ふれあいママブログ

バービー人形大好きです。魅力を語らせて下さい。エブリスタ(estar.jp)で小説も公開中。ペンネームはmasamiです。大人も子供も楽しめる作品を、特に貧困や格差をテーマに書いてます。

あなたのバービーは何を語る?⑩ライリー編その2

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「今晩は、ライリー」

「最高の美女が登場。約束通り、来てくれたん 

 だね、アマンダ。遠い所をすまない」f:id:fureaimama:20220323045514j:image

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「隣家だけど。お金持ちは皆、因果な家を持つ

 のねえ。敷地が広すぎるのよ。

 久しぶりだから、道に迷ったわ」

「人の事を、とやかく言えるのかね。君の一族

 の屋敷は、もっと広い。ヴェルサイユ宮殿

 同然だ」

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「一つ屋根の下、と言ってもまた、広大過ぎる 

 屋根だけど、一緒に住んでいる親戚の中には

 どこの誰で、いつ現れたかわからない人間が

 沢山いるの。顔を合わせた事が、一度も無い

 とか、珍しくないわ」

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「他人が住んでるかもしれないぞ。昔から、君  

 の家には行きたくなかった。得体が知れない

 人間がウヨウヨいるし、誰が使用人なのか

 も、そのランクもはっきりしない。

 トイレが四十もあるのに、いつも探しあぐね

 て粗相しそうになるし、なんとか辿り着いて 

 も、掃除してなくて不潔そのものだ。使用人

 が百の単位でいるはずだろう?バレなきゃ

 いいとばかり、どこも掃除されてやしない。

 子供エリアに運ばれてくる食事は、冷めてる

 か乾燥しきってる。2日前のパーティー

 残り物が、平然と、銀の盆で登場したりな。

 何でも揃っているはずなのに…ジュースを

 こぼした時の手拭きタオルだとか、宿題を

 する為の鉛筆だとか、指のささくれが痛む時

 の絆創膏だとか、何でも無い物が、無い!

 つまり…手近に無い。頼む人もいない。

 いつも我慢だ。君たち一族は、常識がない」
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「あなたの一族だって、似たようなものだった

 わ。マグダラが変えるまでは。彼女は全てを

 変えた。ある時を境に」

「そうだな。いや、長い夜になりそうだ。

 幼馴染みとの話は尽きないね。まずは座って

 落ちつこう。僕は酒を飲まないが、君には

 ダルモアを用意してある。アンゴスチュラ

 ビターズを2滴垂らしてね。好みが、変わっ

 てないといいが。クリスマス・ローズの部屋

 でいい?」

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「マグダラの部屋だったわね」

「ああ。でも、母は、あの部屋を好きでなかっ

 た。亡くなるまで、2、3回しか訪れていな

 いはずだ」

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「マグダラの居場所は、いつだって一つだけ。 

 レイシーがいる場所。ところで、彼女は?」

「室内プールで泳いでから、眠ると言ってた。 

 あの子には、長い1日だったからね」f:id:fureaimama:20220323050548j:image
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「良かったわ。滅多に無い事だし、今夜は、

 二人きりでいたいの。邪魔されたくない」

「レイスは、気遣いのある子だ。そんな…」f:id:fureaimama:20220323050646j:image

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「もちろん、レイシーは良い子よ。問題は、

 あなた」

「僕?だとしても、君に何の関係がある?

 何も知らないくせに、君は…」

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「部屋に入っていいかしら?それとも、お帰り

 はあちら…と、追い出されるの?」

「…」

「ライル?」

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「ああ…もちろん、入ってくれ。どうか…座って 

 ごめんよ、アマンダ。僕は、どうも短気で

 いけない。どうして、君が我慢できるのか、

 僕と友達でいてくれるのか、わからないよ」f:id:fureaimama:20220323051840j:image

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「あなたは、いつも短気なわけではないからよ

 レイシーの話をしてる時だけだわ。レイシー

 の事となると、人が変わってしまう。

 だから、聞きたいのよ、話したいの。

 いくらでも癇癪を起こせばいいし、礼儀知ら

 ずな物言いをすればいい。私は、幼馴染みと

 いうだけではないわ。あなたを怖がらない、

 強い人間なの。心配しなくていいし、謝らな

 くてもいい。貴重な存在でしょう?」

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「本当に…そうだな。で?何を聞きたい?」

「レイシー…レイシーの事。ねえ、ライル。

 レイシーって、何者なの?」

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「今更、それを聞くのか?」

「わからない事を聞くのは、何時だろうと恥ず

 かしい事ではないわ」

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「なぜ、今までに聞かなかったのだ?」

「考えていたから。レイシーは、あなたにとっ

 て、どんな存在なのか。マグダラにとって、

 どんな存在なのか。大体、見当はつけたわ。

 後は、あなたから、答えを聞きたい」

「どう答えればいいのか、わからないよ」f:id:fureaimama:20220323052424j:image

「じゃあ、こちらから質問してあげるわ。

 まず、マグダラの事から」

「母の話?そこまで、遡る必要があるのか?」f:id:fureaimama:20220326070053j:image

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「マグダラ。あの人こそ、全ての始まりよ」

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「マグダラは、なぜ、あんなにもレイシーを…

 なんて表現すればいいのかしら。溺愛なんて

 いう言葉じゃ、甘すぎる。実の子でもないの

 に、レイシー、レイシー、レイシーって、

 そればっかり。血が繋がっている子供は、

 あなたなのに。実子を差し置いて、レイシー

 ばかりチヤホヤして、変でしょうが。

 毎日がレイシーの為に始まって、レイシーに

 仕える事で過ぎて、レイシーを見守って終わ

 る。レイシーが、マトモで良い子に育ったの

 が不思議なくらいよ。何でも出来る財力に

 加えて、彼女が歩いた地面を拝まんばかりの

 愛情…というか、あんなに小さい子供には

 不似合いな…敬愛?愛情の爆発…うーん、

 愛情の爆風?閃光?なんか、破滅的なの。

 レイシーは、甘やかされて、暴君になっても 

 おかしくなかったわ。私は独身だし、子供も

 いないけれど、それでも、良くない子育てだ

 とわかる。ここに来た時、レイシーは幾つ? 

 五歳?」

「四歳だ」

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「レイシーが来て、全てが変わったわ。

 それまでは、私、マグダラのお気に入りだっ

 た。いつも、家に呼んでくれて、とても親切

 だった。あなたの世話は、子守りと家庭教師

 と、子育てアドバイザーに任せきりなのに、

 私が遊びに行くと、マグダラご自身がご降臨

 下さる」

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「今、思うと、あなたと私が、仲良くなれる様

 に、マグダラは心を砕いていたのね。将来、

 一族のビジネスを継ぐのは私だと見抜いて、

 だから、あなたとの絆を作るのが必要だった

 のよ。幼馴染みの状態を作り出そうとしてた

 ビジネスの為に、子供まで利用する。

 マグダラは…見かけは、優しくて穏やかな人

 に見えたわ。カールした栗色の髪。薔薇色の 

 頬に、暖かみのあるグリーンの瞳。

 でも、それは見せかけだけ。

 本当は、冷酷な人よ。最低!」

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「小さい頃から、僕は、君が好きだったよ。

 君が家に来る時は、母もいる。優しく世話し 

 てくれ、話を聞いてくれる。オヤツを出して

 くれるし、手を握って…微笑みかけてくれる

 そりゃ、なんか変だと感じてはいたさ。でも

 例え不自然でも、それでも、僕は嬉しくて、

 そこに意味があったんだ」
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「レイシーが来て、マグダラは豹変したわ。

 しばらくは、混乱して辛かった。自分が、

 何かまずい事をして、マグダラに嫌われたと 

 思ったから」

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「ずっと付き合いは続いていたじゃないか。

 誕生日パーティーやお茶会には、必ず君を

 招待していたよ」

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「数百人の客の一人としてね。

 家族の輪には入れてくれなくなった。内輪の

 集まりには、二度と呼んでもらえなかった。

 マグダラの頭は、レイシーで一杯で、私の事

 完全に忘れてしまったのよ。

 あなたを、また、身近に感じられるように 

 なったのは…親しく付き合えるようになった

 のは、マグダラが死んでからよ。でなければ

 私は、永遠に、あなたを遠くから見つめてい

 るだけだったでしょうよ。

 20歳で母親を亡くしたあなたに、こんな事を 

 言ってはいけないのかもしれないけど、私、

 マグダラが大嫌い!」

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「僕の中の、母のイメージはずっと…ドレスや

 スーツで決めた後ろ姿だった。

 いつも、背を向けている。顔は曖昧な記憶し

 かなくて、どんな声かも知らなかった。

 仕事、仕事で、僕の傍には決していなかった

 でも、寂しかったかなあ?辛かった記憶は、

 あまり無い。母を尊敬していたし、そういう

 ものだと、思っていたからね」

「馬鹿馬鹿しい、嘘つき」 

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「は?」

「寂しかったに決まってるでしょ。誤魔化すの

 は止めて、ライル。正直に話しても、傷つく

 人は、ここにはいないのよ。心配しないで、

 大丈夫よ。本心を話して」

「嘘はついていない。レイシーが来るまで、

 僕は、自分がどれだけ孤独なのか、気がつい 

 ていなかったんだ」

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「レイシーが来て…マグダラのイメージは変化

 した?」

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「ああ、変わったよ。すごくね。

 平日は相変わらず仕事だったけど、5時には

 帰ってくる。休日は、1日中、僕らの傍にい

 て、ピクニックしたり海で泳いだり。

 食事も一緒にしてくれるし、話も聞いてくれ

 るし、子守り歌も歌ってくれる。病気になれ 

 ば、看病もしてくれるんだ!

 レイスが来た時、僕は10歳だったからね。

 子供っぽいと言われるかもしれないが、

 嬉しかったな。幸せだった。

 父も、よく姿を見せるようになったし、母と

 親しく顔を合わせてもいた。

 レイスのお陰で…本当の家族になれたんだ」

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「マグダラの、イメージを聞いたんだけど」

「イメージ…そうだなあ。

 レイスを見つめてる。痛いくらいの愛情でね

 僕は、少し離れた所から見守っている。

 母は、視線を感じて微笑み、僕を手招きする

 僕は、また少しだけ近づく。そして、また、

 二人を見守るんだ」

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「普通…嫉妬するんじゃないかしら?片方の子

 だけが、可愛がられていたら。しかも、実子

 はあなたなのに、レイシーが愛情を独占し

 ている。普通は…そう、普通の子なら、憎む

   と思う。激しい憎悪に駆られる筈よ。

 ライル、あなたはレイシーを憎まないの?」

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「とんでもない!そんな事、考えた事もない。

 どうして、僕がレイスを!?下らん。

 憶測で、エセ心理学者みたいなマネをするの 

 は、やめた方がいいぞ。

 レイスが来て…母は変わった。もう、後ろ姿

 ではなくなった。触れれば、暖かくそこに

 存在する。僕にも、優しくしてくれたんだ。

 兄妹差別など受けてない。僕とレイスは、

 そもそも、兄妹ではないのだし」

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「そうかしら?私、地元のデパートの子供服

 売場で、マグダラとレイシーを見た事がある

 のよ。レイシーが…七歳くらいの時。

 店の在庫全てを買い占めてたわ。有名な話よ

 文房具でも靴でも絵本でも、レイシーの物と

 なると、マグダラは、店全体、丸ごと買って

 しまう。一方、あなたはどう?子守りが選ん

 で、常識的に買った物ばかり。マグダラと

 買い物に行った事ある?」

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「僕は男だよ、アマンダ。一緒に買い物なんて

 楽しめないさ。だから、母も…」

「映画は?観劇は?遊園地やら水族館は?」

「残念でした。ちゃんと一緒に行ったよ」

「レイシーが、あなたと一緒にいたがったから

 でしょ。レイシーの希望は絶対なのよね、

 あなたも、マグダラも。誤魔化さないで。

 ちゃんと答えて、ライル」

「何を答えろと?」

「兄妹差別は、あったのよ。でも、なぜ?

 マグダラにとって、あなたとレイシーは、

 どう違うの?」

「…。」

「ライル?」

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「今の今まで、考えてみた事もなかった。

 でも、なんとなく、わかる。

 僕は、後継者となる可能性が高い子供だ。

 昔から連綿と、ただ続いていく、一族の…

 恐るべき仕事を、引き継ぐ運命が待つ。

 甘やかして、溺愛して…そんな育て方は…

 例え、どんなにそうしたくても、母は出来な

 かっただろう」

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「レイシーは?」

「レイシーは一族ではない。血の繋がりがない

 負わねばならぬ責もない。

 可愛がりたいだけ、可愛がれる。甘やかした

 いだけ、甘やかせられる」

「ライル…あの子、何者なの?レイシーって、

 誰なの?今は成長して、あんなに美しく

 なって…でも、私は、あの子が怖い。今も

 ここに…あなたと私の間にいる気がして。

 マグダラとあなたの間にもいた。

 レイシーって、何者なの?」

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「怯えた様に話す事じゃない。シンプルな事情

 なんだ。驚く事じゃないよ。

 レイスは、短期里親プロジェクトで、うちに

 来たんだ。それだけだ、それだけの事」

「ずいぶんと強調するのね。そのプロジェクト

 の事、話してちょうだい」

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「当時、よく行われていた企画なんだ。

 家庭の事情で、短期間、施設に暮らしている

 子供を、里親として預かり、数ヶ月ほど、

 一緒に暮らす。家庭生活を忘れない為…だそ

 うだ。やがて時期がくれば、子供は親元に

 戻っていく。当時、裕福な家庭ではね、

 ボランティアとして、このプロジェクトに

 参加するのが、ほとんど義務化してたんだ」

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「レイシーは、親元に帰らなかったの?」

「母は…母は…レイスを見たその瞬間から、

 あの子を…愛した。心から、深く愛したんだ 

 狂おうしい気持ち…それはなにも、男女の間

 の愛だけとは限らない。

 母にとってレイシーは、自分の全てを変え、

 人生を支えてくれる愛、幸せを運んでくれる

 愛だったんだろう。自分という存在を救って

 くれる愛の形が、レイシーの形をとっていた

 のだ。僕には、よく、わかるよ」

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「なぜ、レイシーなの?理由は?」

「アマンダ。君は、人を愛する時、人を求める 

 時、必ず理由があると思うのかい?無い時も

 あるのさ。

 母も、うまく説明できなかったから、施設の

 人達との話し合いはしなかった。直接、

 レイシーの、実の母親を訪ね、その同意を得

 て、正式に我が家の養子にした。このあたり 

 の事情は、もちろん、レイシーも知ってい

 るよ。四歳になっていたからね。自分が養子 

 だという事はわかっていたし、大きくなって

 から、母はきちんと説明したから」
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「あなたのお父さんは?賛成したの?」

「さあ…知らんね。反対ではなかったんだろう

 一族の業務の中心は母で、会社の社長である

 のと同時に、絶対の権力者だ。父は、能力

 ゆえに選ばれた補佐に過ぎない。家庭にも、

 それが持ち込まれていた。父は、母に反対で

 きない」

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「レイシーの、実の母親って、どんな人?

 どうして、居場所がわかったの?」

「母が、お抱えの探偵に調べさせ、探り出した

 レイスの、実のお母さんは、シングルマザー

 でね。レイスを一人、部屋に置いて、1日中

 働いていた。気の毒に、過労で倒れて入院し

 てしまったんだ。そこで、健康が回復するま 

 で、レイスは施設に入った。親族は疎遠だっ

 たらしいから、行き場がなかったんだよ。

 母は、すぐに、レイスのお母さんを最高級の 

 療養所に入れ、退院後に移れる豪邸をも用意

 した。加えて、先までずっと不自由なく暮ら

 せる資産も、贈与してあげた。なんといって

 も、レイスを産んでくれた人なんだからね。

 敬意を表して、それくらいは…ね。

 レイスのお母さんは、賢い人で、すぐに同意

 が得られたんだ。レイスを養子にもらえて、

 彼女は、正式に母の子供になった」

「お金で、子供を買ったって事?」

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「な、何て事を…どうして、君は、そんな汚わ

 らしい発想しかできないのだ?

 実の親と里親が、話し合い、子供にとって

 一番、良い道を選んだだけじゃないか。

 レイスのお母さんは、子供の為にと涙を飲ん

 で、母にレイスを託した。さもなければ、誰

 が、あんなに愛しい、素晴らしい子供を手放

 すものか。レイスのお母さんは、清らかで

 優しく、天使の様な女性だったそうだ」

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「マグダラが、そう言ったの?お涙頂戴もいい

 所だわ。その後、実の親は、レイシーに面会

 しに来た?」

「それは、しない約束だった。レイスを、混乱

 させたくないからね」

「優しい女性が、なぜ、そんな真似が出来るの

 よ?」

「よく知りもしない人の悪口は、やめたまえ。

 レイスのお母さんは…ただ…若くて不運だった

 それだけだ」

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「変な話よね。継子虐めの話なら、昔話には、

 よくあるわ。それが、溺愛話とはね。滅多に

 ない。ダメよ、ライル。マグダラのやり方を

 引き継いではダメ。絶対にダメよ」

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「何を言ってる?何の話だ?」

「代理型…」

「は?何?」

「お腹が空いて辛いなら、食べ物を食べれば、

 苦痛はなくなるわ。でも、食べられない事態

 に追い詰められていたら?

 代わりに誰か…選んだ特別な誰かに、食べ物

 を与える手もあるわ。その人に、食べ物を

 沢山与えて、与えて、幸せな顔を見ると、

 まるで、自分が食べている気持ちになれる」

「何を言っているのか、全然わからない」f:id:fureaimama:20220326070214j:image

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「愛情、労り、癒し、思いやり…それも同じな

 のよ、ライル。

 レイシーにそれらを与える事で…自分も与え

 られている気分になれる。その内、中毒して

 しまう。レイシーが望んでもいないのに、

 労り保護しようとする。自分が、欲している

 からなのよ。止められない」

「何の話だ?やめてくれ、アマンダ」

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「止めないわ。

 マグダラは、まだ良いのよ、ライル。

 彼女の役柄は母親。同性だし、年齢的にも相 

 応しかった。

 あなたは、違うわ。レイシーの気持ちを考え

 た事ある?レイシーにとってのあなたを?

 若くて、すごいハンサムで、優しくて、大金 

 持ち。心から愛してくれ、大事に、大切にし

 てくれる男性…あなたにとって、レイシーは

 何なの、ライリー」

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「さあ…難しい…そのように…考えた事がない。

 どうだろう…わからない…ただ…ただ…大切な

 掛け替えの無い…」

「あなたもマグダラと同じ。苦しんでる。辛い

 のよね。一族の仕事…その非情さ、残酷な

 側面が…」

「何が側面だ。全体丸ごと、冷酷極まりない

 所行じゃないか。君は辛くないのか?」

「運命よ。生まれた場所を受け入れたら、私は

 悩まない」

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「僕は辛い…」

「だったら、きちんと逃げ出す方法を探すべき

 だわ。辞めるべきなのよ、どんなに危険でも

 人ひとりの人生を、利用してはいけないわ。

 ライル!レイシーは、癒しアイテムではない

 のよ!」

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「どうすればいいのか、わからない…。幼い頃

 からずっと、一族の仕事を学んできた。

 勉強から人との付き合い、食事の仕方から

 スポーツ、音楽…僕の人生の全ては、一族の

 仕事を率いる為だ。今更…どうしようもない

 逃げ出すなど…裏切りだ。卑怯だ。仕事は

 定められた義務だ」

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「幸せになるのが、人間の義務よ。不幸なら、

 逃げ出さなくてはいけないのよ。

 今のままでは、あなたはダメになる。廃人に 

 なるわ。

 私も、出来るだけ力になる。レイシーにも

 話すのよ、ライル。あの子は賢い。必ず

 助けてくれるわ」

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「レイスに?あの子には、話せない」

「なぜよ?」

「僕がレイスを守る立場だ。助けるのは僕で、

 レイスじゃない」

「マグダラが、守りなさいとでも言ったの?」

「いや。僕とレイスの関係に、母は口を出した

 事はない」

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「酷い人ね、ライル。あなたは」

「僕が?」 

「もう夜明けね。私は帰るわ。よく考えてね、

 ライル。そして、忘れないで…どんな時も、

 私はあなたの味方よ。あなたの為なら、何で

 もする」

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「ありがとう、アマンダ…気持ちは有難いよ」

「…。」

「…。」

「この家、ホールの壁から、海の底が見れるの

 ね。改装したの?」

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「ああ…レイシーは、海が好きだから」

「レイシーが、頼んだの?」

「いや…ただ…喜ぶかなっと…」

「で?喜んだ?」

「いや、ああ…どうなんだろう…た、たぶん…」f:id:fureaimama:20220326072242j:image

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「レイシーの事も…ちゃんと考えて。本気で、

 想ってあげてよ。あなたが幸せな人になれ 

 ば、今のレイシーは必要ではなくなるわ」

「なんだって?」

「あなたが今、見ているレイシーは、あなたが

 見たいレイシーだという事。本当のレイシー

 は、あなたが思うのと、たぶん全然、違う人

 だわ」

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「…。」

「それじゃあ、またね、ライリー」

「ああ…また…アマンダ」

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「レイス?」

「ひっ、驚いたわ、ライリー」

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「ごめんね。でも、僕も驚いた。まだ、夜が

 明けたばかりなのに、どうしたんだい?

 何をしてるの、レイス?」

「散歩」

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「外出着じゃないか。嘘はいけないな」

「ライリー…」

「ああ、わかってる。干渉し過ぎだよね。

 どうして、こうまで心配性なんだろう。

 君は、僕の宝だから、レイス…」

「いいのよ、ライリー。アマンダは、もう

 帰ったの?」

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「ああ。僕の事を、ずいぶん心配している」

「彼女は、あなたの事を、よく知っているの

 ね。私は何も知らないのに」

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「君のせいじゃない。知って欲しくないんだ。

 本当に大事な人には、話せない事もあるよ」 

「そうね。でも、私にも出来る事があるわ。

 あなたの為に、出来る事が」

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そのままの君でいてくれれば…」

「私と一緒に逃げて、ライリー」

「え…?」

「失踪するのよ。全てを捨てて。二人だけで、

 どこか遠くへ行きましょう」

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「そんな…」

「断ち切るのよ」

「僕と君には、無理だ」

「どうしてなの」

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「え…その…そう、仕事が…」

「辞めたら、口封じに殺されでもするの?

 私が知らないだけで、あなた、マフィアなの

 ライリー。さもなきゃ、殺し屋?」

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「違う。もっと恐ろしい姿をしてる。君の前に

 いる男は」

「あなたは、まだ26歳。私は20歳。諦めるのは

 早い。私と一緒に消えましょう、ライリー」

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「無理だよ…だって…そう、お金がなければ、

 贅沢させてあげられないし…」

「私が、貧乏など恐れると思うの?二人とも、

 教育は受けている。普通の生活はできるわ」

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「色々と、複雑な手続きもあるし…何年かかる

 かわからない…」

「あなたを不幸にしている相手に、誠意なんて

 尽くさなくていいわ。全てを捨てるの。今

 すぐ逃げるの」

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「レイス…」

「あなたの為だけじゃないのよ、ライリー。

 私、もう、こんな生活、耐えられない」
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「何て事だ。君は…不幸なのか、レイス?」

「ずっと大事にして貰ったわ。不幸とは違う。 

 本当に欲しいものが、手に入らないだけ」 

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「教えてくれ、レイス…君が、本当に求めて

 いるものを…」

「あなたよ、ライリー。私が求めているのは、

 あなた。あなた、だけ」

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「僕?僕など、もう手に入れているじゃないか

 レイス。僕の全ては、君のものだ」

「違うの、そうじゃなくて…ああ、もう嫌。

 私と来て、ライリー。行こう、一緒に」

「待ってくれ、待って…すぐには…とても…」

「怖いのね」

「だ、大丈夫。心配しないでいい。僕に任せて

 くれれば…」

「心配なんて、してない!」

「少し、考えさせてくれ、レイス」

「もちろんよ、待つわ。でも、長くは待たない

 わよ。私達は、若い。だからこそ、時間が

 無いの」

「わかった。決断する。約束するから…」

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ライリー編その3に続きます。

エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasamiです。

「ヘルズスクエアの子供たち」がお気に入りの

作品です。