーと二人で

 遊ぶ約束なんだ。わかるよね?」

「…。」

「頼むから…ね?リン、お願いだよ」

「そっか…わかったわ、サンディ」

「ありがとう、リン」

「その代わり、今度、絶対に会ってよね!

 わかった?いいわね?」

「ああ…わかってるよ。約束するから」

「…じゃあね。私達、もう行くわ。またね、

 ジニー。

 サンディ!約束を破ったら殺すわよ」

「破らないよ」

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「騒がしかったね。びっくりさせて、ごめんよ

 ジニー。今度こそ、楽しく遊ぼうね。

 ただし、その前に、一つだけ。

 金曜日の午後2時。グリーンパークの東端、

 ブランコの横で待ち合わせだよ。

 来るのも来ないのも、まあ、君の自由だが。

 正式な『もぐり方』を、教えてあげる」

「…」

「難しい話は、ここまで。さあ、ジニー。

 まずは、ジェットコースターに行こう」

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中編に続きます。

 

エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasamiです。

よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑦後編


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「これは…一体…えっと…な…何?どうして?

 どうやって?どうなってるんだい?ちょ…

 ちょっと…いや…さっぱり…やっぱり…全然、 

 わからないんだが」

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「どの質問から、答えたらいいの?」

「君に任せる…僕は…その…しばらく混乱中だか

 ら…よろしく」

「これは…恋文。ラブレターとも言うけど」

「僕宛てになってるよ」

「私ね、カントリーフェアで、あの日…初めて

 サンディを見たの。その時はもちろん、名前

 も何も、知らなかったけど…会場にいる間も

 その後もずっと、ずーっと、目が離せなかっ

 たんだよ。

 こんなにハンサムな人、この世にいるんだっ

 て…そう思った!すっごくビックリした!

 背も高いし、スラリと引き締まってて、全身

 丸ごと魅力的だけど…やっぱりね、顔がね。

 ねえ、サンディって…もーう、本当に素敵な

 顔してるよね。超カッコいい。なんかこう、

 古風なさ…甘やかなマスクで…完璧。理想」f:id:fureaimama:20210713112732j:image

「そうかな…自分の顔って、よくわからない

 からね」

「すぐに走って行って、飛びついて、それで、  

 好きです!付き合って下さい!とか…定番の

 告白しようと思ったんだけど、すんでの所で

 思いとどまったんだ。いやいや、メアリー。

 相手の事をもっと知らなくちゃいけない。

 仕事とか、性格とか、ライフスタイルとか。

 まず調べなくちゃいけないぞって」

「それは賢明な判断だね」

「それで、サンディを尾行して…まあ、ご存知

 の通り、一週間、つけまわしたの」

「それは賢明ではないな。

 それから、部屋の不法侵入も良くはない」

「あちこち引っ掻き回したおかげで、フリー・ 

 ジャーナリストだってわかったんだよ。

 あー!やっぱりカッコいいね、サンディ!」f:id:fureaimama:20210713112816j:image

「大好きな仕事だけど、どうかな…カッコいい

 かは…」

「え?仕事の事じゃないよ。今さ、木漏れ日が

 当たってさ、眩しくって、サンディ、顔を

 しかめた。それがカッコいいの」

「顔の事ばっかり言うんだね、メアリー」

「そうだよ。いけない?だって好きなんだもの

 サンディの顔が、大好きなんだもん!」

「そこまではっきり言われると…なんだかね。

 怒れないね。正直…嬉しいな」

「だけど、調査の結果には、絶望しちゃった。 

 サンディ、メチャクチャ知り合いが多いし、

 それは、もちろん良い事だけど…女の友達

 は良くない。ものすごい美人ばっか」

「君だって、素晴らしく美しいよ」

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「そうだよ。だからマズイの、マズイんだっ

 てば。他の子と、代わり映えしないって事

 じゃない。告白したって、絶対、付き合って 

 くれないだろうって、そう思ったんだ」

「それは正しい。僕は、誰とも恋人にはならな

 い。いや、なれないんだ」

「わかってる。すぐに、まあ、なんとなくね、

 わかった。理由は知らないし、聞き出そうと 

 かも思わないよ。何がどうだって、サンディ

 はサンディで、カッコいい事にかわりないん

 だもん。だけど…。

 一週間でも…いや、1ヶ月…やっぱり一年…

 できれば、ずっと…なんなら…」

「メアリー?大丈夫?」

「少しでもいいから、ちょっとの間でいいから

 デートっぽい事がしたかったの。

 アイスクリーム食べたり、プールで泳いだり

 散歩したり…ピクニックしたり…サンディと

 一緒に過ごしたかったの。普通に…楽しく」f:id:fureaimama:20210713112917j:image

「その為に?わざわざ、こんなに手の込んだ事

 をしたのかい?僕と一緒にいたいから?」

「うん、そう」

「…」

「サンディ?」

「あ…ごめん、ごめん。えっと…。

 そう、その…でも、わからないんだ。

 どうやって、クマのお腹に手紙を入れたの?

 タヌキから取り返したのは、いつ?」

「本当に、わからないの?簡単なのに」

「教えて欲しいな。降参するから」

「同じクマがね、実は二つあったんだよ。

 サンディがフェアで貰って、女の子にあげた 

 クマ1号には、何も入ってなかったの。ただ

 の景品。私の物だっていうのはウソ。女の子

 にプレゼントしているのも見てたよ。それで

 計画を思いついたの。

 クマ1号を探す名目で、サンディと毎日、

 会えたら、それで満足だった。実際には

 見つからなくても、どうでも良かった。

 タヌキの手に渡ったのは計算外だったけど、

 でも、登山や、ピクニックが出来たから、

 結果オーライかな。タヌキが盗んだクマ1号

 は、今でも、この山のどこかにいるよ」

「もう一つのクマは?二号かな。どうして現れ

 たの?」

「同じ物を、私が買ったから。サンディも言っ

 てたよね? ショッピングセンターには、同

 じクマが、山のように置いてあるって。

 一つを手に入れて、お腹の中に手紙を埋め

 込んでから、さっきの、あの崖に引っ掛けて

 おいたの。2号は、1号のフリをして、いずれ 

 は、発見されなきゃいけないんだもの。

 サンディに、ラブレターを渡せないからね。

 ただねえ。サンディに怪しまれなきゃいけ

 ないのがね、難しかったな。クマの中身を知

 りたくなるように、もっていかなきゃならな

 かったから。

 ねえ、何でそんな顔するの?」

「え?」

「笑いを噛み殺してるみたいな顔」

「笑いを噛み殺してるからだよ。見事に騙され

 たんだからね。愉快だよ。だけどね、僕は君

 とは、恋人になれないんだ。君のせいじゃ

 ない。僕には…僕には…長い未来が無いんだ。

 過去も無い。君が思うより、傷を負っている

 人間なんだよ」

「関係ないよ!私には、今のサンディしか見え

 ないもん!恋人じゃなくたっていいんだって

 ば!そうでしょ!人間関係って、恋愛だけ

 じゃないよ?お互いに好きでさ、一緒に

 いて楽しいなら、普通に遊びに行ったりして

 もいいはずだよ!友達とか、親戚のお兄さん

 みたいな感覚で、ね?いいでしょ?ね?」

「…君は、素晴らしい子だ。いつだって、

 一生懸命で」

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「じゃ、いい?」

「ダメだと言うべきなんだろう。君の為と

 いうより、僕自身の為にね。君がいつか…

 本当の恋をして、恋人が出来て、離れていっ

 たら、きっと淋しいだろうから…。

 でも、言えないんだ。

 君といると、幸せなんだよ」

「じゃ、いいじゃない。ねえ、今週末も遊ぼう

 よ。なんか、面白いイベントない?」

「そうだ…これなんかどうかな?確か、出かけ

 に、ポストから出して…ああ、これだ」

「招待状?すっごーい!金ぴかだね。ガーデン

 パーティーって何?ポロって?」

「馬に乗って、スティックでボールを打ち合う

 ゲームだ。試合を見ながら、芝生の上で

 ピクニックをする…まあ、そんなパーティー

 だね。興味も無いパーティーに、やたら招待

 されるもんだ。でも、君となら楽しいかも

 しれない」

「行きたい!行きたい!」

「じゃあ、その招待状をご両親に見せて、許可

 をもらうんだよ。歴史があるパーティーだか

 ら、あまり心配されないだろう。当日は車で

 迎えに行って、僕がご両親に挨拶しようね」

「サンディ、車なんか無いじゃない」

「送迎車が来てくれるんだ」

「送迎バスじゃなく?すごーい!友達に自慢

 しよう。学校中に言い触らそうっと」

「やめてくれ、頼むから。すぐにドレスを届け

 させるからね」

「高価いの?うち、お金持ちじゃないよ」

「タダだよ。でも、条件がある。パーティー

 誰かにドレスの話を振られたら、ダイナの店

 で作ったと、宣伝してくれ」

「ダイナって?誰?」

「ドレス・デザイナーを目指す友人だ。とても

 大事な人なんだよ。有名なパーティーで、君

 のような、美しい人にドレスを着てもらうの

 が、一番の宣伝になるからね」

「サンディって、気張らないジャーナリストで

 無類のお人好しに見えるけど、そうじゃない

 んだね」

「嫌いになった?」

「すっごく好き!」

「僕も君が大好きだよ。さ、もうお帰り」

「ママに、爪磨いてもらわなきゃ。パーティー

 なんて、ゴージャスな大人のパーティーなん 

 て初めて!ヒヒーヒヒヒ」

「恐いよ」

「じゃね!バイバイ!」

「あっ…ちょっと待って、メアリー」

「なあに?」

「君は、なぜ泣いたんだい?ピクニックの時」

「だって…だって…もう、いいよ」

「聞かせて欲しいんだ、どうしても」

「まどろんでいるサンディを見てて…あんまり

 素敵で…大好きって思って…そうしたら、

 なんか涙が出てきた」

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「…そ…そうか…。じゃ、じゃあ、また、週末に

 ね」

「うん!私、頑張って、うんと綺麗になってく

 ね、サンディ。」

「メアリー。これは本気だよ」

「何が?」

「パーティー会場がどれだけ広く、どれだけ

 沢山の貴婦人が来ようとも、誰一人、君に

 かなうものか」

「キャーッ、サンディ!ここで、ちょっとキス

 してみない?」

「…ダメだ。さあ、お帰り」

「ケチなの。週末まで、ずっと膨れっ面してて

 やるから。それで、パーティーでは、うんと

 楽しく過ごすんだ!バイバイ!」

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当日…。

「実に美しいね、メアリー。素晴らしい」


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「サンディも!ひーっ!カッコいい!その格好

 なんて呼ぶの?」

「これかい?フロックというんだ」

「素敵…でも、ちょっと頭にきた」

「何が?」

「サンディは、私の人だよ。なのに、なんで、

 パパとママが、サンディにべったりになっ

 ちゃうの?」

「君のご両親は、とてもいい方達だね。さあ、

 車にお乗り」

「キャー!この車、すごい長い!リムジンとか

 いうの?ねえ、そうなの?」

「そうだね」

「待って待って!写真を撮らせて!友達全員と

 いじめっ子に送りつけるから」

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「やめてくれ」

「嫌だ…どうしよう!どうしたらいい?すごく

 緊張してきちゃったよ!ど、ど、ど、どうし 

 よう…」

「え?今?突然すぎやしない?」

「だって、上流の人ばっかり集まるパーティー

 なんでしょ?私、マナーなんて、何一つわか

 らないよ!嫌だよ、恐い。どうしよう…

 マナー教えて!」

「そんな必要ないよ」

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「バカにされちゃう」

「君が逆立ちしながら、鼻からお茶を啜った

 所で、地球が壊れる訳じゃない。ただの、

 気取ったパーティーに過ぎないんだよ」

「そんなの、わかってるよ!私が心配してるの

 は、サンディに恥をかかせちゃう事だよ。

 サンディが、私を恥ずかしく思う事だよ」

「…」

「サンディ?」
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「君は、本当に、僕が好きなのかい?」

「大好き」

「僕を素敵だと思ってるの?」

「もちろんだよ。だからこそ…」

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「ならば、さっきの言葉は、取り消してもらい

 たい。自分がエスコートしている女性が何を

 しようと…恥ずかしいと思うような、僕が

 そんな人間だと考えるなら、それは、僕に

 対する侮辱だよ」

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「そうだよね…サンディはそんな人じゃないよ

 ね。ごめんね、サンディ」

「ありのままの君が大好きだから、一緒にいた

 いんだよ。これからも、色々、遊びに行こう

 ね、メアリー」

「うん!」

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「もう行くかね、サンディ」

「お待たせしてます、ワレンさん。ああ、こち

 らは、運転してくれるワレンさん。彼女は

 メアリーです」

「初めまして、こんにちは!ワレンさん、少し

 だけ待ってて貰っていいでしょ?どうしても

 写真が欲しいんだもの」

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「わしが撮ってやろう」

「ありがとう!」

「勘弁して下さいよ…」

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「何十枚、撮る気なんだ、メアリー。

 早く乗りたまえ」

「お待たせ!キャー!この車、普通の中身じゃ

 ないんだね。すごーい、シャンパンが置いて

 あるよ、ピンクだよ、サンディ。飲んでいい

 よね?」

「ダメだ。君はジュースだよ、メアリー。とこ

 ろで、ワレンさん。今、スコアはどれくらい

 でしたかね?」

「35対17で、あんたは負け越し中」

「くっ…いつまでも負けてはいませんよ」

「なんの話?」

「僕とワレンさんは、釣り仲間なんだ。毎回、

 魚の数で勝負してる。重さでは、僕が勝って

 いるんだよ、メアリー」

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「嘘はいかんな、サンディ」

「ワレンさんって、釣りがうまいの?」

「名人だよ。だから、負けても恥ずかしくない

 はずだ」

「じゃあ、わたくし、勝負を申し込みますこと

 よ、ワレンさん。このメアリー、釣りなら誰

 にも負けませんですますの、ホホホ」

「え?そうなの?」

「あなたは、記録係でもやっていなさいな、

 サンディ」


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「よーし。受けて立とう。本物の勝負をしたい

 と思っていたのでな」

「手加減しないよ、ワレンさん!」

「…本当に、良いお嬢さんだな、サンディ」

「僕もそう思います」

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次回は、バービー・ジニーさんのお話です。

お楽しみに。

 

エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasamiです。

覗いてみて下さい。

 

 

あなたのバービーは、何を語る?⑦中編


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「な…なんで?どうして…そんな風に思うの?」

「もしかしたら…と思って、言ってみただけだ

 なんだよ。でも、否定しなかったね」

「別に。何も入ってない」

「今さら遅いよ。さあ、白状したまえ」

「どうして、バレたのかな」

「なぜ、君が、あのクマに執着するのか、色々

 考えたんだ。でも、どうにもわからなくてね

 あのぬいぐるみは、新品だった。長年、大切

 にしてきて、思い入れがある…という訳じゃ

 なさそうだ。だったら、君はぬいぐるみ・

 コレクターなのか?これも、違う。あのクマ

 は、大量生産品で、ショッピングセンターに

 は、同じ物が山になってる。

 なら、大事な人からの、プレゼントなのか?

 例えば、好きな人からの…とか。だけど、君

 の行動を見ていると、どうもね。それらしく

 ないような…」

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「ひどい!ひどいよ!」

「そんなに叫ぶほど、変なこと言ったかな」

「別に!でも、サンディに言われたくない」

「はい?いつも通り、よくわからないんだが…

 まあ、いいか。

 とにかく、あのタヌキ…違う!クマには、何

 か秘密があるんだ。そうだね?」

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「今は、まだ知らなくていいよ」

「いやいや、ぜひ、知りたいんだけど。

 なにしろ、あのクマ…じゃなかった、タヌキ

 の巣を、探す羽目に陥ってるんだから。

 まさか…違法な物じゃないだろうね」

「しょうがないなあ。見つかったら、中身を

 見せてあげる。でも、サンディだけに、

 特別に見せるんだからね。他の人には、絶対

 絶対、秘密だよ」

「今の段階では、約束はできない。まだ、君は

 質問に答えてないからね。違法な物かどうか

 聞かないと」

「大丈夫、大丈夫」

「良かった。ちなみにメアリー。君は、何が

 違法で、何が合法だか、ちゃんと知っている

 んだろうね?」

「あんまり、詳しくない」

「うーん…」

「悩む事ないよ、サンディ。クマが見つかれば

 全部、解決する事じゃない。明日から、この

 山、一緒に捜索できるよね?いいよね?

 私、山が好きなんだ。涼しいし、緑を見てい

 ると…草木に埋もれていると…悲しみや辛さや

 苦しみも、すうっと消えていくから。

 サンディはどう?」

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「僕も好きだよ。自然の中にいるのは…大好き

 だよ」

「良かった、嬉しい!じゃあ、明日ね!」

「ああ…明日ね」


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翌日…。

 

「彼女は嘘つきだ」

「私、嘘つきじゃないよ」

「君の事じゃない。ヘレンさん…彼女は嘘つき 

 だ。裏山だなんて…ここはK2じゃないか」

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「大袈裟だなあ、なんてことないよ」

「あー!頼むから気をつけてくれ、メアリー!

 こんな崖、落っこちたら大変だよ。骨折は

 免れない」 

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「余裕だよ。ホラホラ、こんな事しちゃう」

「やめなさい、メアリー!怪我するよ」


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「心配性なんだね、サンディ」

「君は下が見えないのか?目が眩む高さなんだ

 ぞ!」

「そう?」

「見なくていい!危ない!」

「喚いてないで、早くおいでよ」

「そう言われても…なかなか…ハアハア」

「遅いなあ。山登り、下手なの?」

「今、下手だとわかったところ」


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「あそこ、なんか怪しくない?タヌキが住んで

 そうな気配」

カモシカ以外…ハアハア…誰も住めないと思う

 けど…ハアハア」

「違う違う、もっと上だよ、崖の頂上」

「頂上まで行くのかい?」

「当然。行かないなら、なんで登ってるのよ」

「まあ、そうだね…」


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「サ…サンディー!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。この木の根が

 邪魔で…」

「待てないよ!ここまで来ちゃった!高いよ」

「良かったね」

「怖いよー!高いぃ!怖いぃ!動けないぃ!」

「は?はい?今ごろ?今ごろ、なんで怖がる

 の?」


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「いつ怖がったって、いいじゃない!」

「まあね。それはそうだ。そのまま、じっとし

 ておいで。すぐに行くから」

「ヒィーン!」

「馬みたいな声、出さなくても大丈夫だよ。

 ほら、着いたから。手を出して。すぐ上に、

 平らな場所がある。引っ張り上げるよ。

 そら、もう大丈夫、大丈夫」


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「ありがと。やった!サンディと手を繋げた。

 いざとなると、すごい勢いで登れるんだね。

 かっこいい!」

「君って子は…本当は怖がってなかったね」

「うん!」

「コラ!」

「へっちゃらだもん!」

「崖の上で、走らない!」


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「この穴、怪しいと思ったんだけどなあ。何も

 いないね」


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「今日は、もう下山しよう。続きは明日ね」

「えー!もう?」

「日が暮れる前にね。無理は禁物だよ」


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「疲れた?」

「君と違って、おじさんだからね」

「まだ、二十代でしょ」

「たぶん…二十代後半か、三十代前半。そんな

 ところかな」

「どういう事?サンディ、自分の年、わからな

 いの?」

「え?ああ…少し事情があってね。はっきりし 

 ないんだ」

「…まあ、よくある事だよ。気にしないで」

「よくある事ではないだろうけど。確かに 

 あまり気にしてないな」

「明日も絶対に来ようね!」

「見つかるまで、来ようね」

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一週間後…。

「何が裏山だ。ハア…ここはエベレストだ」

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「…。」

「どうしたの、メアリー。珍しく大人しいね」

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「サンディ…」

「疲れたのかい?」

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「お腹、空いちゃった…」

「そう言うだろうと思っていたんだ。オヤツの

 時間だものね」

「恥ずかしいけど、お腹が鳴っちゃう」

「なにも恥ずかしくない。育ち盛りなんだから

 たくさん食べなくちゃ。よし、この崖を登り

 きったら、ピクニックしよう。食べ物、沢山 

 持ってきたよ」

「それで、そんなに大きなリュック、持ってた

 んだね。ああ…サンディ、最高!」

「ちょ…速すぎるよ、待ってくれ」

「早く、早く!私の手につかまって!」f:id:fureaimama:20210620115735j:image

「サンディ。私、今、すごく幸せ」

「そうだね。風が吹き抜ける度に、木漏れ日が

 チラチラ…きれいだね。草の香りも甘やかで

 本当に気持ちいいね…」


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「うーん…あ…あれ?まずい、ついウトウトして

 しまった。メアリー?わっ!」

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「突然、登場しないでくれたまえ。

 至近距離で驚いたよ。ごめんね。長く眠って

 いたかな?」

「うえーん!」

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「ど、どうしたの?なんで、泣くんだい?

 何か怖い事でもあった?」

「違うぅ!」

「違うんだ…じゃあ、淋しかったのかい?」

「ちーがーうー!びえーん!」

「ああ…それも違う…」

「サンディ…ちょっとだけ、抱っこして」

「いいとも、おいで。かわいそうに、どうした

 んだい…よしよし…」

「ごめんね、サンディ」

「なぜ、謝るの?」

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「振り回しちゃって、ごめん。今日は必ず、

 クマが見つかるよ。約束する。

 そうしたら、もう、私に付き合わなくてすむ

 から。ごめん、ごめんなさい!」

「謝らなくていいんだよ。それは僕だって、

 最初は面食らったさ。それは認める。

 けれど、君と過ごしている時間はね、本当に

 楽しいんだよ、メアリー。今日だってね。

 だから、いいんだよ」

「本当に?楽しい?」

「クマの中に、何が入っていようともね」

「クマの中身を見たら、きっと怒るよ」  

「かもしれないな。それでも、楽しかった事実

 が変わるわけじゃない」

「そうだね。こっちに来て、サンディ。まっす

 ぐこの先に、クマがある気がする」

「なぜ、わかるんだい?」

「もうすぐ見つかるべき時だから」

「???」

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「ほら、あったよ、サンディ!」

「また、なんて所にひっかかってるんだ!崖ば

 かり、なぜ、あるんだ?」

「やっと見つけたね!」

「君は知っていたみたいだけどね。喜ぶのは

 まだ早い。下までどれくらいの高さがある 

 ことやら…。僕が行くから、君はここで

 待っているんだ…って、メアリー!」

「大丈夫、大丈夫。私、木登り上手だもん」

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「ああ…もう…気をつけてくれよ、メアリー」

「取れた!」

「ああ…そ…それは、おめでとう…」
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「やったあ!」

「すごいね、メアリー。君の運動神経は、大し

 たものだ。悪巧みの方もね」

「悪巧みなんか、しないもん」

「それはどうかな。ここにあることが、わかっ

 ていたんだよね。どういう事か、説明願いた

 いな」

「どうしようかな…」

「…」

「わかったってば。恐い顔もかっこいいから、

 もう少し見ていたいけど…」

「中を見せたまえ」

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「ドキドキしちゃうんだもの」

「僕もドキドキしてるんだよ、メアリー。何が

 なんだか、さっぱりわからないんだから」

「ちゃんと、カッター持ってきたよ。今、クマ

 のお腹を開けるから…でも、どうしよう?

 中身みても、イラッとしないでね」

「早く見せてくれないと、今、イラッとくるか

 もしれないよ」

「ジャジャーン!これが中身」

「これは…な…な…何?」

「開いてみて!」

「な…何がなんだか…」

 

 

後編に続きます。


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エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasamiです。

よろしくお願いいたします。



 

 

 

 

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑦前編

 

「出てきたまえ」

「…。」

「茂みに隠れてるおじょうさん。君に言ってい

 るんだよ。出てきなさい」

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「バレちゃった?でも、良かったかも。ここ、

 蚊がすごいの。痒くてたまらない」 

「それは気の毒に。これを使ってみてごらん」

「何?」

「虫刺されの薬だよ」

「ありがとう。ふーっ。すうっとして、気持ち

 いい!」

「それはよかった。ちょっと、じっとしてて」

「ええっ?」

「もう取れたから言うんだけどね。髪に毛虫が

 ついてたよ」

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「すごいドキドキした。何?何?って思った」

「何?と思っているのは、僕も同じだ。                

 君ね。この一週間、ずっと僕を尾行している

 けど、一体、何が狙いなのかな?僕にして

 欲しい事でもあるの?」

「うん、あるの」

「立ち話も何だから、座って話そう。

 僕はサンディ。君の名前は?」

「メアリー。

 ねえ、サンディってさ、一週間前に、隣の郡

 の、カントリーフェアに行ったでしょ?」

「話、もう始まったんだね。

 聞き出すのに苦労すると思っていたのに、

 意外だな。確かに、行ったよ」


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「暴れ馬レースで一等になってたよね。

 すごい、本当に。毎年、怪我人続出のゲーム

 なのに」

「運が良かっただけだよ」

「そうは思えないなあ。身体が乗馬を覚えてい

 る感じだったよ。まあ、それはともかく、

 賞品にさ、大きなクマのぬいぐるみ、貰った

 でしょ。本当はトロフィーだったんだけど、

 フェア主催者が失くしちゃったんだよ。普段

 はパン屋さんで、時々、フェアの会長さんを

 するからね。私のパパとママ」

「二人で?」

「ママもパパも、二人一緒でなきゃ、何もしな

 いんだよ。その上、ミスまでしちゃって。

 あのクマね、本当は私の物なの。

 手違いで、景品になったけど…私のだから、

 返して欲しいワケ」

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「それだけの事なら、何もつけ回す必要は無い

 よね?一週間も」

「黙って取り返す方がいいと思って、隙を狙っ 

 てたんだよ。

 一度、人にあげた物、返してって言いにくい

 じゃない?」

「なるほど…いや、何だかよくわからないんだ

 けど、まあ…いいか。

 その、出来れば、もちろん、クマは君に返し

 てあげたいよ。でも、無理なんだ。

 僕の手元には、もう無いんだ」

「知ってるってば、そんなの。あなたの部屋は  

 調べたから」

「…ちょっと待った、メアリー。

 君は、僕の部屋に、無断で入ったのかい?」

「サンディってさ、出かける時、よく鍵を掛け

 忘れるよね。あれ、あんまり良くないと思う

 よ。もっと気をつけなくちゃダメ」

「…。」

「ホラ、泥棒とか…さ、わかるでしょ」

「…次から気をつけるよ」

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「あのクマ、どうしたの?返して」

「そんなに大事な物だとは知らなかったんだ」

「言い訳はいいから。クマ、どこにやったの?

 白状しなさいよ」

「なんで、責められてるんだろう…。

 クマはね、会場にいた、小さな女の子にあげ

 ちゃったんだ。キャンディ・アップルを落と

 して、それで泣いていたから」

「何歳ぐらいの子?」

「えーと、3歳くらいかな」

「名前は?住所は?取り返しに行くんだから。

 大丈夫、代わりのぬいぐるみを、ちゃんと

 その子にはあげるよ」

「代替え品とは、いいプランだ。こうしたら

 どうかな?今から、ショッピングセンターに

 行って、君に好きなぬいぐるみを買ってあげ

 る、っていうのは」

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「その子の身元は?」

「あのクマでなきゃ、嫌なんだね。気にしなく

 てもいいよ。ダメ元の提案だったんだ。

 その子の事だけど、僕は全く何も知らない」

「一緒に探して」

「クマを?」

「女の子を探すの!顔を知ってるのはサンディ 

 だけなんだから」

「いや、その、あの、君…君の方が向いている

 んじゃないかな、人探しは。

 地元の人だし、か…会長の娘だし。特徴を

 説明すれば、見当がつくよね。似顔絵を描い

 てもいい」

「会長はボランティアなんだよ。私には、その

 女の子が誰かなんて、わからない。小さい子

 に興味ないし。似顔絵、上手なの?」

「あまり自信がない…」

「あの地域の家を、かたっぱしらから訪ねる

 つもり。人に会ったら聞き込みする。今から

 行こうよ」

「え…今すぐ?」

「午後は何も予定は無いんでしょ」

「なんで知ってるんだい?」

「家捜しした時、スケジュール表も見たの」

「勝手に覗いたらダメだ。同じことされたら

 嫌なはずだよ」

「別に嫌じゃないけど」

「そう言われると…お説教しにくいものだね」

「バスが来た。あれで行こうよ。大丈夫、クマ

 を失くした事は、もう責めないから」

「それはどうも。ありがとう」

 

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「なかなか、うまくいかないね。期待していた

 ほど、小さな町じゃないし、人も多い。

 怪しまれるばかりだ」

「暑いね、サンディ。疲れちゃった」

「すみません、奥さん。ある女の子を探してま

 して。特徴は…」

「サンディったら!待ってよ」

「はあ…ご存知ないですか…お手数をお掛けし

 ました。え?手作りチーズ体験?いいですね

 今度、お尋ねします…ありがとう、奥さん。

 さようなら…」

「サンディ!」

「邪魔したらダメだよ、メアリー」

「疲れた」

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「いい子だからね、もう少し頑張るんだ」

「あそこにアイスクリーム屋さんがあるね」

「…。」

「私、アイスクリーム大好き」

「…わかった、わかったよ。ほら、小銭がある 

 から、買っておいで」

「一緒に買いに行こ」

「僕は、ここで聞き込みを続けてるから…」

「一緒じゃなきゃ、いや」

「もう大きいんだから、一人で行けるよ」

「16歳だよ。サンディと一緒に食べたいんだも

 の。一人で食べたって、美味しくないよ、そ

 うでしょ」

「クマを見つけるのが先だろう?」

「アイスクリーム…」

「わかった、わかったから。一緒に行こう。

 何のフレーバーがいい?」

「イチゴ!いや…バニラ?やっぱりサイダー!

 それともチョコ…でなかったらチョコチップ

 かと…キャンディ味も捨てがたし…」

「それは、ぜんぶ欲しいという意味かな」

「そうじゃないけど、そういう事にする」

「ハハハ…」


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「結局、今日は手掛かり無しだったね」

「もう、帰っちゃうの?」

「夕暮れだ。すぐ暗くなる。早くお帰り。明日

 は、学校があるんだろ」

「3時には終わるから、広場で待ち合わせね」

「明日は、一軒一軒、家を尋ねた方がいいね。

 あの子は普段着にサンダル履きだったし、

 ベビーカーもなかった。会場の近くに住んで

 る可能性が高い」

「車で来ていたのかもしれないよ」

「それにしては、お母さんの手荷物が多かった

 からね。タオルだの、オムツだの、着替えだ

 の、籠バックから覗いていた。車があれば、 

 車に置いておきそうなものまで」

「へえ…」

「それに、今、思い出したんだ。立ち去る間際

 目の隅をかすめたんだよ。その子のお母さん

 は、コブタのコンテストの審査員に挨拶して   

 いた気がする。知り合いなんだ。やはり、

 近場の人だよ」

「サンディ…」

「どうしたの?」

「サンディって、本当に良い人なんだね。私の

 為なんでしょ…そんなに一生懸命になってく 

 れて」

「クマの為では無いな、確かに」

「やっぱり、迷惑?」

「仕事は、君と同じく3時に終わらせるから。

 大丈夫、心配しないで。きっと見つかるよ」

「なんで、そんなに親身になれるの?」

「君にとって、大切な物みたいだからね」

「そう…理由は言えないけど、とても大事」

「それなら、僕も頑張れる。さあ、お帰り」

「サンディ…」

「どうしたの?泣きそうな顔して」

「なんでもない。明日ね!」

「じゃあね…」

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「サンディ!こっち、こっち…大丈夫?」

「心配かけて、すまない。僕は暑さに弱くてね

 すぐにグッタリしてしまうんだよ」

「あそこまで、歩ける?」

「大丈夫、そこまで酷くはないよ」

「この噴水、地下水を使ってるから、真夏でも

 ヒンヤリしているの。縁に座るといいよ」

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「水飛沫が心地いいね。こうしてると、夏も

 悪くないと、そう思えるね」

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「だったら…えーいっ!」

バッシャーン!

「ゲホッ、ゴホッ、いきなり突き落とすなんて

 卑怯だよ、メアリー!君も、道連れだっ」

「キャア!」

バッシャーン!

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「水の中、気持ちいいね、サンディ!上を見て

 虹が、かかってるよ!」

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「噴水から、出なさい!」

「大変!会長さんだ、怒られるう!」

「え?君のパパ?」

「違う、違う、噴水の会長さん」

「噴水会長もいるのか…」

「こっちに走ってくるよ、逃げなきゃ!」


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「この噴水、もしかして立ち入り禁止タイプの

 噴水だったのかい?メアリー、君ったら…」

「早く出て、サンディ!走って!話は後!」

「了解」

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「逃げきれたね、うるさいよ、噴水会長は」

「今、気がついて、いささか手遅れなんだけど

 ね、メアリー。こんなにずぶ濡れで、どうす

 れば、人探しの聞き込みが出来るんだい?

 怪しすぎて、誰も答えてくれないよ」

「確かに。目立ちすぎだね、街中じゃ」

「まてよ…それを利用する手もあるね」

「今日は、諦めようよ」

「いや…このまま街の広場のど真ん中で、座っ

 ていよう」

「注目の的になっちゃうよ」

「だから、いいんだ。注目してくる人の中に、

 クマの持ち主の女の子や、そのお母さんが

 いるかもしれない」

「それは、ちょっと嫌なやり方だな」

「誰のせいなんだ、メアリー」

「だって、もしさ、友達とかが、通りかかって

 見られたら…そうか、逆にいいかも…うん、

 いいね、そのやり方」

「…。」

「そうしよ、サンディ」

「君は、興味深い子だね、メアリー。僕は

 君が何を考えているのか、いまいち、わから

 ないんだけど」

「これから、解り合えるよ、きっと」

「…まあ…まあね」

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「みんな、ジロジロ見てくよ」

「僕達が探し歩くよりいいよ。のんびり座って

 いられるしね」

「あら?あなた…この前、娘にぬいぐるみを

 下さった方じゃ、ありません?」


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「ウソ…!サンディの言った通りになっちゃっ

 たよ」

「こんにちわ、奥さん。またお会いできて、

 嬉しいですよ、本当に。僕はサンディと

 いいます」

「私、ヘレンと言いますの。どうなさいました

 の?ずぶ濡れですわね」

「うっかり噴水に落ちまして」

「うちにお寄りになりません?乾かさないと」

「ご親切に、ありがとうございます。でも、  

 大丈夫です。今日は暑いので、すぐ乾きます

「この間は、親切にしていただいて…」

「とんでもない。喜んでいただければ、それで

 いいんです。娘さんは、とても良い子ですね

 キチンとお礼が言えるなんて、驚きました。

 ところで、ヘレンさん。あのクマは、まだ

 お手元にありますか?」

「それが…娘は、あのクマが気に入って、どこ

 にでも連れ回して…それがいけなかったんで

 すわね。ピクニックに行った時、盗られて

 しまったんですの」

「そんなの困るよ!」

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「失礼。こちらはメアリーさんです」

「ごめんなさいね」

「ひどいよ!」

「少し、黙っておいでね、メアリー。

 誰に盗られたか、わかりますか?」

「タヌキです」

「え?タ…タ…ええっ?」

「裏山の…タヌキです」

「タヌキ…」

「後ろに山が見えますでしょ。あそこに住んで

 おりますタヌキです」

「タヌキ…」

「本当に、申し訳ないですわね」

「いや…いやいや、お気になさらないで下さい

 タ…タヌキじゃ、その、あの、どうしようも

 ありません…からね」

「お詫びと言ってはなんですが、サンディ。

 来月、ここでアップルパイ・コンテストが

 ありますの。是非、来ていただきたいわ。

 この間は、とても楽しくお話できました。

 ゆっくりまた、お会いしたいですから」

「ありがとうございます。楽しみにしてます」

「では、その時にまたね。さようなら。

 ああ…メアリーさんも、ぜひ、いらしてね」

「さようなら」

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「私、付け足しだったよね」

「え?ああ…親切な人だね…」

「大丈夫?サンディ」

「ちょっとショックだ」

「だよね…」

「しかし!仕方がない。無いものは無い。

 ショッピングセンターに行こうか」

「は?」

「どれでも、好きなぬいぐるみ、買ってあげる

 からね」

「どうして、そういう発想になるわけ?」

「僕も、不思議なんだ。なぜ、僕が買う羽目

 になるのかな…と」

「違う!裏山を捜索してからでしょ!」

「な…後ろを見たまえ、メアリー。裏山という

 と、なんだか丘みたいなイメージがあるけど

 現実は厳しい。明らかに、裏山は山だ」


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「何を言ってるのか、わからない。サンディは

 女の子とお母さんを、一緒に探してくれた

 じゃない?同じだよ、タヌキを探すのも」

「同じじゃない。タヌキじゃなく、クマを探す

 んだ」

「たいして違わないよ。同じ事だもん」

「同じじゃない」

「サンディ。パニックになってる?」

「かなりね」

「一緒に探してくれなきゃ、ダメ」

「…。」

「お願い!大事な事でなきゃ、頼まないよ」

「何が入っているんだ?」

「え?」

「あのクマだよ、メアリー。中に何が入って

 いるんだい?嘘を言っては、いけないよ」

 

中編に続きます。

 

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 よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑥後編

 

「サンディ!やっぱり来てくれたんだね。

 あなただけに話があるの。すぐに、私と外に

 来て!あそこの公園で話そうよ」

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「ちょっと待った、イーヴィ。ダイナさんに、

 お礼は?匿ってもらったんだよ、君は」

「ありがと!」

「ちょ…もう行ってしまった。まるで台風だ」

「若いんですわよ」

「昨日は、本当にありがとう、ダイナさん。

 助かりました。でも、申し訳なかったですね

 大変だったでしょう?」

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「あれで、とてもお行儀が良かったんですのよ

 あなたの顔を見て、苛立ったんでしょう」

「僕は、あの子に何もしていませんよ」

「いいえ、してますわよ、サンディ。今だって

 あの子は、すぐ来てと言ったのに、あなた、

 こうして私と話をしてますでしょう?」

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「数分間だけじゃないですか。でも、そういう

 事なら、仕方ないですね。それじゃあ、本当

 にありがとう、ダイナさん。今度、食事でも

 ご一緒しましょう」

「ひどい方!」

「え?」

「もう行ってしまうなんて、意地悪ですわ」

「でも、あなたがおっしゃったんですよ。すぐ

 イーヴィを追いかけなさい、と…」

「私は、あなたが人を怒らせがちな理由を、

 説明しただけですわ。怒らせておけばいいん

 ですのよ」

「そして、あなたも怒っていらっしゃる?」

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「私達が、一緒に食事したのは、二週間と3日

 も前ですのよ」

「お互い、仕事が忙しかったからでしょう」

「あなたにしては、ひどく馬鹿げた言い草です

 わ。どんな時でも、人は食べますわよ」

「僕が言いたいのはですね…いや、止めときま

 しょう」

「なぜ、止めるんですの」

「言えば言うほど、困った展開になりそうです

 からね」

「私達、お友達ですのに…寂しいですわ」

「あなたと食事したい人は、沢山いますよ」

「だから、何ですの?サンディ…体調は大丈夫

 です?言ってる事が変ですわ」

「確かに、マズイ事ばかり言いましたね。

 じゃあ、六日後『リーラの店』で、お食事し

 ませんか」

「六日も後ですの?それじゃあ、私達、1ヶ月

 も、会えない事になってしまいますわ!」

「その計算は、あまり正確とは言えませんよ」

「それに、あのレストランは、私、嫌いです」

「まだ行ってないでしょう。六日後が、オープ

 ニング・パーティーなんですから。実は、前

 からお誘いするつもりだったんですよ」

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「あそこのメニューは、あなたがお作りになっ

 たんですってね」

「よく知ってますね…。オーナーが友人なんで

 す。メニュー作成を手伝っただけですよ」

「私以外のお友達とは、お食事なさるのね」

「食事したわけじゃ、ありませんよ」

「食べないで、メニューの作成など出来ません

 わ」

「味見くらいは…いや、ダイナさん。こんな事

 をなさっちゃ、いけませんよ」

「私がいけないんですの?」

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「そうです。あなたは、間違っていますよ。

 僕にとって、あなたは、とても大切なお友達

 です。メニューについても、あなたのご意見

 を伺いたいのですよ。それなのに、断られた

 ら、僕はとても傷つきます」

「…。」

「…。」

「本当に…そうですわね。私…間違っていました

 わ。大好きなお友達を独占したいと思うのは

 いけない事でしたわね。ごめんなさい…」

「誰でも、そういう気持ちは持ってますよ。

 気になさらないで下さい。パーティーには、

 来てくれますね」

「仲直りできますの?」

「友達同士の間で、仲直りなど、必要ありませ

 ん」

「私…ただ不安なんですの…いなくなってしまわ

 ないで下さいね、サンディ…」

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「たとえ、そうなっても、あなたは大丈夫です

 よ」

「わかっています…でも、サンディ…お願い!」

「僕も、どうにか出来れば…と思います。でも

 どうにもならない事ですからね。今を大切に

 するだけです。それしか出来ない」

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「そうですわね…困らせて、ごめんなさい。

 さあ、もう、イーヴィの所に行ってあげて

 下さい。パーティーには私、うんと綺麗にし

 て行きますわ」

「いつだって、あなたは美しいですよ。

 楽しみにしています。じゃあ、その時に」

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「気をつけてね…サンディ」

「え?ああ…あの子の事ですか。大丈夫です。

 それじゃあ、さようなら」

「さようなら、サンディ」

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「待たせてしまって、ごめんね、イーヴィ」

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「やっと来た!あの人、あのダイナさんって

 ひと、何なの?あの人がくれた服、見てよ。

 ダサいよ」

「一晩で作ったなんて、さすがはダイナさん。

 いつか服のお店を持ちたいというのが、彼女

 の夢なんだよ」

「絶対に流行らないね。センスが古いもん。

 あんなオンボロ・アパートに住んでるのに、

 デザイナーになりたいなんて、笑っちゃう」

「彼女はゼロからスタートしたばかりなんだ。

 最初から、うまくはいかないよ。それでも、

 少しずつ顧客がついてるんだよ」

「私、こんな服は嫌だと言ったのに、あの人

 すごい頑固。ピンクの靴下も、ブーツも、

 預かるとか言って、取り上げられたんだよ。

 これから私が行く所がどこであれ、この

 ワンピースの方が似合うとか…変なの」

「僕には、女性の服など、よくわからないけど

 今の君は、とても可愛いと思うよ」

「本当?ねえ、本当に?それなら、いいけど」


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「ところで、今日は、ファッションの話をしに

 来たのではない。君のこれからについて、

 話しに来たんだよ。それで…」

「私、もう決めたんだ。あの掃き溜めみたいな

 場所には、もう戻らない。サンディと一緒に

 暮らす事にする」

「ダメだ」

「迷惑掛けないって。自分の食い扶持くらい

 稼げるし」

「ダメだ」

「なんでよ。私の事、好きならいいじゃない」

「ずっとずっと前から、君の事は大好きだよ、

 イーヴィ。ただし、それは恋愛感情ではない

 けれどね。

 僕は、君の将来について、プランを立ててあ

 る。もちろん、受け入れるかどうかは、君の

 自由だ。でも、とても良い案だと思うから、

 聞いて欲しいんだ。説明させてくれないか」

「やだ」

「聞くだけでもいいから。頼むよ、イーヴィ」

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「い・や・だ!嫌、嫌、嫌!聞きたくない!

 なんで、サンディと一緒に、自由気ままに

 暮らしちゃいけないのよ?私の事、嫌いなん

 でしょ。でなきゃ、断らないもん。好きだ

 なんて、嘘ばっかり。みんな、嘘ばっかり

 だよ、もうウンザリ!」

「僕は嘘などつかないよ」

「私の事なんか、誰も好きじゃないんだよ!

 みんな、みんな、大嫌い!特に、あんたは

 大嫌い!私、誰の事も信じやしないよ!

 誰も必要ない、要らない!これ以上、私に

 構ったら、ただじゃおかないから」

「イーヴィ…」

「近寄らないでよ!もう、傷つけられるのは、

 飽き飽きしたよ!そうはさせないから!

 あっちへ行って!傍に来たら、これで切って

 やる。ズタズタにしてやるからね」

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「ナイフを下ろすんだ、イーヴィ」

「嫌!切り裂いてやるから、あんたなんか」

「ナイフを下ろすんだよ…ハンナ」

「…。」

「…。」

「やっぱり…やっぱり、知っていたんだね、

 本当の名前。なんとなくわかってたけど…

 ずっとずっと昔に捨てた名なのに…」

「そう思えるだろうね、君には。でも、実際は

 そう昔の事ではない。まあ、僕の隣にお座り

 お話をしてあげよう。

 ナイフは、捨てなくてもいいけど、せめて、

 体から離して持ちなさい。躓いて、自分を

 刺してしまうといけない」

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「お話なんて、して貰ったことないよ」

「昔…と言っても、わずか三年前の事だけど

 今にも崩れそうな、家というより小屋から、

 一人の少女が出ていった。10歳だった。

 彼女の両親は、娘を放置したあげく、捨てて

 しまっていた。幸運な子供にとっては、家と

 路上は大違いだけれど、不幸な子供にとって

 は、違いは大して無い。そのまま、出ていく

 だけだ」

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「最初はむろん、彼女を利用しようとする連中

 がやって来た。が、わりとすぐに手を引いた

 ね。彼女は、怖いもの知らずで、情け知らず

 何をするかわからん子でね。とても残酷で、

 危険極まりない。操るには、あまりにも恐ろ

 しい。まるで、爆弾だったからね」

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「でも、僕は、その子が好きだった。それに

 とても賢い子だとも思ったね。彼女は、路上

 の連中を操りだし、やがてリーダー格になっ

 ていく。利口でないと、出来ない事だ。

 実際、どうしてなのかは千古の謎だが、彼女

 は、何桁もの足し算引き算、かけ算割り算を

 電卓の様な正確さと素早さで、やってのける

 難しい本も読めるし、世界中の国の名前も言

 えた。なぜ雪が降り、雷が鳴るのかも知って

 いる。学校に行った事がないのにね」

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「そこで、僕は、ある学校の校長と話をした。

 全寮制かつ少人数制の、とても良い学校なん

 だ。議論は白熱したが、結果、君ならば、

 という結論になった」

「どういう事?」

「人を選ぶという行動は、不快だ。したくはな 

 いさ、誰だって。しかし、全員を救う訳には

 いかない。だから、僕達は君を選んだ」

「そんな資格、私にはなかったよ」

「お話は最後まで聞くものだよ、ハンナ。

 僕は友人達から寄付を募った。学費には多す

 ぎる程の金額が集まったよ。それから、これ

 はと思う人に頼んで、君をいささか無理やり

 に…と言うより騙して、学校に連れていった

 最初は失敗したね。3日と待たず、脱走して

 しまったよ」

「どうして、サンディがしてくれなかったの?

 表に出てこなった。私は、誰が手を差し伸べ  

 てくれたのか、知らなかった」

「最初は、逃げ出すだろうと思っていたからだ

 二回目から、僕は名乗ろうと思っていた」

「私は、サンディの行為を無駄にした。最低だ

 よ。学校の人達も、すごく良くしてくれたの

 にさ…どうして逃げたのかわからない。軽蔑

 されるよ、恥ずかしいよ」

「それは間違いだよ、ハンナ。逃げ出したのは

 ごく自然な行動なんだ。ずっと路上で、自分

 の才覚一つで生きてきて、いきなり学校に

 溶け込めるはずはない。どんなに良い環境で

 も、馴染みがなければ、人は恐怖と居心地の

 悪さを感じるんだ」

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「軽蔑しないの?怒らないの?」

「全然」

「どうして?」

「理由が大事なの?」

「聞きたいよ」

「…。」

「聞かせてよ、サンディ」

「待て、待ってくれ。考えさせて欲しい」

「…。」

「で?」

「理由は…理由は…無い」

「あれだけ考え込んで、何、それ」

「真剣に考えたんだよ、ハンナ。でも、理由は

 無いんだ。強いて言うなら、君が君だからか

 な」

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「しかしね、ここからが計算違いだった。すぐ

 に見つけられる自信があったのに、君が発見

 出来ないんだ。焦ったよ。気が気でなかった

 やっと見つけたのが、昨日だ」

「地下道で会った時、何か感じたんだ。もしか

 したら、この人なのかな…って」

「学校に戻るんだ、ハンナ。話はもうついてる

 校長も、先生達も、君が来るのを待っている

 よ。君の状況は、きちんと理解してくれてる

 から大丈夫。誰も、怒ったり非難したりしな

 いよ」

「施しは受けない」

「施しじゃない。君の力になりたい人が沢山

 いる…それだけなんだ。

 それに、ただ貰える訳ではない。返さなけれ

 ばならないんだ。君が、正しく幸せな人にな

 る事で、みんなの善意に応えなければならな

 い。それは大変な事だ。でも、君なら出来る

 よ、ハンナ」

「できるかな」

「一つ、厳しい事を言うよ。

 これが最後かもしれないんだ。

 見捨てられるなんて、思わないで欲しい。

 決して、君を見限ったりしない。

 ただ…僕にはあまり、時間が無いんだよ」

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「急ぐよ、サンディ。私、急ぐよ。

 あなたに見せたい私を、見せる為に。

 急ぐよ。きっと急ぐから」

「立ち止まるな、ハンナ。過去を振り切り、

 前だけを見て、突っ走れ。ありったけの

 勇気を見せてくれ」

「参観日とかには、来てくれる?」

「約束はできない。でも、行ける時は、必ず

 行くよ。来ない時は、よほどの事だと思って

 欲しい」

「わかった」

「さあ、手を繋いで、一緒に行こう」

「私の未来に?」

「そう、君の未来に。後、一つ…大事な事を

 言い忘れていた」

「何?」

「長い間、辛い思いをさせたね。悪かった。

 許して欲しい」

「私も、サンディに辛い思いをさせた。許し

 てね」

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次は、バービー・メアリーさんのお話です。

お楽しみに。

 

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