ふれあいママブログ

バービー人形大好きです。魅力を語らせて下さい。エブリスタ(estar.jp)で小説も公開中。ペンネームはmasamiです。大人も子供も楽しめる作品を、特に貧困や格差をテーマに書いてます。

あなたのバービーは何を語る?⑩ライリー最終編

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「辛いのではありませんか?あなたは、こちら  

 に目を向けられないでいる。無理もないで

 す。僕が、あなたをお訪ねすれば、傷つけず  

 にはいられない。迷いました。決して軽々し

 く判断した訳ではありません」

「お手紙を頂いてましたから。会うのを選んだ 

 のも、私です。心構えは出来ていたつもりで

 したけど…やっぱり…。少し時間を下さい」

「もちろんです。僕は、いつまでも待ちます」f:id:fureaimama:20220927090958j:image

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「何度も話を中断して、ごめんなさい。

 サンディ…と、今のあなたは名乗ってる。

 でも、私には…私には…。

 いえ、大丈夫です。

 あなたは、もうライリーではない。

 それは、あなたにとっては真実でも、私が  

 受け入れるには、やはり時間が掛かります。

 そう…とても辛い」

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「でも…もしも、ライルが…昔の彼のままで、

 私の元に戻っていたら…それも、やはり、

 辛く 苦しく…ひどく戸惑ったでしょう。

 それが私の罰なんです。

 だから、私の事は、気にしないで下さいね。

 聞きたいのでしょう?過去の自分の事を…

 でも、なぜ、今?あれから、ずいぶん長い時

 が経ってます。

 責めているのではないのよ。ただ、あなたと

 同様、私も知りたいだけなんです」

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「戻った訳ではありません。

 僕はもう、二度と、ライリーには戻らない。

 今日だけ、お訪ねしたのです。

 なぜ、今になって…というなら、ここを去っ 

 てから数年は、ライリーの事など知らなかっ

 たし、サンディとして生きるのに懸命だった

 からですよ。だが、その内…サンディとして

 出会った、沢山の友達が、少しずつ、それと

 意識しないながら、僕をここに導いた。

 僕一人では、辿り着きはしませんでした」f:id:fureaimama:20220929084800j:image

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「ライリーだった頃、あなたに友達はいなかっ 

 たわ。私以外、誰も」

「そのようですね。だから、あなたの処へ来た

 のです」

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「ライリーだった頃の記憶は?全く無いの?」

「完全に消えています」

「なら、見事にやり遂げたのね、レイシーは。

 彼女は言ったわ。ライリーを助け出す、と。

 どんな事でもする覚悟だったのだと思う」

「レイシーは、ライリーに…僕に…何をしたの

 ですか?」

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「あなたは…いえ、あの頃のライリーは死にか

 けてた。

 苦しみ、絶望していた。たった一本の命綱で

 崖からぶら下がっているよう状態だったの。

 二十年近くもそんな状態では、誰だって神経

 がおかしくなるのに、そんな、安定とも言え

 ない安定さえ、失う寸前だった。

 肝心の、命綱が保たなくなっているのに気が

 ついてしまったのよ。

 全てを託した綱は、切れかかっていた」

「命綱とは?」

「レイシーよ」

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「珍しいですね。普通は、ほら、母親とか…」

「その通りよ。

 レイシーは、ライルの母のマグダラが、彼に

 引き継いだ命綱だった。

 マグダラとライルは、二人共、与えうる限り

 の愛情をレイシーに注いだわ。その愛は本物

 だった。それは否定しない。でも、正しい愛

 ではなかったのだと思うわ。

 レイシーへの愛に…なんとか生きる意味を

 見い出していた。その為の愛だったから。

 レイシーに全てを与えたがっていた。

 そうすれば、自分達が満たされるから」


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「迷惑な話ですね。レイシー…僕は憶えていま

 せんが、彼女が気の毒です。

 誰だって、そんな役目は負いたくない」

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「昔ね、私、ライルに話した事があるの。

 レイシーが、まともに育ったのが不思議だっ

 て。でも、私は間違っていた。何もわかって

 いなかったのよ。

 レイシーが、一番、まともでなかった」

 「彼女が、一番、苦しみ、追い詰められてた

 と?」

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 「私は、それに気が付かなかった。

 それで、あんな事態になった。  

 残念だわ…でも、例え、キチンとした理解が

 出来ていても、私には、あの悲劇は止められ

 なかったと思う。私は、無力だった。それが

 慰めね。事件を防ぐ資格が、私にはなかった

 というのが」

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「それは嘘だ。あなたは、慰めなど見い出して

 いない。今でも苦しんでいる。違いますか」

「そうね…ごまかしては、いけないわね。私の

 心はまだ、あの日で止まったまま…」

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「すみません…言い過ぎました。僕は、何も

 知らないのに」

「レイシーを妬んでる。今でも羨んでるの。

 変な話よ。彼女は、殺人未遂犯なのよ」f:id:fureaimama:20221024083101j:image
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「レイシーは、ライリーに何をしたのです?」

「塔の窓から、彼を突き落とした」

 

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「ライルはガラスを突き破った。

 落ちていった」

 

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「何階の窓です?誰の部屋でしたか?」

「私の部屋。4階。ライルはまっ逆さまに落ち

 て、下の広場に激突した。噴水と池の側よ。

 普通なら、死んでいたわ。

 レイシーは、それを承知で突き落とした。

 でも、憎しみからじゃない。

 あなたを救うには、それしか無いのだと、

 そう確信したから、落としたのよ。

 そんな事、誰が出来る?レイシー以外の、誰

 に出来るって言うの!」

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「落ち着いて、アマンダ。大丈夫ですか。

 呼吸できてますか」

「レイシーには迷いがなかった。正しい事を

 するのだ…ライリーを助けるのだ…彼女は

 少しも動転しなかった。私にはわからない。

 本当に、そうだったのか…」

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「結果を見れば、正しい事だったんでしょう。

 僕は生き延び、今は幸せに暮らしているの

 ですから。でも、レイシーがライリーを…

 その、僕を殺そうとした時には、もっと別の

 思いに支配されていたと思います」

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「どんな?」

「恋…親の代から続く愛憎…何より…多分…」

「何?」

「若さですよ」

「若さ?」

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「自分が正しいと信じる一途さ。自分が何とか

 しなければ、という信念。自分なら出来ると

 いう自信。これは、成熟した、または老成

 した心には生まれないのですよ。

 実際の年齢とは関係なく、レイシーには、

 そうした若さがあり、あなたには無かった。

 どうしようもない事です。

 あなたの言う通りです。どんなに望んでも、

 あなたには、レイシーと同じ事は出来ない」

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「それより僕は、もっと具体的な事が知りたい

 のですよ。なぜ、レイシーはあなたの部屋に

 いて、なぜ、ライリーが現れたのか」

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「私の部屋に、レイシーを匿った事は、話した

 でしょう。部屋に案内した時、レイシーは、  

 驚いていたわ。権力者の一族を率いる身で、

 大豪邸に住んでいるのに、この部屋は何なの

 アマンダ?廃墟みたいよ、と」

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「ボロボロのベッドに、壊れた子供用の椅子。

 他には、何も無い。本当に、何も無いの。

 レイシーは、ふざけて言ってたわ。

 私が嫌いだから、わざと、使ってない部屋を

 あてがったんでしょ…って。 

 違うのよ。本当に、私の部屋だもの。

 お金持ちでも、お金持ちでないだけ。」

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「どういう意味です?」

「私は、子供の頃から、埃と黴だらけの塔の

 一室に住んでいたわ。痩せこけて、汚れて、

 臭かった。

 子供は喧しいからと、私の部屋は、塔の

 てっぺん。夏は蒸し風呂、冬は冷凍庫。

 いつもお腹が空いていて、泣いても誰も来な

 かった」

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「信じられませんね。ご両親は?家政婦や

 子守り、家庭教師がいたでしょう?」

「いたのかもね。時々、やって来たと思う」

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「まだ、よくわかりません」

「彼らは、誰一人、私に関心がなかった。

 欠片の関心も無ければ、どれほどお金があっ

 ても、役には立たないのよ」

「可哀想に…辛かったですね」

「生き延びたわ。もう、大丈夫よ」
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「しかしね、ライリーの家も同じだったので

 しょう?

 レイシーの物を除いたら、他には何も無いの

 ではありませんか?空っぽの廃墟だ」
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「ライリーもマグダラも、大富豪だった。

 美しい物、贅沢品が溢れていたわ。

 でも、二人は、レイシー以外、何も必要とし 

 てなかったし、レイシーは、物に興味が無い

 子だった」

「やはり、廃墟だ」 

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「我が家には、客用寝室は無いのか、レイシー

 に聞かれたわ。

 私には、わからないと答えた。

 今でも、邸にどんな部屋があって、誰が住ん

 でるのか知らない」

「ご家族は?」

「両親には、時々、会うわ。会社とか、知人宅

 で。元気みたいよ。でも、屋敷に住んでいる

 のかは知らないわ。引退したから、リゾート

 地にでも住んでいるのじゃない?」

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「自分の家に、誰が住んでいるかわからない…

 何か変な感じがしますけどね。ムズムズする

 ような…落ち着きませんよ」

「あなたの…サンディの家は?今のあなたは、

 どんな暮らしを?」

「1間のアパート暮らしです。住んでいるのは

 僕一人ですけどねえ…いや…そうなのかな…?

 友達や、友達の知り合いや、顔見知りやら、

 顔に見覚えのない他人やら…果ては大家さん

 や、彼女の身内まで…実に沢山の人が出入り

 してましてね。鍵を掛ける暇もなくて…

 ついには、鍵がどこかにいっちゃいまして。

 だから、僕も、人の暮らしを、変わってる

 云々、言える立場じゃありません」

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「楽しそうね」

「賑やかです。イメージとしては、市場か…

 年中無休のパーティー会場ですかね」

「私達と一緒にいた時は、楽しかった事なんか

 なかったクセに」

「私達?」

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「私もレイシーも、あなたを幸せにしたくて、

 あなたと一緒に幸せになりたくて、ただ、

 それだけが望みだったのよ。

 なのに、あんまりだわ、酷いわ、ライル!

 私達と一緒の時は不幸で、離れたら幸せだ

 なんて」 

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「僕が不幸だったのは、あなた方のせいでは

 ないし、今、幸せなのも、あなた方のおかげ 

 ではありません」

「そうね…そうね…その通りなのよね、本当は。

 なのに…人はどうして、こうも愚かに間違え  

 てしまうのかしら…」

「そう…なぜでしょうね」

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「レイシーが家出して…ライリーは、どうなり

 ました?」

「会社にも出てこないし、電話にも出ない。

 訪ねても、誰もいない。どの屋敷にいるのか

 さえ、わからなかったわ」

「レイシーの捜索は?」

「魂を失ったのよ。ライリーは、しばらくの間 

 は、動くことすら出来なかったのだと思う」f:id:fureaimama:20221023071352j:image

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「レイシーの意志を尊重しようとしたのかも 

 しれません」

「努力はしたと思うわ。自制したのでしょう。

 少しの間は、それが出来た。

 すぐには、禁断症状は出ないものよ。

 ああ…本当にレイシーはいなくなってしまっ

 たんだ…と実感するまでは、苦しみにも麻酔

 が掛かってる。真に辛くなるのは、それから

 よ」

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「結局、ライリーは耐えられなかった?」

「そうね」

「情けない奴だ」

「あなたは、自分に厳しいのね。人間だもの。

 仕方ないじゃない」

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「ライリーは、あなたの家にやってきた?」

「二週間ほど後だったの。訳のわからない事を

 言ってたわ。宝石を窓から投げ捨ててたら、

 私の部屋に灯りが見えて、あっ…レイシーは 

 あそこにいるって、そうピンときた…とか

 何とか…意味わかる?

 レイス…レイス…会いたい…会わずにいられな

 い…うわ言みたいに繰り返して、助けて…

 レイス…僕を助けて…って。止めたけれど、私

 なんか目に入らないみたいだった。

 手を伸ばして、私をどかして…邪魔な家具を

 どかすみたいに…憑かれた様な目をして…

 塔を登っていった」

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「レイシーは、驚きました?怯えた?」

「全然。わかっていたみたい。ライリーが来る

 のを、彼女は待ってた」

「二人の間に、何が起こったのです?」

「レイシーは言ったわ。これが最後よって。

 私を抱きしめて…ライリー、そこから

 初めましょう…私と現実を生きようって…」

「それでも、ライリーは、彼女を拒んだ?」

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「生身の彼女を愛せるなら、とっくにそうして

 いたわ。

 レイシーは、私とは違う。

 美しいだけじゃなくて、何と言うか…地に

 根付いた官能美、泥臭いまでの女らしさ

 があった。身体も、ふっくらと柔らかで」

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「ライリーは、彼女を抱くのを拒んだ。彼女

 無しでは、生きられないのに?」

「だからこそ、だと思うわ」

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「レイシーは、ライリーを、愛していたんです  

 ね。普通の恋がしたかっただけなのに、叶わ

 なかった。

 フラれて、冷たく突き放されるなら、まだ 

 理解できるし、受け入れる事も出来る。

 でも、ライリーは、レイシーを溺愛し、可愛

 がり、甘やかし…いつも側にいて、優しく話

 を聞き、そして触れ合う。常に、ライリーの

 温もりを体に感じる…現実的にね。

 それなのに、恋愛対象として見てくれない?

 あまりに辛い事です。苦しかっただろうし…

 やがて、憎しみも生まれたでしょうね」

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「レイシーは、ただ普通の人間として扱って

 欲しかったのだと思うわ」

「十年以上も、ずっと求めていたのに…」

「叶わなかった」

「だから、レイシーはライリーを突き落とした

 それから、どうなりました?」

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「私は、階段を駆け下りて、ライリーの元へ

 走ったわ。実際には、酷い損傷があった訳だ

 けれど、その時は、わからなかった。見た目

 には、何の外傷も無い様に見えたから。

 意識ははっきりしなかったけれど、息は安定

 していたし…4階から落ちたとは思えなかっ

 たわ」

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「レイシーは、どうしてました?」

「しばらく経ってから、下りてきたわ。

 寝間着から着替えて落ち着いていた。

 旅支度だった」

「アマンダ?」

「…。」

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「普通、そんな事件が起これば、悲鳴を上げて

 助けを呼ぶし、すぐに警察や救急車を呼ぶの

 ではありませんか?」

「うちの屋敷では、何が起きても不思議では

 ないのよ。誰も、駆けつけはしないわ。

 野次馬にすら、ならないでしょうよ」

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「倒れているライリーを見下ろして、あなたと

 レイシーは二人きり。何があったのです?」

「話したくないわ」

「それはそうでしょう。でも、話して下さい。

 気が楽になるかもしれませんよ」

「そうね…ああ、ライル…私達、なぜ、こんな

 事になってしまったのかしら?なぜ?

 あの時…あの日の、あの後…私は…私は」 

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その日…。

 

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「逃げなさい、レイシー」

「警察に行くわ、私。見たでしょ、アマンダ。

 私は、ライリーを殺した」

「彼は大丈夫。生きているわ」

「それでも、私は罰を受けるべき…」

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「バカ言わないで。わかってるクセに。例え

 死んでも…まあ、死にかけても、ライリーは

 あなたのせいだなんて言わないわ。決して。

 自分で窓から落ちた、と言い張る。

 万に一つも、あなたは刑務所には入らない。

 入ったとしても…想像がつくでしょ?

 ライリーは、全財産を投げうってでも、自分   

 の権力の底までも浚って、牢屋をホテル・

 リッツに変えるでしょうよ。

 インテリアコーディネーターに造園家に、

 室内プール、豪華なコース料理…」

「私は、どうなるの、アマンダ?」

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「卑怯者なら、この場に留まるでしょうね。

 罪など、どこにもない。

 万事、今までと変わらない毎日が送れるわ。

 ライリーの宝物」

「…。」

「レイシー?」

「嫌よ、嫌。それだけは…絶対に嫌」

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「だから、この場から去りなさい、レイシー。

 今を逃せば、もう終わりよ。 

 ここでライリーと離れれば、まだチャンスが 

 ある。あなた達ふたり共、変われるかもしれ

 ない」

「ふふふ」

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「何よ」

「そうなのね、そういう事なのね、アマンダ」

「何が」

「あなたが、ライリーを愛しているのは知って

 いたわ。ずっとずっと昔から、幼い頃から

 ずっとよね。

 可哀想に、孤独なアマンダ…ライリーだけが 

 あなたの中の、暖かく、形ある人間だったの

 よね。

 あなたの様な存在は、とても貴重なのに…

 それがライリーにはわからなかった。

 ライリーは、私以外、何も目に入らないの

 だから」

「そうね、レイシー」
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「あなた、どれほど私を憎んでいたのよ、ねえ

 アマンダ?

 私がいなくなる様に仕組めば、ライリーは

 あなただけの人になる。

 そうでしょ?」

「ええ、その通りよ、レイシー」

「いいのよ、アマンダ。私は、それもわかって

 いて、この道を選んだのだから」f:id:fureaimama:20220924134127j:image
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「もう二度と会う事は無いわ、私達。

 さようなら、レイシー」

「さようなら、アマンダ。

 さ…さようなら…さようなら…ライリー。

 寂しい…とても寂しいわ…」

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「レイシーは去って行ったわ。

 後は、説明の必要はないでしょう?

 あなたは…ライルは…一命を取り留めたけれど

 全ての記憶を失い、ある日、病院から脱走し

 てしまったの」

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「そして、僕はサンディになった」

「完全な記憶喪失は、とても珍しいそうね。

 もしかしたら、過去から逃れたいのかも

 知れない…と、お医者さんには言われたわ」

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「サンディ…黙ってしまったのね。

 どんな気持ち?」

「あなたに対して、気が咎めているのです」

「そう…あなた、今の暮らしは、幸せ?」

「とてもね。貧乏ですし、健康でもなく、そう

 長生きも出来ません。

 でも、大好きな仕事、大切な友達…

 それだけで…ええ…とても幸せです」

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「だったら、それでいいのよ」

「あなただけを、置き去りにして、逃げ出した

 ようで…。たくさん、人を傷つけた。

 レイシーのことも」

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「だとしても、それが人生じゃなくて?

 生まれた場所に留まる人もいれば、離れて

 いく人もいるわ。

 出会いもあれば、別れもあるし、その過程で

 誰かを傷つける事もある。故意にそうしたの

 でない限り、罪は無いわ。ただ、そうなって

 しまっただけで」

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「あなたは、幸せですか、アマンダ?」

「いいえ、大して。でも、それは私の問題よ。

 あなたに…つまり、サンディにも、ライリー

 にも、責任は無いわ」

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「ありがとう、アマンダ。

 あなたに会いに来て良かった」

「こちらこそ、ありがとう。

 ライリーが生きていて、幸せだとわかって、

 どんなに嬉しかったか…」

「レイシーは、どうでしょう。今、どこにいる

 のか、ご存知ですか?」

「いいえ。でも、あの子は心配いらないわ。

 多分、きちんと自分の人生を歩んでいる」

「きっと、そうですね」

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「では、本当のお別れを…。

 さようなら、アマンダ」

「さようなら、ライリー。永遠に。

 そして、サンディ…あなたは、レイシーに命

 を与えられた。体を大切に…精一杯、幸せに

 生きてね…お願い」

「約束します」

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終わり

 

エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasami。

おすすめは「いつもの帰り道」かな…?

 

 

#バービー#バービー・ショートストーリー

#小説#物語#バービー・コレクター#ドール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑩ライリー編その3

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「レイス…」

「いつも、私を見つけてくれるのね」

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「雨が落ちてきそうだから。僕らの庭園の中に

 は、雨が美しく見える場所が、いくつかある

 幼い頃から、君はここが好きだった」

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「ライリー…もう十分に待ったわ、私。返事を

 聞かせて」

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「あの話か…わかってる、わかっているんだ、

 レイス。君が、どれほど真剣か…軽々しくは

 扱えない問題だという事も。僕は…考えてみ 

 た…自分と向き合おうとしてみた。難しいね

 とても難しい。今まで、したことがなかった

 今も出来ているのか自信がない」

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「辛かった?」

「とてもね…ああ、すごく苦しいよ、今、この 

 瞬間も」

「わかるわ…でも、いつかは向き合わなくては

 ならないのよ、ライリー」

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「僕の人生に、ここまで踏み込む事は、誰に 

 も許さない。唯一、君だけなんだよ、それが

 出来るのは。僕に、そこまで親しく触れられ

 るのは、君だけだ。この世で、ただ一人、

 それが出来る人…」

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「アマンダもいるわ。あなたの力になろうと

 している。彼女は、本物の友達よ」

「確かに、彼女は、理解してくれる。僕の事を 

 僕以上に。それでも、僕は…僕の中に踏み

 込む事を許さない」

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「ライリー…私を愛してる?」

「ああ…レイス…愛してるよ。いつも変わりなく

 心の底から…10歳の、まだ幼い少年の日に、

 君を見て、その瞬間から…愛し始めたその日

 から、ずっと今も限りなく愛している。

 それでも…僕は行かないんだ、レイス」

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「なぜなの…私にはわからない…あなたは、ここ

 で幸せじゃない。私も幸せじゃない。一緒に

 逃げて、そうしたら…そうしたら…」

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「ダメだ、レイス。僕にはわかっている。

 ここから逃げたら…この人生を変えれば…

 僕らの結びつきも消える。僕らは別れ、他人

 同士になるだろう。必要としないからだ。

 僕の人生はね、レイス、すでに終わっている

 のだよ。

 悲しいが、わかって欲しい。受け入れて 

 欲しいのだ。君のせいではないし、誰のせい

 でもない。ただ、もう終わりなのだ」

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「嫌よ…諦めるには早すぎるわ。あなたは、

 まだ、26の若さなのよ」

「年齢は関係ない。人生は、与えられたものさ

 レイス。自分で変えられる部分は、本当に

 僅かだ。

 君が僕を置いていなくなれば、僕はここでの

 人生に、その非道さに耐えられなくなる。

 でも、君を留めて、このままの人生を続けれ

 ば、僕も君も、異常な結びつきに耐えられな

 くなるだろう。いずれ、必ず」

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「私は、もう限界なのよ、ライリー」

「君を苦しめるのは、耐えられない。

 なんとかしなくては、いけないんだ。

 だが、君と二人で、一緒にここから逃げ出

 したら、僕は…僕は…」

「はっきり言ってちょうだい」

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「人生の苦しみからは逃れられるだろうが、

 代わりに、君を愛さなくなるだろう。

 君が必要でなくなるからだ。僕は、そこまで

 ひどく君を利用した…。

 でも、知らなかったんだ。信じて、レイス。  

 自分が、君に、酷い仕打ちをしている事に、

 気付かなかった。

 これまで、僕の全てだった君が、どうでも

 よい他人になる。それも恐ろしい…」

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「だから、君と一緒には、逃げられない。

 僕は、ひどい事を言っているね、レイス。

 大富豪?青年社長?僕は塵芥と一緒だ。どう

 にもならないんだ、もう」

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「あなたの人生を、それほど苦しいものにして

 いるその訳を、私に話して、ライリー」

「無理だ」

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「話せないのね…」

「君には話せない。知らないでいて欲しいんだ

 君には、僕の現実を知られたくない」

「あなたは、そうかもしれない。私は違うわ!   

 どこでも、どんな場所の、どんな生活でも

 あなたを愛せる。大好き、大好きなのよ、

 ライリー…どんなあなたでも…私の気持ちを、

 なぜ、信じてくれないの?」

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「それは誤解だ、レイス。君は、どんな僕でも

 受け入れてくれるだろう。君を信じてるよ。

 僕が、耐えられないのだ。

 君の前でだけは、普通の人でいたい。普通の

 優しい人でいられる…それは癒しだ。

 思えば僕は、ただひたすら、普通の人でいた 

 かったんだ。ずっと、そう願っていた。叶わ

 ない夢なのだけれど、君の前だけでは、夢の 

 世界にいられたんだね…」

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「私の苦痛がわかる、ライリー。私の苦しみが

 わかる?」

「わかっていないと思う。レイス…すまない」

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「ここでの生活の苦しみ…あなたのそれとは

 違うけれど、教えてあげるわ、ライリー。

 羽毛にくるまれた様に大事にされて、宝物の

 様に大切に扱われて…何でも、好きな物を

 好きなだけ、際限なく与えられて、誰もが

 夢見る生活…でも、誰だって、きっと耐えら

 れないだろうと思うわ。それは辛すぎる生活

 でもあるのよ」

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「考えてもみて、ライリー。

 すごくハンサムで、素晴らしく優しくて、

 本当に素敵な…若い…自分とそうは違わない

 若さの男性が…いつも傍にいて、限りなく

 慈しんでくれて、それで…それで…優しく

 触れてくれて…でも、それは、宝石に触れて

 いるのと同じなの。でなきゃ、コレクターズ

 アイテム?

 私は、生身の人間なのよ。夢の世界の人形

 ではないの。現実の女性として愛して欲しい

 のに…そういう思いで触れて欲しいのに、

 叶わない。この辛さがわかる?」

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「僕には、生身の人間は必要ない」

「自分が、愛している男性が、心底、不幸なの

 も…辛いわ」

「僕は、君をも不幸にしていた。絶対に幸せに

 すると…毎日、ただひたすら、君を想ってい

 たのに。

 そんな資格がなかったんだね。自分ですら、

 幸せに出来ないのだから」
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「ライリー…私を抱いて…抱いてよ。体で、愛を  

 結びたいの、私は」

「無理だ。僕には出来ない」

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「体で紡ぐ愛は、恥ずかしい事ではないのよ、

 ライリー。汚い事でもないわ。

 現実の愛。体温を感じ、生きている事を感じ

 られる愛なのよ。勇気を出して…ライリー。

 私と、体で愛を奏でれば、きっと人生を取り

 戻せるわ」 

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「やめてくれ、レイス。僕はもう、希望を持つ

 事に疲れた…生きるのに疲れた。

 君には酷い仕打ちをしたけれど、君といる時 

 だけ、僕は幸せだった。どうか、これだけは 

 信じて欲しい…僕は自分に出来る、精一杯の

 事をしたんだ…

 大した事は出来なかったけれど、それでも、

 精一杯に頑張ったんだよ」

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「知ってるわ…。

 それで?これは何なの?」

「プレゼントだけど…いや、わかってるよ、

 レイス。嫌なんだよね。貰いたくない。

 それが、わからないほど、馬鹿ではない

 つもりだ」 

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「だったら、なぜ?」

「わからない…いわば、習慣なんだ。買って

 帰らないと、落ち着かなくて…」

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「あなたなんか、大嫌い!」

「レイス…」

「大嫌い、大嫌い!一人にして!」

「レイス!」

「…」

「…」

「ごめんなさい…取り乱して。

 しばらく、一人で過ごすわ。

 考えたいの。私、とても傷ついた。それに

 疲れた…。お願いよ、ライリー。お願い!

 絶対について来ないで!」

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「レイシー…どうしたの?あなた、大丈夫?」

「アマンダ…来てくれて、ありがとう。

 どうしても、聞きたい事があって。

 それは…」

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「言わなくても、わかっているわ。いつか、

 あなたが、聞きに来ると知っていたし、

 あなたになら、話したいとも思っていた。

 本当に、いいの?恐ろしい話なのよ」

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「知らないではいられないわ。ライリー…私が

 16年も共に暮らしてきた人…愛してきた人…

 ねえ、彼は…彼は…一体、何者なの?」

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「中規模の製薬会社の社長よ。代々、血族経営

 の」

「表向きを聞いているのじゃないわ!私、

 怒っているのよ、アマンダ。もう、嘘は沢山

 よ!あなたも、ライリーも、マグダラも、嘘

 ばっかり、最低よ!私は…」

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「ライリーの一族はね…究極のマッチポンプ

 世界を操っているの。致死性のウイルスや

 細菌を作り上げ、選び抜いた場所に広めて、

 時期をみて、ワクチンや薬を投下する」

「バカな事、言わないで。本当に、そんな事を 

 していたら、世界でも有数の、巨大製薬会社

 になってるはずでしょ」

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「あなた、変わった考え方する子ね。

 儲けるのが目的ではないわ。操るのが目的な

 のよ。目立たない存在を装わないとね。

 世界を動かすには、巨大なマネーだけでは

 不十分なの。恐怖、パニック、階級格差

 ヘクトクライム、戦争…様々な姿に偽装した

 グループが、世界を動かしている。

 ライリーは、病気と、その恐怖で操る。

 奇跡の薬や、ワクチン、空虚な希望や、生へ

 の執着でも、大衆は操れる。

 まあね、担当業務ってワケ」

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「なぜ…そんな事をするの?」

「ずっと昔の昔から、ライリーの一族の担当と

 決まっているからよ。はっきりは知らない

 けれど、もしかしたら、人々が、まだ洞窟に

 に暮らしていた時代に遡るかもね。

 何が目的なのかなんて、わからなくなってる

 の。あえて言うなら、操るのが、人間の性…

 負った本能だからかしら。誰かがしないでは

 いられないのよ」

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「あなた達は、支配者なの?」

「違う。

 私の一族も、ライルの一族も、操るだけで

 はなくて、誰かに操られている駒でもあるの

 よ、多分…。

 けれど、指し手が巨大すぎて見えないし、 

 知ろうとするのは危険だわ。

 だから、いわばムードで動いてる」

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「ムードですって?」

「血族の感覚…受け継いできた伝統ね」

「あなたの一族の役割は?」

「ライルの一族とは、切っても切れない仲。

 お役人と政治家の一族よ」

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「ライリーは、苦しんでいるわ」

「稀に…本当に稀に…彼の様な人がいる。

 完璧に操られ、縛り付けられ、洗脳されて

 いるはずなのに、それを弾いてしまう人。

 自分に疑問を持ったり、苦しんだり…

 一族の中の腐ったリンゴよ」

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「腐ったリンゴは、どう取り除くの?」

「手を出す必要は無いわ。自滅するのを待てば

 いい」

「あなたも、腐ったリンゴよ、アマンダ」

「私は違う!なぜ、そんな事を言うの!」

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「ライリーの為に泣いてるからよ。彼を想って

 涙を流している。彼を愛しているから…だわ

 あなたも、腐ったリンゴなのよ」

「…」

「…」

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「ライルを助けたい…でも、どうしていいのか

 わからない…わからないのよ、レイシー」

「私は家出するわ」

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「レイシー…それは、無理だわ。ライルは、

 あなたに中毒してるのよ。

 頭では、そうすべきでないと理解していても 

 それでも、あなたを追い求めるわ。 

 世界中の警官や探偵を使ってでも、あなたを  

 探し出そうとする。

 これは、比喩ではないのよ。

 彼には、それだけの財力と権力があるの」

「大丈夫よ」

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「ライルに死ねと言うの?あなたを失えば、彼

 は生きていけないのよ」

「大丈夫よ」

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「どういう事?何を考えているの?」

「しばらく、あなたの家に匿って、アマンダ。 

 まさか、そこにいるとは思わないでしょう」

「質問に答えてくれる?」

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「私も、ライリーを愛してる。でも、私は、

 あなたとは違う。

 ライリーを解放してみせるわ」 

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ライリー編その4に続きます。

エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasamiです。

よろしくお願いします。

 

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑩ライリー編その2

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「今晩は、ライリー」

「最高の美女が登場。約束通り、来てくれたん 

 だね、アマンダ。遠い所をすまない」f:id:fureaimama:20220323045514j:image

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「隣家だけど。お金持ちは皆、因果な家を持つ

 のねえ。敷地が広すぎるのよ。

 久しぶりだから、道に迷ったわ」

「人の事を、とやかく言えるのかね。君の一族

 の屋敷は、もっと広い。ヴェルサイユ宮殿

 同然だ」

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「一つ屋根の下、と言ってもまた、広大過ぎる 

 屋根だけど、一緒に住んでいる親戚の中には

 どこの誰で、いつ現れたかわからない人間が

 沢山いるの。顔を合わせた事が、一度も無い

 とか、珍しくないわ」

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「他人が住んでるかもしれないぞ。昔から、君  

 の家には行きたくなかった。得体が知れない

 人間がウヨウヨいるし、誰が使用人なのか

 も、そのランクもはっきりしない。

 トイレが四十もあるのに、いつも探しあぐね

 て粗相しそうになるし、なんとか辿り着いて 

 も、掃除してなくて不潔そのものだ。使用人

 が百の単位でいるはずだろう?バレなきゃ

 いいとばかり、どこも掃除されてやしない。

 子供エリアに運ばれてくる食事は、冷めてる

 か乾燥しきってる。2日前のパーティー

 残り物が、平然と、銀の盆で登場したりな。

 何でも揃っているはずなのに…ジュースを

 こぼした時の手拭きタオルだとか、宿題を

 する為の鉛筆だとか、指のささくれが痛む時

 の絆創膏だとか、何でも無い物が、無い!

 つまり…手近に無い。頼む人もいない。

 いつも我慢だ。君たち一族は、常識がない」
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「あなたの一族だって、似たようなものだった

 わ。マグダラが変えるまでは。彼女は全てを

 変えた。ある時を境に」

「そうだな。いや、長い夜になりそうだ。

 幼馴染みとの話は尽きないね。まずは座って

 落ちつこう。僕は酒を飲まないが、君には

 ダルモアを用意してある。アンゴスチュラ

 ビターズを2滴垂らしてね。好みが、変わっ

 てないといいが。クリスマス・ローズの部屋

 でいい?」

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「マグダラの部屋だったわね」

「ああ。でも、母は、あの部屋を好きでなかっ

 た。亡くなるまで、2、3回しか訪れていな

 いはずだ」

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「マグダラの居場所は、いつだって一つだけ。 

 レイシーがいる場所。ところで、彼女は?」

「室内プールで泳いでから、眠ると言ってた。 

 あの子には、長い1日だったからね」f:id:fureaimama:20220323050548j:image
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「良かったわ。滅多に無い事だし、今夜は、

 二人きりでいたいの。邪魔されたくない」

「レイスは、気遣いのある子だ。そんな…」f:id:fureaimama:20220323050646j:image

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「もちろん、レイシーは良い子よ。問題は、

 あなた」

「僕?だとしても、君に何の関係がある?

 何も知らないくせに、君は…」

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「部屋に入っていいかしら?それとも、お帰り

 はあちら…と、追い出されるの?」

「…」

「ライル?」

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「ああ…もちろん、入ってくれ。どうか…座って 

 ごめんよ、アマンダ。僕は、どうも短気で

 いけない。どうして、君が我慢できるのか、

 僕と友達でいてくれるのか、わからないよ」f:id:fureaimama:20220323051840j:image

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「あなたは、いつも短気なわけではないからよ

 レイシーの話をしてる時だけだわ。レイシー

 の事となると、人が変わってしまう。

 だから、聞きたいのよ、話したいの。

 いくらでも癇癪を起こせばいいし、礼儀知ら

 ずな物言いをすればいい。私は、幼馴染みと

 いうだけではないわ。あなたを怖がらない、

 強い人間なの。心配しなくていいし、謝らな

 くてもいい。貴重な存在でしょう?」

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「本当に…そうだな。で?何を聞きたい?」

「レイシー…レイシーの事。ねえ、ライル。

 レイシーって、何者なの?」

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「今更、それを聞くのか?」

「わからない事を聞くのは、何時だろうと恥ず

 かしい事ではないわ」

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「なぜ、今までに聞かなかったのだ?」

「考えていたから。レイシーは、あなたにとっ

 て、どんな存在なのか。マグダラにとって、

 どんな存在なのか。大体、見当はつけたわ。

 後は、あなたから、答えを聞きたい」

「どう答えればいいのか、わからないよ」f:id:fureaimama:20220323052424j:image

「じゃあ、こちらから質問してあげるわ。

 まず、マグダラの事から」

「母の話?そこまで、遡る必要があるのか?」f:id:fureaimama:20220326070053j:image

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「マグダラ。あの人こそ、全ての始まりよ」

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「マグダラは、なぜ、あんなにもレイシーを…

 なんて表現すればいいのかしら。溺愛なんて

 いう言葉じゃ、甘すぎる。実の子でもないの

 に、レイシー、レイシー、レイシーって、

 そればっかり。血が繋がっている子供は、

 あなたなのに。実子を差し置いて、レイシー

 ばかりチヤホヤして、変でしょうが。

 毎日がレイシーの為に始まって、レイシーに

 仕える事で過ぎて、レイシーを見守って終わ

 る。レイシーが、マトモで良い子に育ったの

 が不思議なくらいよ。何でも出来る財力に

 加えて、彼女が歩いた地面を拝まんばかりの

 愛情…というか、あんなに小さい子供には

 不似合いな…敬愛?愛情の爆発…うーん、

 愛情の爆風?閃光?なんか、破滅的なの。

 レイシーは、甘やかされて、暴君になっても 

 おかしくなかったわ。私は独身だし、子供も

 いないけれど、それでも、良くない子育てだ

 とわかる。ここに来た時、レイシーは幾つ? 

 五歳?」

「四歳だ」

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「レイシーが来て、全てが変わったわ。

 それまでは、私、マグダラのお気に入りだっ

 た。いつも、家に呼んでくれて、とても親切

 だった。あなたの世話は、子守りと家庭教師

 と、子育てアドバイザーに任せきりなのに、

 私が遊びに行くと、マグダラご自身がご降臨

 下さる」

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「今、思うと、あなたと私が、仲良くなれる様

 に、マグダラは心を砕いていたのね。将来、

 一族のビジネスを継ぐのは私だと見抜いて、

 だから、あなたとの絆を作るのが必要だった

 のよ。幼馴染みの状態を作り出そうとしてた

 ビジネスの為に、子供まで利用する。

 マグダラは…見かけは、優しくて穏やかな人

 に見えたわ。カールした栗色の髪。薔薇色の 

 頬に、暖かみのあるグリーンの瞳。

 でも、それは見せかけだけ。

 本当は、冷酷な人よ。最低!」

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「小さい頃から、僕は、君が好きだったよ。

 君が家に来る時は、母もいる。優しく世話し 

 てくれ、話を聞いてくれる。オヤツを出して

 くれるし、手を握って…微笑みかけてくれる

 そりゃ、なんか変だと感じてはいたさ。でも

 例え不自然でも、それでも、僕は嬉しくて、

 そこに意味があったんだ」
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「レイシーが来て、マグダラは豹変したわ。

 しばらくは、混乱して辛かった。自分が、

 何かまずい事をして、マグダラに嫌われたと 

 思ったから」

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「ずっと付き合いは続いていたじゃないか。

 誕生日パーティーやお茶会には、必ず君を

 招待していたよ」

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「数百人の客の一人としてね。

 家族の輪には入れてくれなくなった。内輪の

 集まりには、二度と呼んでもらえなかった。

 マグダラの頭は、レイシーで一杯で、私の事

 完全に忘れてしまったのよ。

 あなたを、また、身近に感じられるように 

 なったのは…親しく付き合えるようになった

 のは、マグダラが死んでからよ。でなければ

 私は、永遠に、あなたを遠くから見つめてい

 るだけだったでしょうよ。

 20歳で母親を亡くしたあなたに、こんな事を 

 言ってはいけないのかもしれないけど、私、

 マグダラが大嫌い!」

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「僕の中の、母のイメージはずっと…ドレスや

 スーツで決めた後ろ姿だった。

 いつも、背を向けている。顔は曖昧な記憶し

 かなくて、どんな声かも知らなかった。

 仕事、仕事で、僕の傍には決していなかった

 でも、寂しかったかなあ?辛かった記憶は、

 あまり無い。母を尊敬していたし、そういう

 ものだと、思っていたからね」

「馬鹿馬鹿しい、嘘つき」 

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「は?」

「寂しかったに決まってるでしょ。誤魔化すの

 は止めて、ライル。正直に話しても、傷つく

 人は、ここにはいないのよ。心配しないで、

 大丈夫よ。本心を話して」

「嘘はついていない。レイシーが来るまで、

 僕は、自分がどれだけ孤独なのか、気がつい 

 ていなかったんだ」

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「レイシーが来て…マグダラのイメージは変化

 した?」

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「ああ、変わったよ。すごくね。

 平日は相変わらず仕事だったけど、5時には

 帰ってくる。休日は、1日中、僕らの傍にい

 て、ピクニックしたり海で泳いだり。

 食事も一緒にしてくれるし、話も聞いてくれ

 るし、子守り歌も歌ってくれる。病気になれ 

 ば、看病もしてくれるんだ!

 レイスが来た時、僕は10歳だったからね。

 子供っぽいと言われるかもしれないが、

 嬉しかったな。幸せだった。

 父も、よく姿を見せるようになったし、母と

 親しく顔を合わせてもいた。

 レイスのお陰で…本当の家族になれたんだ」

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「マグダラの、イメージを聞いたんだけど」

「イメージ…そうだなあ。

 レイスを見つめてる。痛いくらいの愛情でね

 僕は、少し離れた所から見守っている。

 母は、視線を感じて微笑み、僕を手招きする

 僕は、また少しだけ近づく。そして、また、

 二人を見守るんだ」

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「普通…嫉妬するんじゃないかしら?片方の子

 だけが、可愛がられていたら。しかも、実子

 はあなたなのに、レイシーが愛情を独占し

 ている。普通は…そう、普通の子なら、憎む

   と思う。激しい憎悪に駆られる筈よ。

 ライル、あなたはレイシーを憎まないの?」

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「とんでもない!そんな事、考えた事もない。

 どうして、僕がレイスを!?下らん。

 憶測で、エセ心理学者みたいなマネをするの 

 は、やめた方がいいぞ。

 レイスが来て…母は変わった。もう、後ろ姿

 ではなくなった。触れれば、暖かくそこに

 存在する。僕にも、優しくしてくれたんだ。

 兄妹差別など受けてない。僕とレイスは、

 そもそも、兄妹ではないのだし」

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「そうかしら?私、地元のデパートの子供服

 売場で、マグダラとレイシーを見た事がある

 のよ。レイシーが…七歳くらいの時。

 店の在庫全てを買い占めてたわ。有名な話よ

 文房具でも靴でも絵本でも、レイシーの物と

 なると、マグダラは、店全体、丸ごと買って

 しまう。一方、あなたはどう?子守りが選ん

 で、常識的に買った物ばかり。マグダラと

 買い物に行った事ある?」

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「僕は男だよ、アマンダ。一緒に買い物なんて

 楽しめないさ。だから、母も…」

「映画は?観劇は?遊園地やら水族館は?」

「残念でした。ちゃんと一緒に行ったよ」

「レイシーが、あなたと一緒にいたがったから

 でしょ。レイシーの希望は絶対なのよね、

 あなたも、マグダラも。誤魔化さないで。

 ちゃんと答えて、ライル」

「何を答えろと?」

「兄妹差別は、あったのよ。でも、なぜ?

 マグダラにとって、あなたとレイシーは、

 どう違うの?」

「…。」

「ライル?」

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「今の今まで、考えてみた事もなかった。

 でも、なんとなく、わかる。

 僕は、後継者となる可能性が高い子供だ。

 昔から連綿と、ただ続いていく、一族の…

 恐るべき仕事を、引き継ぐ運命が待つ。

 甘やかして、溺愛して…そんな育て方は…

 例え、どんなにそうしたくても、母は出来な

 かっただろう」

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「レイシーは?」

「レイシーは一族ではない。血の繋がりがない

 負わねばならぬ責もない。

 可愛がりたいだけ、可愛がれる。甘やかした

 いだけ、甘やかせられる」

「ライル…あの子、何者なの?レイシーって、

 誰なの?今は成長して、あんなに美しく

 なって…でも、私は、あの子が怖い。今も

 ここに…あなたと私の間にいる気がして。

 マグダラとあなたの間にもいた。

 レイシーって、何者なの?」

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「怯えた様に話す事じゃない。シンプルな事情

 なんだ。驚く事じゃないよ。

 レイスは、短期里親プロジェクトで、うちに

 来たんだ。それだけだ、それだけの事」

「ずいぶんと強調するのね。そのプロジェクト

 の事、話してちょうだい」

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「当時、よく行われていた企画なんだ。

 家庭の事情で、短期間、施設に暮らしている

 子供を、里親として預かり、数ヶ月ほど、

 一緒に暮らす。家庭生活を忘れない為…だそ

 うだ。やがて時期がくれば、子供は親元に

 戻っていく。当時、裕福な家庭ではね、

 ボランティアとして、このプロジェクトに

 参加するのが、ほとんど義務化してたんだ」

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「レイシーは、親元に帰らなかったの?」

「母は…母は…レイスを見たその瞬間から、

 あの子を…愛した。心から、深く愛したんだ 

 狂おうしい気持ち…それはなにも、男女の間

 の愛だけとは限らない。

 母にとってレイシーは、自分の全てを変え、

 人生を支えてくれる愛、幸せを運んでくれる

 愛だったんだろう。自分という存在を救って

 くれる愛の形が、レイシーの形をとっていた

 のだ。僕には、よく、わかるよ」

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「なぜ、レイシーなの?理由は?」

「アマンダ。君は、人を愛する時、人を求める 

 時、必ず理由があると思うのかい?無い時も

 あるのさ。

 母も、うまく説明できなかったから、施設の

 人達との話し合いはしなかった。直接、

 レイシーの、実の母親を訪ね、その同意を得

 て、正式に我が家の養子にした。このあたり 

 の事情は、もちろん、レイシーも知ってい

 るよ。四歳になっていたからね。自分が養子 

 だという事はわかっていたし、大きくなって

 から、母はきちんと説明したから」
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「あなたのお父さんは?賛成したの?」

「さあ…知らんね。反対ではなかったんだろう

 一族の業務の中心は母で、会社の社長である

 のと同時に、絶対の権力者だ。父は、能力

 ゆえに選ばれた補佐に過ぎない。家庭にも、

 それが持ち込まれていた。父は、母に反対で

 きない」

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「レイシーの、実の母親って、どんな人?

 どうして、居場所がわかったの?」

「母が、お抱えの探偵に調べさせ、探り出した

 レイスの、実のお母さんは、シングルマザー

 でね。レイスを一人、部屋に置いて、1日中

 働いていた。気の毒に、過労で倒れて入院し

 てしまったんだ。そこで、健康が回復するま 

 で、レイスは施設に入った。親族は疎遠だっ

 たらしいから、行き場がなかったんだよ。

 母は、すぐに、レイスのお母さんを最高級の 

 療養所に入れ、退院後に移れる豪邸をも用意

 した。加えて、先までずっと不自由なく暮ら

 せる資産も、贈与してあげた。なんといって

 も、レイスを産んでくれた人なんだからね。

 敬意を表して、それくらいは…ね。

 レイスのお母さんは、賢い人で、すぐに同意

 が得られたんだ。レイスを養子にもらえて、

 彼女は、正式に母の子供になった」

「お金で、子供を買ったって事?」

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「な、何て事を…どうして、君は、そんな汚わ

 らしい発想しかできないのだ?

 実の親と里親が、話し合い、子供にとって

 一番、良い道を選んだだけじゃないか。

 レイスのお母さんは、子供の為にと涙を飲ん

 で、母にレイスを託した。さもなければ、誰

 が、あんなに愛しい、素晴らしい子供を手放

 すものか。レイスのお母さんは、清らかで

 優しく、天使の様な女性だったそうだ」

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「マグダラが、そう言ったの?お涙頂戴もいい

 所だわ。その後、実の親は、レイシーに面会

 しに来た?」

「それは、しない約束だった。レイスを、混乱

 させたくないからね」

「優しい女性が、なぜ、そんな真似が出来るの

 よ?」

「よく知りもしない人の悪口は、やめたまえ。

 レイスのお母さんは…ただ…若くて不運だった

 それだけだ」

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「変な話よね。継子虐めの話なら、昔話には、

 よくあるわ。それが、溺愛話とはね。滅多に

 ない。ダメよ、ライル。マグダラのやり方を

 引き継いではダメ。絶対にダメよ」

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「何を言ってる?何の話だ?」

「代理型…」

「は?何?」

「お腹が空いて辛いなら、食べ物を食べれば、

 苦痛はなくなるわ。でも、食べられない事態

 に追い詰められていたら?

 代わりに誰か…選んだ特別な誰かに、食べ物

 を与える手もあるわ。その人に、食べ物を

 沢山与えて、与えて、幸せな顔を見ると、

 まるで、自分が食べている気持ちになれる」

「何を言っているのか、全然わからない」f:id:fureaimama:20220326070214j:image

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「愛情、労り、癒し、思いやり…それも同じな

 のよ、ライル。

 レイシーにそれらを与える事で…自分も与え

 られている気分になれる。その内、中毒して

 しまう。レイシーが望んでもいないのに、

 労り保護しようとする。自分が、欲している

 からなのよ。止められない」

「何の話だ?やめてくれ、アマンダ」

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「止めないわ。

 マグダラは、まだ良いのよ、ライル。

 彼女の役柄は母親。同性だし、年齢的にも相 

 応しかった。

 あなたは、違うわ。レイシーの気持ちを考え

 た事ある?レイシーにとってのあなたを?

 若くて、すごいハンサムで、優しくて、大金 

 持ち。心から愛してくれ、大事に、大切にし

 てくれる男性…あなたにとって、レイシーは

 何なの、ライリー」

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「さあ…難しい…そのように…考えた事がない。

 どうだろう…わからない…ただ…ただ…大切な

 掛け替えの無い…」

「あなたもマグダラと同じ。苦しんでる。辛い

 のよね。一族の仕事…その非情さ、残酷な

 側面が…」

「何が側面だ。全体丸ごと、冷酷極まりない

 所行じゃないか。君は辛くないのか?」

「運命よ。生まれた場所を受け入れたら、私は

 悩まない」

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「僕は辛い…」

「だったら、きちんと逃げ出す方法を探すべき

 だわ。辞めるべきなのよ、どんなに危険でも

 人ひとりの人生を、利用してはいけないわ。

 ライル!レイシーは、癒しアイテムではない

 のよ!」

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「どうすればいいのか、わからない…。幼い頃

 からずっと、一族の仕事を学んできた。

 勉強から人との付き合い、食事の仕方から

 スポーツ、音楽…僕の人生の全ては、一族の

 仕事を率いる為だ。今更…どうしようもない

 逃げ出すなど…裏切りだ。卑怯だ。仕事は

 定められた義務だ」

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「幸せになるのが、人間の義務よ。不幸なら、

 逃げ出さなくてはいけないのよ。

 今のままでは、あなたはダメになる。廃人に 

 なるわ。

 私も、出来るだけ力になる。レイシーにも

 話すのよ、ライル。あの子は賢い。必ず

 助けてくれるわ」

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「レイスに?あの子には、話せない」

「なぜよ?」

「僕がレイスを守る立場だ。助けるのは僕で、

 レイスじゃない」

「マグダラが、守りなさいとでも言ったの?」

「いや。僕とレイスの関係に、母は口を出した

 事はない」

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「酷い人ね、ライル。あなたは」

「僕が?」 

「もう夜明けね。私は帰るわ。よく考えてね、

 ライル。そして、忘れないで…どんな時も、

 私はあなたの味方よ。あなたの為なら、何で

 もする」

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「ありがとう、アマンダ…気持ちは有難いよ」

「…。」

「…。」

「この家、ホールの壁から、海の底が見れるの

 ね。改装したの?」

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「ああ…レイシーは、海が好きだから」

「レイシーが、頼んだの?」

「いや…ただ…喜ぶかなっと…」

「で?喜んだ?」

「いや、ああ…どうなんだろう…た、たぶん…」f:id:fureaimama:20220326072242j:image

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「レイシーの事も…ちゃんと考えて。本気で、

 想ってあげてよ。あなたが幸せな人になれ 

 ば、今のレイシーは必要ではなくなるわ」

「なんだって?」

「あなたが今、見ているレイシーは、あなたが

 見たいレイシーだという事。本当のレイシー

 は、あなたが思うのと、たぶん全然、違う人

 だわ」

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「…。」

「それじゃあ、またね、ライリー」

「ああ…また…アマンダ」

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「レイス?」

「ひっ、驚いたわ、ライリー」

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「ごめんね。でも、僕も驚いた。まだ、夜が

 明けたばかりなのに、どうしたんだい?

 何をしてるの、レイス?」

「散歩」

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「外出着じゃないか。嘘はいけないな」

「ライリー…」

「ああ、わかってる。干渉し過ぎだよね。

 どうして、こうまで心配性なんだろう。

 君は、僕の宝だから、レイス…」

「いいのよ、ライリー。アマンダは、もう

 帰ったの?」

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「ああ。僕の事を、ずいぶん心配している」

「彼女は、あなたの事を、よく知っているの

 ね。私は何も知らないのに」

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「君のせいじゃない。知って欲しくないんだ。

 本当に大事な人には、話せない事もあるよ」 

「そうね。でも、私にも出来る事があるわ。

 あなたの為に、出来る事が」

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そのままの君でいてくれれば…」

「私と一緒に逃げて、ライリー」

「え…?」

「失踪するのよ。全てを捨てて。二人だけで、

 どこか遠くへ行きましょう」

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「そんな…」

「断ち切るのよ」

「僕と君には、無理だ」

「どうしてなの」

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「え…その…そう、仕事が…」

「辞めたら、口封じに殺されでもするの?

 私が知らないだけで、あなた、マフィアなの

 ライリー。さもなきゃ、殺し屋?」

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「違う。もっと恐ろしい姿をしてる。君の前に

 いる男は」

「あなたは、まだ26歳。私は20歳。諦めるのは

 早い。私と一緒に消えましょう、ライリー」

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「無理だよ…だって…そう、お金がなければ、

 贅沢させてあげられないし…」

「私が、貧乏など恐れると思うの?二人とも、

 教育は受けている。普通の生活はできるわ」

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「色々と、複雑な手続きもあるし…何年かかる

 かわからない…」

「あなたを不幸にしている相手に、誠意なんて

 尽くさなくていいわ。全てを捨てるの。今

 すぐ逃げるの」

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「レイス…」

「あなたの為だけじゃないのよ、ライリー。

 私、もう、こんな生活、耐えられない」
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「何て事だ。君は…不幸なのか、レイス?」

「ずっと大事にして貰ったわ。不幸とは違う。 

 本当に欲しいものが、手に入らないだけ」 

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「教えてくれ、レイス…君が、本当に求めて

 いるものを…」

「あなたよ、ライリー。私が求めているのは、

 あなた。あなた、だけ」

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「僕?僕など、もう手に入れているじゃないか

 レイス。僕の全ては、君のものだ」

「違うの、そうじゃなくて…ああ、もう嫌。

 私と来て、ライリー。行こう、一緒に」

「待ってくれ、待って…すぐには…とても…」

「怖いのね」

「だ、大丈夫。心配しないでいい。僕に任せて

 くれれば…」

「心配なんて、してない!」

「少し、考えさせてくれ、レイス」

「もちろんよ、待つわ。でも、長くは待たない

 わよ。私達は、若い。だからこそ、時間が

 無いの」

「わかった。決断する。約束するから…」

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ライリー編その3に続きます。

エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasamiです。

「ヘルズスクエアの子供たち」がお気に入りの

作品です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑩ライリー編その1

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「おかえりなさい、ライリー。ずいぶん早いの

 ね、まだ3時よ」

「アマンダ?久しぶり。今日は調子が悪くてね

 逃げ出してきた。君こそ、仕事の鬼が…ここ

 で何を?平日は、太陽など目にしない人間だ

 ろう?」

「あなたに話があったので、秘書に電話したら

 もう帰ったと言うじゃない。慌てて、私も

 早退して、帰宅を待っていたのよ。あなたと

 違って社長様じゃないけど、あなたと同様、

 それぐらいの我が儘は、通せる立場。

 夕食に出かけない?」

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「悪いが、酷く疲れてる。早くベッドに辿り着

 いて、眠りたい。倒れそうだよ」

「こんな広大な庭園など作るからよ。門から家

 まで、徒歩一時間。景観維持で車道も無し。

 あなたの趣味ではないでしょうに。

 花畑に森に、池に川。草原に山に、海。

 あの子の為に…次は自宅に、何を持ってくる

 気よ?マッターホルン珊瑚礁?洞窟?

 ああ…洞窟はもう、あったわね。

 庭など、コンクリートで固めてしまえば、車

 でビューンと、家まで15分で済むわ」
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「ハ…ハハハ。君らしいな。とにかく、今は

 仕事の話など御免だ」

「私とあなた、それぞれの一族の仕事は、暗黙

 の了解から成り立っているのよ。代々、遥か

 昔から。口に出してはいけないの。仕事の話

 じゃないわ」

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「ならば、訂正しよう。何の話でも御免だ。

 僕だって、耐えきれなくなる事はあるさ。

 朝の4時から、冷酷無情なビジネスの世界に

 いたんだ。これ以上、1分だって耐えられな

 い。今はただ…ただ…会いたい…会いたい…」

「何なの、ライル。聞こえないわ。あなた…

 大丈夫?」

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「ああ…いや…ああ…すまない、アマンダ。僕は

 時々、ひどい礼儀知らずになるね。君は元気

 かい?うまくいってる?」

「元気かどうか、自分で確かめる事も、出来な

 かったみたいね。私達は、隣人…幼なじみ…

 仕事のパートナー…なのに、ここ何週間も、

 顔を見てないのよ。会社も休みがちだし、

 電話も出ないし、メールも無視。心配だわ」f:id:fureaimama:20220223154620j:image

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「会社の業績は順調だし、何の問題も無し。

 第一、君には関係ない」

「馬鹿げた事、言わないで。確かに、私は、

 あなたの会社の人間ではないけれど、社長の

 動向は大事なの。我が一族と、あなたの一族

 は、切っても切れないほど絡まり合っていて

 深い縁でつながれている。私達は、一族内の

 競争に打ち勝って、ビジネスを継ぐ立場。 

 関係ないでは済まないわ。それだけじゃない

 私達は、ずっと支え合ってきたじゃない。

 共に歩んできたわ。好む好まないに関わらず

 いつも傍にいた。

 心配ぐらい、する権利はあるわ」

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「わかった、わかったよ。君にはいつも負けて

 しまうな。オムツ姿の頃から、ずっとね。何 

 を聞きたいんだい?」

「あなたの顔色が悪い事…目に隈が…それに痩せ

 こけて…落ち着きが無いし…具合が悪そうよ。

 あなたは、お酒もタバコも麻薬もやらない、

 ヘルシー人間。不治の病も、持病も無し。

 なのに、こんなにも、やつれ果てて。

 あのね、ライル。慌てて話せる事では無いの

 時間を取って頂戴。ただし、今日よ」

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「今日でなくては、ダメか?」

「引き伸ばせば、機会は失われる。いつも、

 そうして逃げるんだから。ダ・メ。今日よ」

「わかった。じゃあ、夕食を…あれ?あれあれ

 あれ?あの子は…また!」

「どうしたの、ライル?ちょ、ちょっと!どこ

 に行くのよ?そっちは崖よ!」

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「レイシー!」

「ライリー!帰ってたのね」

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「ライル?ああ…崖下に、レイシーがいたの。

 よくわかったわね」

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「あの子がどこにいようと、僕にはわかる。

 岩場に出てはいけないと、あれほど言っただ

 ろう、レイシー!潮の流れが激しいんだ!

 溺れたら、どうする!ケイトはどこだ?

 ボディーガードのくせに、傍を離れるなんて

 クビだ!」

「よく聞こえないわ!怒ってるの?」

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「君が、地球を破壊した所で、僕は怒りはしな 

 いだろうさ、レイス!

 でも、危険な事は別だ!砂浜の方に回るんだ

 早くしなさい!僕もすぐに行くから。足元に

 気を付けるんだよ、レイス、滑るから…ほら  

 よく注意して…危ない!」

「大丈夫よ、ライリー。すぐに行くわ」

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「やれやれ、お転婆さんだ。怖くて仕方ない。

 それにしても、ケイトは何をしてるんだ、

 全く…忌々しい!」

「ライル、落ち着いてよ」

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「え?ああ…。

 びっくりさせないでくれ、アマンダ。

 まだ、いたのか。こういう事情だから、また

 後で。レイシーが…」

「は?何、言ってるの、ライル」

「君も見ただろう。あんな薄着で、水飛沫を

 浴びて、レイスが風邪をひく。こんな時の

 為に、ビーチハウスに毛皮を仕舞っているん

 だ。早く、持って行ってあげないと。

 じゃあ、これで。またね、アマンダ」

「ああ、もう…。仕方ないわね。待って頂戴、

 ライル。私も行くわ」

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「いや、それは、その…。いや、悪いがね、

 アマンダ。レイシーが…」

「まだ、予定を立てていないのよ、私達。

 それに、レイシーに挨拶してないし」

「大切な家族の時間なんだ。出来れば、遠慮し

 てくれないか」

「そうでしょうね。でも、今度ばかりは駄目よ

 ライル」

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「ライリー、おかえりなさい」

「レイス…レイス…やっと会えた…」

「朝、起きたら、もう、いないんだもの」

「ごめんね、レイス。仕事だから…ごめんね。

 何年も離れていた気分だよ。寂しかった?」

「いいのよ」

「ところで、さっきの危険な真似だが、レイス

 ケイトはどこだ?」

「こんにちは、レイシー」

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「こんにちは、アマンダ。会えて嬉しいわ」

「口を挟まないでくれ、アマンダ。ケイトは

 どこなんだ、レイス」

「落ち着いてね、ライリー」

「どうして、二人とも、僕に落ち着け、落ち着

 け、と言うんだ?

 落ち着ける訳がないだろう!」

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「ケイトなら、家の中で、私を探してるわ」

「君が危険地帯にいて、ケイトが、暖かくて

 安全な家にいる?どういう事だ?」

「だって…たまには一人になりたいもの…。

 だから、三階のトイレの窓から、こっそり

 抜け出したの」

「さ、さ、三階の窓から!?な、な、なんて

 危ない真似を…レイス!」

「いいじゃない、ライル。レイシーだって、時

 には、プライバシーが欲しいわよ」

「君は黙っててくれ、アマンダ」

「お願い、彼女をクビにしないで、ライリー。

 私がいけないのだもの。でも…そんなに悪い

 事かしら?」

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「君は、僕の宝なんだよ、レイス。この世に

 一つしかない、唯一無二の宝物に、警備を

 つけないバカがどこにいる。

 もう二度と、こんな真似をしないと約束して

 くれ、レイシー。

 そうすれば、ケイトはクビにしないよ、今は

 ね、とりあえず」

「レイシーが気の毒よ、ライル。それじゃあ、

 脅迫じゃないの」

「うるさいぞ、アマンダ」

「ありがとう、アマンダ。私は大丈夫よ」

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「レイス、おいで。濡れてしまう。寒いよ」

「ちっとも冷たくないわ。もう、春なのね。

 アマンダ、あなたも、水に入らない?」

「私は、岩の上にいるわ。濡れた砂は嫌い」

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「さあ、レイス。君も毛皮にくるまりなさい。

 暖かくして…ほらほら。君の小さな手が…

 こんなに冷たくなって…」

「ライリー…」

「うん?どうしたの?」

「いい事、思いついたの」

「何だい?なんでも、言ってごらん」

「今日は、砂浜でお夕食にしない?最近、食欲

 が無いみたいだし、気分が変わっていいかも 

 しれないわ」

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「素晴らしいね!最高だよ、レイス。鳶に、

 食べ物を取られないように、注意しなくちゃ

 ね。ハハハッ、この間、クッキーを取られた

 の、憶えているだろう?君ときたら…ハハハ

 さっそく、準備をさせよう!」

「あなた、倒れそうじゃなかったの、ライル?

 すぐにベッドに入りたい、眠りたいって、

 そう言ってたじゃない」

「そうなの、ライリー?だったら…」

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「例え、具合が悪かったとしても、君の顔を

 目にした瞬間に治ってしまうんだ、レイス。

 暮れていく海と、君と…これ以上の処方箋が

 あるかい?もう、すっかり元気一杯だ。

 ああ…僕のレイシー…綺麗だよ、レイス」 

「なら…いいんだけれど。そうだわ、アマンダ… 

 あの、あなたもご一緒にお夕食をいかが?」

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「ありがと、レイシー。でも、結構。私、

 魚介アレルギーなの」

「そうなのか?僕は、初耳だが」

「ごめんなさいね、レイシー。ライルと大事な

 打ち合わせがあるの。席を外してくれる?」

「そんな必要は無いよ、レイス」

「いいのよ、アマンダ。何も問題は無いわ。

 私は、家に帰って、夕食の準備をする」

「ミラにさせればいいよ、レイス。その為の

 家政婦だ。君はのんびりしていなくちゃね」

「自分で出来るわ」

「…レイス、ミラはどこだ?」

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「あの…眩暈がするというから、車で自宅まで

 送らせたのだけれど…」

「な、なんだと?」

「彼女、貧血気味だから…知ってるでしょう」

「いや、知らんね」

「ライリー…あの…私は大丈夫だから」

「レイス…君は、本当に優しいんだね。ミラは

 働き過ぎなんだろうよ。長期の…うんと長期

 の休暇をあげないといけないな」

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「私…ライリー…あの、もう行くわね。

 さようなら、アマンダ」

「またね、レイシー」

「火を使うんじゃないよ、レイス!包丁も触っ

 てはいけないよ!怪我したら、大変だっ」
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「彼女、もう行っちゃったわよ、ライル。

 聞こえやしないわ」

「缶切りに気を付けるんだよ!バーナーも

 触れたら駄目だっ」

「ライルったら!」

「すまない、アマンダ。一本だけ、電話を掛け

 させてくれ。二分で済む。それが終わったら

 心して君の話を聞くから」

「いいわよ、もう…好きにしたら」

「ありがとう」

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「もしもし?ライリーだ。ミラの首を切れ。

 どのミラって、ミラが何人もいるわけ無い。

 うちの家政婦のミラだよ。割り増し退職金

 は、気前良く積んでやれ。レイスを逆恨みで 

 もされたらかなわん」

「ライル!そんな事はしちゃ駄目よ」

「黙っててくれっ。あ?いや、君に言ったわけ

 じゃない。こっちの話だ。

 代わりの者を早急に手配してくれ。本人は

 もちろん…そう、そう…解ってるじゃないか、

 身内全員、キレイな人間かを、徹底的に調べ

 上げろ。過去に、駐車違反一つでもあったら 

 承知しないぞ。じゃあ、頼むよ」

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「ミラをクビにするの?レイシーが、彼女を

 帰宅させたんじゃない。体調不良なら、誰 

 だって同じ事をするわ。レイシーの判断は

 正しいのよ」

「例え、死の間際だろうが何だろうが、僕が

 帰るまでは、レイスの傍にいるべきなんだ。

 そういう契約で、高給を払って雇ったんだぞ

 色々と特典付きでな!ミラの母親が、最高級

 老人ホームで悠々自適の生活を送れているの

 は、誰のおかげだ?ミラの子供達が、私立の

 学校に通えているのは、誰のおかげだ?

 え?君か?」

「クビになったら、特典も終わり?」

「約束を違えたのは、僕じゃない。ミラの方

 じゃないか。あの…恩知らずめっ」

「あなたの部下が、具合が悪かったら?早退

 させるでしょう?」

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「仕事とコレとは、別の話だ。それくらい、

 解るだろう」

「ミラにとっては、仕事の話よ。それに、コレ

 とは何よ、コレって?レイシーは、特別と

 いう訳なの?」

「何を言ってるんだ、君は?当たり前じゃない

 か」

「ライル…レイシーは、小さな子供じゃないわ 

 二十歳を過ぎてるし、ケイトもいる。

 あなたの地所と、七軒…違った、八軒の家 

 は、全て最新の警備システムで守られている 

 し、パトロールしている警備員は何人?20人 

 を越えてるんじゃないの?ミラが早退したか

   らといって、何が起こるっていうのよ?

 レイシーは、死にはしないわよ」

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「この問題について、これ以上、話すつもりは

 ない。これは、僕の家族の問題で、君には

 関係ない。それより、君の話を聞こう。

 すまない、待たせたね」

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「今夜、夕食が済んだ頃、あなたの家に行くわ

 ね。そこで、しっかり話し合いましょう」

「それは悪いよ。僕が訪ねよう」

「私は、あなたと違って元気なの。大丈夫よ」

「わかった。久しぶりに語り合うのも悪くは

 ないな。待ってるよ」

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「どうも、のっぴきならない状態になっている

 ようよ、あなたは」

「そうかな。自分では解らないが」

「私は、あなたにとって、貴重な存在よね、

 ライル。

 遠慮せず、怖がらず、率直に意見する。

 あなたの周りには、そんな人はいないわ」

「僕もわかってるんだ、アマンダ。君の優しさ

 も、僕の為を想ってくれてる事も。嬉しいよ

 ありがたい」

「ああ…ライル…私…」

「何?」

「何でも無いわ。また、後で」

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「喉が詰まってしまいそうだよ、レイス。

 話してごらん」

「え?」

「話したい事があるんだよね?」

「ええ…でも…言い出し難くて」

「僕の態度が良くないのかな?直せる所は直す

 遠慮なく言って欲しい。僕のどこが…?」

「あなたは、何も悪くないわ、ライリー。

 心配しないで」

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「ただ…私、今の様に遊んでばかりはいけない

 と思って…」

「学校を卒業したばかりじゃないか。堂々と 

 遊んでいていいのに、君は毎日、お稽古、

 スクール通いだ。もう少し、のんびりして

 いていいんだよ」

「あなたも、アマンダも、いえ、世の中の人も

 みんな、バリバリ働いているわ。私も仕事を

 すべきだと思うの」

「な…ちょっ…ちょっと待って…えっと…レイス

 そ、その…え…ええ?レ…レイス…レイス…」

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「ライリー、大丈夫?」

「大丈夫…いや、全然…そうでもないかと…いや

 大丈夫…だけど…だけど…ど、ど、ど、えっと

 ど、どうして、どうして…そんな事を…?」

「人殺しをしたい訳じゃないわ、ライリー。

 ただの仕事よ。みんな、しているわ」

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「君は、君は、働く必要なんか、どこにも無い

 母は、巨額の遺産を、君と僕に、平等に残し

 てる。一生涯、贅沢に遊び暮らせる額だよ。

 なんの紐もついてない。条件無し、自由に

 使える財産だ。それとも…僕からのお小遣い

 が、充分でないのかい?額を増やそうか?」

「何を言ってるの、ライリー!あなたが、毎月

 くれるお小遣いは、普通の勤め人の年収と

 同じ。足りない訳がないでしょう。貰い過ぎ

 だわ」

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「僕は、君の行動を制限はしないよ、決して。

 何をしても、何を買っても、全て君の自由だ

 どこに行くのも、詮索はしない。まあ、その

 なんだ…運転手つきの車で、ボディーガード 

 を伴う、これは守ってもらわなければいけな 

 いけれど…それは譲れない部分だけれど…

 あとは、何をしても…」

「あなたも、大層な資産家よ。でも、働いてい

 るじゃないの」

「後継ぎだから、仕方がないんだよ」

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「でも、私も…」

「わかった、わかったよ、レイス。君の希望は

 絶対だ。どんな事でも、必ず叶える。

 僕に全て任せておきたまえ」

「え?」

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「好きな職種は、何かな?ただ、僕に告げて

 くれればいいんだ。心のままに、望むままに

 君に相応しい職場を探してあげよう。

 何の心配も要らないよ。

 普通の会社でも、芸能関係でも、美術関係?

 動物、スポーツ、どんな勤めでもいい。

 会社、組織ごと、買いとってやる。

 なにより快適な職場にしなくちゃね。

 君に説教したり、叱ったり、そんな奴らは、

 一人だっていさせるものか。辛い思いは、

 絶対にさせないからね」

「…。」

「レイス?」

「…。」

「レイス!大丈夫かい?」

「え…ええ」

「それで?」

「あの…ゆっくり考えてからにするわ」

「そうか。それが一番だよ。焦る必要など、

 全く無いのだからね。それに…正直な所、

 僕は…こうして…ただ、いつも傍にいて…

 優雅に、のんびりしていて欲しいんだよ。

 レイス…君は、僕の宝石だ…かけがえのない、

 至高の存在なんだよ…」

「わかってるわ、ライリー。ええ、よくわかっ

 てるの」

 

 

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 ライリー(サンディ)編、その②に続きます。

 

 エブリスタで、小説も公開中。

 『たくましき人々』では、様々な人々の

 個性豊かな生き様を綴っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑨後編

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「先日の話の続きを聞かせて下さい」

「ライリー…つまり、過去のあなたとの間に

 起こった事は、もう全部、話したわ。十分で

 しょ」

「全く不十分です。疑問が解消されてません。

 あなたは、四年前、ライリーに『青の貴婦  

 人』を貰った。それなのに、あなたは今に

 なって、いきなり現れ『青の貴婦人は、どこ

 にあるのよ?』なんて、この僕に聞く。

 失くしたのですか?」

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「サンディ…私…盗らなかったの」

「持っていけと言われたのに?」

「持っていくフリして、こっそり置いて帰った

 のよ」

「は?なぜ、そんな事を…?」

「わからない」

「何かしら理由はあるはずです」

「ただ…あなたが…いや、ライリーが…とても

 ハンサムで、大金持ちで、なのに、とてつ

 もなく不幸そうで…キツイ口調とは裏腹に、

 なんか今にも泣き出しそうで…なんて言うの

 かしら…本当に可哀想だったから」

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「それだけの事で…ですか?」

「いけない?」

「世間の一般常識からすれば、泥棒しなかった

 のは、いけなくありません。

 ただ…よく生きてましたね。悪党グループに

 どう言い訳を?」

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「あなたの…ごめん、ライリーが持っている 

『青の貴婦人』は贋作だった、と嘘ついたの」

「生皮剥がされなかったですか?」

「スキニーはすごーく嫌そうな顔をした。でも  

 彼は、それ以上は絡んでこなかった。お金を

 返せとも言わなかった」

「スキニーって?」

「あの、悪党グループの頭目。怒ったり、喚き  

 散らしたりもしない、脅しをかけてもこない   

 なんて、らしくなかったわ、彼。

 どうしてかしら?」

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「多分、あなたに、立派な美術品泥棒たる資格

 があるかの試験だったんでしょう。

 で、あなたは、落っこちた訳ですね。 

 しかし、わからないなあ。

 あなたの嘘に、騙されたのか騙されていない

 のか…スキニー達は、相変わらず、ライリー

 が『青の貴婦人』を持っている、と考えてい

 る。なぜです?」

「四年の間のどこかで、嘘がバレたんでしょ」f:id:fureaimama:20220122183201j:image

「ライリーが、僕だという事も知っている。変

 な言い方ですがね。本人すら、忘れていると

 いうのに。なぜ、わかったのだろう」

「調べたんでしょ」

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「ややこしい話だ。スキニーって人も、きっと

 そう考えていますよ。でも、枝葉を取り払い

 煎じ詰めれば、こういう事ですよね…

 『青の貴婦人』を、スキニーに渡すまでは、

 僕達二人とも、安心して生活できない、と」

「スキニー達は、あなたが…なんていうべきか

 そう、ライリー時代に住んでいた屋敷は、

 もう徹底的に調べたらしいわ。今も、昔の

 ままに維持されているから。

 ある人が、管理しているらしいけど、どんな

 酔狂かしらね。維持費ったら、凄まじい金額

 になるはずよ。彼女は、自分のお屋敷がある 

 から、そこに住んでもいないのに…」

「住む人もいないまま、保全されているんです

 ね」

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「スキニーは、もちろん管理者には内緒に、

 1ミリ単位で邸を調べたらしいけど。

 『青の貴婦人』はもちろん、他の宝石も全部

 なくなってたの。謎だわ。だから、スキニー

 はパニック起こしちゃって、サンディが隠し

 持っていると疑ったのよ。拷問にかければ

 吐くだろう…て」

「あなたが、全て盗った可能性もあります。

 疑われなかったのですか?」

「疑ってはいるでしょうね。でも、ライリー 

 は、行方をくらまして消えた。

 サンディと名を変えて、別の町で生きている

 私よりずっと怪しいわ。だから、生皮剥がさ

 れるのは、あなたが先なのよ」

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「それは困ります。だから…

 早速、回収にいきましょう。『青の貴婦人』

 を」

「話を聞いていなかったの?どこにいっちゃっ

 たのか、わからないの」

「僕にはわかります」

「記憶が蘇った?」

「いや、全然。だけど、ライリー自身が言って

 いたじゃないですか」

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「え?」

「持っていかないなら…窓から投げ捨てるぞ、

 とね」

「まさか…まさか!時価数十億という金額の、

 宝石コレクションよ!そんなバカな…庭に

 投げ捨てたって言うの?」

「彼は、そうしたんですよ」

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「窓から?庭に?投げて?捨てた?」

「理由はわからないが、あなたの話によれば、 

 彼は苦しんでいた。 

 全てを捨ててしまいたかったんでしょうね」

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「絵画や彫刻のコレクションは、捨ててなかっ

 たわよ」

「おそらく、途中で邪魔が入ったのですよ。

 それはまあ、置いといて…

 ライリーの屋敷に案内して下さい。

 庭を捜索しましょう。全く面倒ですね。

 あなたが最初から、素直に盗んでいれば、こ

 のような事には…」

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「過去の事、グチグチ蒸し返すの、大嫌い」

「よく言いますよ。あなたが、無理やり過去に

 引きずり込まなければ、僕は、平和に暮らせ

 ていたのに…」

「サンディ…そうよね…そうよ…その通りね…」

「いや…あの…」

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

「いやいや…僕の方こそ、謝ります。

 この問題は、僕の過去でもある。

 向き合うべきだ。逃げるのは、卑怯ですね。

 なんか、緊張して…落ち着かなくて…それに

 少し怖くて。あなたに当たってしまいました

「記憶喪失なのよ、怖いのは仕方ないわ。

 でも、私達、しばらく一緒に過ごすのだか

 ら、仲良くやりましょ」

「そうですね」

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「シェモーナ…ここ…個人の庭なんですか」

「ご要望通り、ご案内したの。ここがライリー

 の庭。その一部よ」

「一部?門や塀が無い理由がわかりました」

「町を柵で囲わないのと同じかな。広すぎる」

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「正面に見えているのが、ライリーの家?」

「その一部」

「一部?」

「敷地内に、八軒あるのよ」

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「それなのに、一人暮らし?非常識な青年だ」

「自分で建てたクセに…」

「それを言われると…。こんなにも財産家とは

 ライリーの仕事は、何なのですか?」

「確か…中程度の製薬会社の代表だったと思う

 けど」

「三十にも年が届かないのに?」

「一族経営だから。でも、それだけで、ここま

 での暮らしは出来ないと思うわ。代々、受け

 継いだ財産があるのでしょうね」

「それだけなら、いいのですが」

「スキニーも、同じ事を言ってた」

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「全ての家を、一軒ずつ見ていきましょうよ」

「そんな必要は、ありません。宝石の部屋が

 あった家の周囲だけを、捜索すればいいん

 ですから」

「それはそうだけど、一応、ぜんぶ見て回った

 方がいいわ」

「なぜです?」

「あなたの為よ。記憶が蘇るかもしれない」

「なるほど…僕の為に…ね」

「望んでいないかもしれないけど」

「一人だったら、多分、逃げ出してました。

 忘れ去り、捨てた過去を訪ねるのは、本当に

 怖いですね」

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「ライリーは…私にこう言ったのよ。人間一人

 の命と、引き換えに出来る物など無い…と。

 そんな人が、故意に誰かを傷つけたりすると

 は思えないわ。もし、そんな過去があっても

 きっと何か深い事情があって、不可抗力だっ

 たのよ!だから…怖がらないで…」

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「ありがとう、シェモーナ。あなたの言う通り

 であって欲しい」

「どんな過去でも、あなたは、今のあなたで

 いていいのよ。忘れないでね、サンディ」

「覚えておきます」

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「思い出した?」

「全然、ダメです」

「自分の家でしょ?記憶に無い?」

「無いですね」

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「こっちの家は?思い出した?」

「全然、ダメです」

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「思い出した?」

「イライラしてます」

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「ごめんなさい。しつこく聞きすぎね」

「あなたに腹を立ててはいません。苛立って

 いるのは、ライリーに対してです」

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「ライリーは、あなたなのよ」

「実感が無くて。ねえ、シェモーナ。僕が住む

 街には、ホームレスやストリートチルドレン

 が大勢います。ライリーの八軒の屋敷に、

 彼ら全員が入れる。それを思うとね…腹立た

 しくありませんか?」

「別に。世の中、そんなものじゃない?」

「僕は、そう思えませんね」

「あれが、私が忍び込んだ家よ。坂の下に…

 見えるでしょう」

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「宝石の部屋は?」

「家の裏手側よ。その先は、緩やかな崖」

「ライリーが、どれだけ強肩でも、そこまでは

 宝石を投げ飛ばせないでしょう」

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「発見されないままに、四年も放置されていた 

 のを忘れてるわ。嵐もあったし、豪雨も発生

 したでしょう。どこまで転がっていったか、

 わかったものじゃないわ」

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「崖の下には、何があるんです?」

「池、川、草原、林、橋…」

「個人の庭に?そこから、宝石一つを探しだせ 

 と?千年かかりますよ。全く、なんて事をし

 てくれたんだ、ライリーは」

「自分でしたくせに」

「うっ…文句も言えませんね…」

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「見つかったわ!」

「え!そ…それが『青の貴婦人』ですか!」

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「違う。ライリーの宝石コレクションの一つ

 だけど『青の貴婦人』ではないわ」

「青い石なのに…」

「だから?あなたも、ライリーも、本当に宝石 

 の知識がないのね」

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「僕も見つけました!これはどうです?」

「ダメ。『青の貴婦人』じゃないわ」

「青い石だけど…」

「だから!もう…」

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「見つけたわ…ティアラだけど…」

「小さいですね」

「でも、高価な物なの!しっかり、仕舞ってお

 いてよ」

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「僕も、見つけましたよ…でも、鑑定を頼むま

 でもなく『青の貴婦人』じゃないですね」

「わかるようになってきたじゃない」

「だって、ピンクの石ですから」

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「もうちょっとなんだけど…」

「落ちないで下さいよ!」

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「痛っ」

「大丈夫ですか?」

「尻餅ついちゃった」

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「やれやれ。これは長期戦を覚悟しないと。

 続きは、明日にしましょう。

 今夜、泊る所はありますか?」

「行く所があるの。サンディは?」

「友達に泊めてもらいますから」

「じゃあ、明日ね」

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「シェモーナ…あなたという人は、全く」

「何か?問題ある?」

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「昨日までのポカポカ陽気はどこへやら、今日

 は大雪なんですよ!なんで、もっと捜索に適 

 した、汚れてもいい服で来ないのです?

 そんなお洒落な、しかも白い服とは」

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「酷い!」

「え?え?」

「私が、借金だらけでお金が無いの、知ってる

 クセに。服なんて買えないわよ!」

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「よく意味がわからないのですが…」

「私の服、みんな貰い物なの。スキニーが買っ

 てくれた服しか持ってないのよ」

「スキニーって、悪党グループの頭目ですよ

 ね?」

「そう」

「彼が…その服を?」
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「悪い人だけど…会う度に素敵なプレゼントを

 くれるの。この帽子もいいでしょ?

 有名店で買ってくれたのよ。すごく高価いん

 だから!」

「はい?ええっと…彼が…そこまでするほど、

 あなたの事を好きなら…生皮剥がされるなん  

 て、怯えなくてもいいのでは?」

「公私の別は、しっかりつける人だから」

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「やっぱり、よくわかりませんが…いかにも

 寒そうですよ。僕のコートを着て下さい」

「好みじゃないから、嫌。絶対、着ないわ」

「はあ…美意識も結構ですけどね。凍死しない 

 で下さいよ」

「見つけた!『青の貴婦人』じゃないけど…」

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「今日も色々と発見しましたけれど、どれも  

 『青の貴婦人』ではありませんでしたね」

「また見つけた!違う品だけど…。うー…寒くて

 死にそうだわ。また、明日ね!」

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次の日…。

「昨日の雪が、今日はもう、消えているとは。

 暖かい…天候までメチャクチャだ」

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「見て、サンディ!昔のテラスよ、素敵ね」

「テラス?」

「自然に出来た洞窟を、くつろぎのスペースに

 するのが、流行った事があってね。テラスっ

 て言われていたのよ」

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「それは…そこに落ちている…もしかして…」

サファイアだわ!価値は相当よ。でも…」

「外れなんですね。『青の貴婦人』ではない」

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「待って!崖の上で、何か光った!」

「気をつけて下さい、シェモーナ!忘れている

 らしいですけどね、僕らは、他人の地所に、

 不法侵入してるんです!骨折しても、救急車 

 を呼ぶというわけには、いきません」

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「次は、ここね。今度こそ、見つかる気がする

 わ」

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「ここ…?こんな広大な地所から探すなんて、 

 全世界の夕食から、特定のシチュー1杯を探

 し出すような芸当ですよ…」

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「サンディ…サンディ!サンディ!サンディ!

 ついに…ついに…見つけたわ…ついに!

 『青の貴婦人』よ、見つけたわ!」

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「これが…?青くないじゃないですか」

「だから?」

「黒い石だ。なぜ『青の貴婦人』って呼ぶので

 す?」

「知らないわよ!当時の人に聞いたら?」

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「大したこと無い石に見えますが。これが、数 

 億の価値ある物ですかね?」

「石自体は、それほど高価ではないの。価値を

 発揮するのは…台座の中…ほら、出てきた」
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「なんです?その古めかしい紙は」

「ラブレターよ…。ヘンリー八世が愛人に送っ

 た物なの。奥さんにバレると怖いから、宝石 

 の中に隠して、プレゼントしたのよ」

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「その方が、もっと怒られそうですが。それに

 ヘンリー八世が、キャサリン王妃を怖がった

 なんて、信じられませんね」

アン・ブーリンの方」

「それは…さぞ怖かったでしょう」

「読んでみる?」

「いや、結構です。どうせ、下らない文句が

 並んでいるに決まってる。奥さんを裏切る

 なんて、最低じゃないですか。数億の価値が

 聞いて呆れますよ」

「欲しい人には、価値があるの」

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「これは、あなたの物よ、サンディ。ライリー

 の所有物だったのだし、ライリーは、あなた

 なんですもの。『青の貴婦人』も、他の宝石

 も、あなたの物」

「絶対に要りません!」

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「法的には、どうなるのかは知らないけど…」

「法律など、どうでもいい。欲しくない」

「困窮している人達が、救えるじゃない?」

「そんな事は、したくありません」

「どうして?」

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「僕は僕として…サンディとして…目の前に…

 現実に生きている…大切な人達の手助けを

 したい…自分の友達…自分が好きな人達を…

 全くの私情で…支えていきたいんです。様々

 な人の力を借りながら…僕を好きでいてくれ

 る人達と共に…そうやって生きたい」

「ライリーには、それが出来なかったのね。

 だから、あんなにも不幸だった」

「僕は、今、とても幸せなんです」

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「…」

「ライリーには、戻りたくない!」

「わかったわ…いいのよ、サンディ。それで、  

 いいのよ。

 『青の貴婦人』はスキニーに渡すけど、他の 

 宝石は、ぜーんぶ、私が貰うわ。あなたには 

 一つもあげないっ」

「…ありがとう、シェモーナ…ありがとう」

「それじゃあ、これで…さようならね。寂しい 

 けれど…あなたの為にもね…サンディ」

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「シェモーナ?」

「何?」

「まさかとは思うけど…宝石を現金化して、

 またギャンブルしようなんて、考えてません

 よね?」

「な…いや…べ、別にいいじゃない。今までは、

 確かに不運続きだったけど、それは、少ない

 資金しかなくて、粘れなかったからよ。大き 

 く賭けるお金があれば、うまくいくわ!」

「シェモーナ!」

「何よ?」

「いや…なんでもありません。あなたに幸運が

 ありますように」

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「サンディ…」

「何です?」

「ライリーの家を維持している人…敷地の隣の

 屋敷に住むアマンダって人なの。ライリーの

 幼なじみだと聞いたわ。覚悟が出来たら…

 いつか会ってみたら?」

「いつか…ね。色々、ありがとう」

「あなたにも幸運がありますように」

「さようなら、シェモーナ」

「さようなら、サンディ」

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次回は、ライリー(サンディ)とアマンダ、

レイシーのお話です。

 

エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasamiです。

たくましく生きる庶民の姿を書いてます。

よろしくお願いいたします

 

 

 

 

 

   

あなたのバービーは何を語る?⑨中編

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「四年前、私は、ライリーの…つまり、昔の

 あなたの家を訪ねた。広大な敷地に立つ、大

 豪邸だったわ。門から玄関まで、20分は歩い

 たわね。家も、あまりにも大きいし、幾つも

 玄関があって、どのドアを叩いたらいいのか

 わからなかった。とりあえず、一番近くの

 ノッカーを鳴らしたけれど、家人の耳に届く

 とは思えなかったから、30分ぐらいも、叩き

 続けたの。やっと、あなたが、出てきた時に

 は、緊張してたのが、すっかり取れてたわ」f:id:fureaimama:20211222050359j:image

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「君は誰だ?」

「あの…ライリーさんですか?」

「ああ、そうだが」

「未亡人共済組合から来ました。寄付をお願い

 します」

「寄付か…ポケットマネーでよければ、すぐ」

「いや、あの…出来れば、その…その、小切手で

 お願いします」

「ここには無い」

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「…」

「…」

「仕方がないな…まあ、入って」

「ありがとうございます!」

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「小切手を取りに行くから、ホールで待ってい

 てくれたまえ」

「いや、あの、その、あの…ご一緒します」

「書斎にあるんだ。遠い」

「でも…行きますわ。もし、よ、よければ…」

「ふむ…良くはないが、考えてみれば、悪くも

 ない。好きにしたまえ」

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「広いですわね。まるで迷路だわ。迷子になり 

 ません?」

「2、3の部屋しか使ってない。従ってルート

 は、いつも同じだ。迷う事は無い」

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「素晴らしいお屋敷ですけど…あちこち電球が

 切れてるし、ゴミが落ちてますわ。奥様は、

 使用人の方に、注意した方がいいわ」

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「結婚はしてないし、誰も雇っていない。僕は

 一人暮らしなんでね」

「え?こんな広大なお屋敷に、一人ですか?

 でも、家政婦さんくらいはいるでしょう?」

「完全に一人。一人っきりだ」

「どうですかね…それって…」

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「奇妙な言い方だな。どういう意味なんだ」

「べ、別に…深い意味はありませんけど…

 なんだか、このお屋敷、女性向けのデザイン

 の様に感じるので。女主人に合わせて作られ

 てるみたいに」

「そうか」

「…」

「着いたよ。この広間の奥が書斎だ。どうぞ」f:id:fureaimama:20211222082440j:image

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「いいお部屋だわ。立派な本棚…でも、本が

 ありませんね」

「本には興味が無い。ところで、小切手をどこ  

 にしまったか、思い出せなくてね。少し時間

 をもらおう。ソファにでも、座ってて」
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「ありが…いえ、止めておきますわ」

「なぜ、後退りするのだ?」

「なぜって、その…。

 肩掛けが置いてあるし、詩集が伏せたままで 

 す。まるで、その…その…」

「だから?」

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「一人暮らしだと仰ったけれど、誰か女性がい

 て…今は席を外しているけど、すぐに戻って

 くる…そんな感じがします。でも…花は枯れて

 ますのね。細く美しい手が、この花を活けて

 いた時は、色鮮やかに咲いていたでしょうに

 やっぱり、お一人なんですね…今は」

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「…」

「ライリーさん?大丈夫ですか?」

「え?ああ、何でもない。小切手を探そう」

「お願いします」

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「まったく…どこに仕舞ったんだか…ああ、紅茶

 かワインはいかがかな。悪いが、コーヒーは

 無い。見たくなくてね」

「いえ、結構です。ワインが沢山ありますのね

 みな、価値あるワインばかり」

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「ああ…そう…僕はよく知らないが。興味が無く

 てね」

「床に転がっている、そのワイン、稀少な逸品

 ですわ。なぜ、放り出していらっしゃるの」

「どうでもいいからだ」

「…」

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「やっと小切手が出てきた。

 宛先は…未亡人共和組合、だったかな」

「ええ」

「そうなのか?本当に?」

「ええ!」

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「それじゃ、これをどうぞ」

「ありがとうございます。では…私はこれで…」 

「見なくていいのか?」

「え?」

「小切手を渡されたら、必ず宛先と金額を確認

 するものだ。普通はね。なのに、君は、すぐ

 袖の中に突っ込んだ。見ていない。

 どうでもいいのかな」

「今、見ます!結構です、これで。それじゃあ

 私、帰りますわ。お邪魔しました」

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「玄関までお送りしよう」

「いえ!あの、その、大丈夫ですわ。ご足労

 いただかなくても。自分で帰れます」

「さっき、迷路の様だ、と言っていたが」

「順路は、覚えてますから」

「そうか。それでは、そうして貰おう。疲れた

 のでね」

「ドアに警報装置などありましたら、スイッチ

 を押していきますけど」

「警備は一切していない」

「警報ベルも無いんですか。こんな豪邸なのに

 無用心じゃありません?」

「守るべきものなど、もう何も無い」

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「そうですか…。わかりました。

 さようなら、ライリーさん」

「お嬢さん、お名前は?」

「シェモーナです」

「シェモーナ。君は、この後、仮装舞踏会にで

 も、行かれるのかな」

「いいえ。なぜです?私の格好、どこか変です

 か?」

「いや、ちっとも。ただ、仮面をつけている様

 に思えたのでね」

「…」

「気にしないでくれたまえ。

 さよなら、シェモーナ」

「ええ…さようなら」

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その夜…

 

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カチッ

 

「キャッ、いきなり何なのよ!」

「灯りをつけただけだ」

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「ライリーさん…」

「こんばんわ、シェモーナ」

「真夜中に、真っ暗闇の部屋で、一体、何して

 たのよ、あなたは!」

「最近、眠れなくてね。物思いにふけってた。

 いけないか?

 ところで、こちらからも幾つか質問がある」

「わかってるわ。答えるしかないでしょう?」

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「君、スカートはどうしたのだ?」

「どこかの部屋に置いてきたわ」

「今朝、君に寄付を渡した後、僕は君が、玄関

 から出るのを見ていない。いままで、潜んで

 いたのか。退屈だったろう?」

「いいえ。色々な部屋を見ていたから。確かに

 一見の価値がある屋敷だわね」

「そうか」

「…」

「…」

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「聞きたいのは、それだけ?」

「そんな訳が無いだろう。真夜中に、真っ暗闇

 の部屋で、君こそ何をしてるのだ?」

「それは、その…えっと…」

「言うまでもないと思うが、寝不足の人間は、

 短気で機嫌が良くない。作り話に興味は無い

 ズバリ、真実を話したまえ」

「私…美術品泥棒なの!」

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「専門外なので、僕は詳しくないのだが、君

 みたいな調子で、勤まるのか」

「初仕事だから、仕方ないでしょ!それに本業

 じゃないもの。本当の仕事は、美術品鑑定家

 …の卵…というか…志望」

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「なら、部屋を間違えているぞ。美術品の部屋

 は、向かい側だ」

「宝石の中にも、美術品と呼ばれる物があるの 

 よ。『青の貴婦人』とか」

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「青の…何だって?」

「知らないの?莫大なお金を出して、自分で

 買ったんでしょ!ああ…わかった。興味が

 無いのね。このコレクションは全部、誰か

 他の人の為に揃えたのね」

「なぜ、わかる」

「ここは、どう見ても女性の為の部屋だもの。

 靴が落ちてるし」

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「…」

「でも、その人、もういないのね…悲しい事が

 あったのね…」

「ああ。だが、何も言いたくない。だから、

 君の話を聞かせてくれ。何でもいい。例えば

 なぜ、泥棒になったのか」

「『青の貴婦人』は、盗むのが難しいの。

 贋作がたくさん出回ってて、本物と同時代

 に作られた偽物もある。スキルがいるのよ」f:id:fureaimama:20211222174751j:image

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「うちのは、本物か?」

「間違いなく、本物だわ」

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「持って行きたまえ」

「は?え?は?」

「宝石が欲しいのだろ。持って行きたまえよ」

「どういう事?」

「簡単な話だ。『青の貴婦人』とやらは、僕の

 物だ。君に譲渡する。それだけだ」

「それはダメでしょ、普通」

「なぜ、ダメなのだ?わからんね」

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「こういう物はね。個人の所有物であっても、

 そうじゃないのよ。文化的な、人類の資産。

 悪者に渡すのは、芸術への侮辱だわ」

「君の主張は、さっぱり理解できんね。

 そこまで言うのに、なぜ、盗む」

「ギャンブルで借金を背負わされちゃって…

 債権が、芸術専門悪党グループに渡ったから

 なの。スキルを使って、借金を返せって言わ

 れて…『青の貴婦人』を持っていかないと、

 私、生皮剥がされちゃうのよ!」

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「誰のギャンブル代だ?」

「私のよ、もちろん」

「君の?いや、失礼。てっきり、ロクデナシの

 父親とか、能無しの兄弟とか、放蕩者の恋人

 とかの借金を、被ってしまったのかと…」

「そんな訳ないでしょ。他人の借金なんか、

 知った事じゃないわ。自分のだから、困って

 いるんじゃない。それも、ものすごい額」f:id:fureaimama:20211222175451j:image

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「だったら、尚更、持って行きたまえ」

「闇から闇へ、そんな扱いを受けるべきじゃ

 ないのよ」

「君が?」

「『青の貴婦人』の事よ!文化的な…」

「知るか」

「え?」

「知った事じゃないと言ったんだ!

 偉大な美術品だかなんだか知らないが、今、

 大事なのは、君が、生皮剥がされないように

 することだろうが。

 僕にも、美術品を愛でる気持ちが無いという

 訳ではない。悪者に渡すべきでないという

 意見にも、まあ賛成する。

 だが、物は物でしかないんだ、シェモーナ。

 目の前の、人間一人の命と、天秤にかけられ

 る美術品など、この世に一つも無い。

 持っていかないなら、この…なんだ…えっと…

 『青の貴婦人』か…窓から投げ捨てるぞ!」f:id:fureaimama:20211222175351j:image
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 後編に続きます。

 後編は、現在に戻って、サンディ(ライリー)

 とシェモーナのお話です。


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エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasamiです。

「いつもの帰り道」は、ノスタルジックな作品

覗いてみて下さいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑨前編

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「起きて、起きて…えーと、サンディ…だった

 かしら…起きて」

「…。」

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「起きてったら!ねえ…もう…起きてよ」

「うーん…」


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「起きなさい!」

「え…はあ…はい!?いきなり、電気をつけなく

 ても…眩しい…」

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「起きて!」

「目が開いたんで、気がついたのですけどね。

 あなた、誰です?」

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「私の事、忘れちゃったの?」

「待って下さいね…まだ、寝ぼけていて…少し

 時間を貰わないと。えっと…その…いいえ、

 失礼ですが、あなたとお会いした記憶はない

 ですね。

 申し訳ないんですけど…って、よく考えたら

 あなたこそ、失礼じゃないですか?

 夜中の…えっと…3時か…こんな時間に、僕の

 部屋に押し入ってきて、叩き起こすなんて。

 僕は、気持ちよく寝ていたのに…」

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「よく眠れるようになったのね。良かったわ。

 でも、早く逃げないと」

「は?逃げる?なぜ?この世の終わりの鐘でも

 鳴りましたか?地球が真っ二つに割れでも

 しました?」

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「あなたは、時計を見間違えてるわ。3時じゃ

 ない。もう、4時27分に近いのよ。明るくな

 り始めてる」

「いや、そこが話のポイントじゃないんですよ

 時間なんて、どうでもいいでしょう?」f:id:fureaimama:20211127053354j:image

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「良くないわ。彼らがやって来る」

「彼らって?サンタクロースですか。それとも

 妖精かな」

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「悪い人達よ。あなた、襲われてもいいの?」

「もう、目が覚めているはずなんですけどね。

 あなたの言う事が、一言半句も理解できない

 んですよ。

 もしかして、部屋を間違えてませんか?」
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「頭がおかしいんじゃない?」

「どの口が、それを言いますか。僕は、悪党に

 襲われる様な物は、何一つとして持っていま

 せんよ。貧乏ジャーナリストですから」

「それにしては、素敵な部屋に住んでるわね」f:id:fureaimama:20211127053548j:image

「大家さんが、とても良い方だから」

「この椅子も、とっても座り心地がいいわ」f:id:fureaimama:20211127071452j:image

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「ありがとう。でも、僕が買ったんじゃない。  

 友達が作ってくれた物なんです」

「クッションを切り裂いたら、怒る?」

「はあ?そんな事は、させませんよ」

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「このマントルピースも、豪華ね」

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「友達が…」

「まさか、これも、友達が作ったなんて言わ

 ないわよね?」

「僕が作れるわけがないじゃないですか」f:id:fureaimama:20211127053948j:image

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「ぶち壊したら、まずい?」

「絶対にダメです。大事にしてる」

「私を止められるの?」

「出来ますよ。ただ聞けばいい。何を探して

 いるんです?」

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「彼らは『青の貴婦人』を探してる。どこにあ

 るの?」

「それ、誰です?知りませんよ、そんな人」

「そう、惚けたいなら、惚けていればいいわ。

 あなたの留守中に、何度か、この部屋は

 家捜ししたわ。でも、見つからなかった。

 余計な事を言うようだけど、出かける時は、  

 鍵を掛けた方がいいわよ」

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「今、反省してますよ。僕の部屋を見学したい

 人が、やたらと多いらしい。ルーブル美術館

 でもないのに」

「何の話?」

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「僕にも、わかりません」

「本当に変な人!」

「僕が、ですか?あなたも、十分に変ですよ」

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「あなた、拷問されてもいいわけ?」

「いきなり、何を言い出すんです?もちろん、

 良くないですよ」

「殺されてもいいの?」

「それも、良くはないですね」

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「まあ、そこまではしないけど。多分」

「どっちですか…」

「あいつらに捕まれば、はっきりするわよ。

 試してみる?彼らは『青の貴婦人』を探して

 る。あなたが行方を知っていると、思い込ん

 でるのよ」

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「僕は、そんな人、知りません」

「人じゃないわよ!」

「そんなに、怒る事はないでしょう。

 普通、貴婦人と言ったら、人間です」

「その話は、後にしましょう。

 今はまず、逃げなきゃ。早くベッドから出て

 着替えなさい!」

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「さっきから、疑ってたんですけどね。

 もしかしたら、あなた…」

「思い出した?私の事…」

「酔っ払ってませんか?」

「馬鹿!」

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「僕が?」 

「他に誰がいるのよ?」

「あなたがいます」

「そう、死にたいなら、そうすれば。

 置いていくわよ、いいのね?」

「ぜひ、そうして下さい」

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「ダメ!あなたの事を救いたいのよ。あなたの

 為に、わざわざ駆けつけたのに…」

「わかりました、わかりました。何も、泣く事

 はないでしょう。逃げればいいんでしょう、

 逃げれば。何から逃げるんだか、まだ、よく

 わからないんですけどね」

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「窓から飛び降りるわよ!」

「二階ですよ、ここは」 

「だから何よ?私だって、窓から忍び込んだん

 ですからね!」

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「威張って胸張る事ですか、それが」

「早く、早く!窓ガラス、破る?」

「窓の鍵だって、掛けた事がないですよ。

 だから、あなただって、忍び込めたんだ。

 なぜ、窓ガラスを割る必要があるんです」f:id:fureaimama:20211127072711j:image

「そんな事、言ってる場合なの?」

「そもそも、どんな場面なんですか。

 今まさに、踏み込まれそうだというなら別

 ですがね。静かな夜だ。本当に、その悪党達

 やって来るんですか?」

「今日じゃないかもしれないけど」

「え…ええ!?」

「襲撃の日時は知らないのよ」

「…はあ!?」

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「踏み込まれる寸前で慌てるなんて、間違って

 るわ。被害に遭う前に、逃げなくちゃ。

 早めの行動が大事。常識ないの?」

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「多分、無いんですよ、僕は。

 なぜって、ドアから出ますからね」

「危険よ。鉢合わせしたら、どうするの」

「足の骨を折れば、危険が回避できると?」

「待って!置いていかないで!」

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「で?」

「それは、僕のセリフです」

「これから、どうしよう…」

「それも、僕のセリフですね」

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「何から話せばいいのか、わからないわ」

「とにかく、二人とも落ち着くべきです。

 夜もすっかり明けたし、暖かくて美しい秋の

 日だ。コーヒーでも買って散歩しましょう」f:id:fureaimama:20211127075551j:image

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「変わったわね、あなた。雰囲気が違う」

「いつの僕と比べて?」

「四年前」

「四年前…か」

「四年前のあなたは…コーヒーが嫌いだった」
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「落ち着きましたか?」

「ええ…ありがとう。もう、大丈夫だわ。

 でも、まだ頭がゴチャゴチャしてて、あー、 

 もう…もう…もう!何をどうしたらいいのか、

 わからないの」

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「だったら、まだ、大丈夫でもないし、落ち着

 いてもいないのですよ。

 しばらく黙って、お互いに考えをまとめる

 のは、どうですか」

「やってみるわ」

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「…。」

「…。」

「ダメ!」

「ダメ?」

「ダメ、ダメ、ダメ!私には無理。そのうち、

 月行きのエスカレーターが出来る日が来る

 かもしれないけれど、落ち着く日なんか、

 こないわ。何か質問してちょうだい、お願い

 そうしたら、多分、全て説明できるから」f:id:fureaimama:20211127075950j:image

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「いいですよ。じゃあ、まず、最初の質問。

 あなたのお名前は?」

「シェモーナ」

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「美しい名前だ。僕はサンディ」

「違うわ」

「何がです?」

「あなたの名前は、サンディじゃないわ」f:id:fureaimama:20211127080500j:image

「自分の名前を間違う人がいますかね」

「いるかもしれないわよ。

 今のあなたが、サンディと名乗っているのは

 知っているわ。

 でも、本名ではない。なぜ、誤魔化すの?」f:id:fureaimama:20211127080530j:image

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「誤魔化してはいません」

「四年前、どうして失踪したの?」

「失踪?僕がしたんですか」

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「質問して、とは言ったけど…全て疑問形に

 しろ、という意味じゃないのよ。

 からかってるの?それとも、私を信用でき

 ないから?無理ないけど、でも…」

「違う、違いますよ。そうじゃなくて…その、

 それは…その…」

「話にくい事みたいね。でも、私は引き下がら

 ないわよ」

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「そのようですね…。

 実は…覚えていないのですよ、過去を。

 サンディとして生きてきた、この三年間以外

 全ての記憶がなくなっているんです」

「そうだったの…それは…辛かったでしょうね」f:id:fureaimama:20211127080847j:image

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「嘘だ、と言われるのを、覚悟していたんです

 けどね。すぐに信じてくれるんですか?」

「まあね。信じるわ。でも、困ったわ。

 俗に言う…記憶喪失なの?」

「らしいですね」

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「確かに、頭を怪我したりすると、人格が変化

 したり、一部の記憶がなくなったりはする 

 みたいよね。でも、全ての記憶を失うという

 のは、珍しいのじゃなくて?」

「飛行機事故で、記憶が完全になくなった人の

 話を、聞いた事があります。稀ではあるが、

 実際に起こりうる。その人は、婚約者の存在

 すら、忘れてしまったそうですから」

「あなたには、何が起こったのかしら」f:id:fureaimama:20211127081140j:image

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「わかりません。でも、お医者さんによれば、

 僕は、過去のどこかで…多分、数年前に、

 大怪我をしたらしいのです。ここにいるの

 だから、生還したのは確かだけれど、助かっ

 たのは奇跡的だったのだろう…そう言ってま 

 した。その事故のショックで、記憶も消えた

 のでしょうね」

「元気になって良かったわ」

「それは違う。生還した…と言うと、人は皆、

 ピカピカの健康体に戻ったと思うみたいです

 けどね。そうではない。

 体の内外に負った重傷のせいで、寿命の

 大部分が失われてしまいましたから」f:id:fureaimama:20211127081235j:image

「私の言葉を誤解しているわ。元気になって

 良かった…というのは、怪我が治った云々の

 意味じゃないの。以前のあなた…私が知って

 いた過去のあなたは…全く生気がなかった。

 不幸そうで…悲しそうで…底知れない、闇の

 絶望があった。手で触れる事ができる程に。

 今のあなたは、そうじゃない。どれだけ死が 

 近くても…幸せそうだわ」

「もしかしたら、思い出したくない過去が、

 僕にはあるのかもしれない。だから、無意識

 の内に、記憶を消したのじゃないかと…。

 それが一番、怖かったのです。誰かを傷つけ

 ていたら…それが怖い」

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「私と出会ったのは、多分、事故の前だわ。

 記憶を失っていなかったし、怪我している

 様子もなかった」

「話してくれませんか。過去の僕の事を」

「力になれないのよ。

 私は、あなたの友達ではなかった。

 ほんの僅かな間、顔を合わせただけ。

 あなたの知りたがっている事を、明らかに

 出来ないと思う」

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「いいんですよ。気にしないで。それは、僕の

 問題で、あなたには、何の責任もない。

 ただ、聞きたいだけなんです。

 それに、あなたの側の事情もあるでしょう。

 『青の貴婦人』でしたか…大事な話なので

 しょう」

「そう…どの道、話さなくてはいけないのね。

 許して」
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「あなたの、以前の名前は、ライリー」

「変わってますね」

「一族の名前だと言ってたわ。代々、引き継ぐ

 血のつながり。逃れる事は出来ない運命…

 それを表すのだそうよ。

 名前は、簡単に捨てられないから」

「僕は、捨てたようですがね」

「簡単に、ではないでしょう」

「初めて会った時の事を、話して下さい」

「いいわ」

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中編に続きます。

 

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格差をテーマにしたものが、多いです。

ペンネームはmasamiです。