ふれあいママブログ

バービー人形大好きです。魅力を語らせて下さい。エブリスタ(estar.jp)で小説も公開中。ペンネームはmasamiです。大人も子供も楽しめる作品を、特に貧困や格差をテーマに書いてます。

あなたのバービーは何を語る?⑥後編

 

「サンディ!やっぱり来てくれたんだね。

 あなただけに話があるの。すぐに、私と外に

 来て!あそこの公園で話そうよ」

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「ちょっと待った、イーヴィ。ダイナさんに、

 お礼は?匿ってもらったんだよ、君は」

「ありがと!」

「ちょ…もう行ってしまった。まるで台風だ」

「若いんですわよ」

「昨日は、本当にありがとう、ダイナさん。

 助かりました。でも、申し訳なかったですね

 大変だったでしょう?」

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「あれで、とてもお行儀が良かったんですのよ

 あなたの顔を見て、苛立ったんでしょう」

「僕は、あの子に何もしていませんよ」

「いいえ、してますわよ、サンディ。今だって

 あの子は、すぐ来てと言ったのに、あなた、

 こうして私と話をしてますでしょう?」

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「数分間だけじゃないですか。でも、そういう

 事なら、仕方ないですね。それじゃあ、本当

 にありがとう、ダイナさん。今度、食事でも

 ご一緒しましょう」

「ひどい方!」

「え?」

「もう行ってしまうなんて、意地悪ですわ」

「でも、あなたがおっしゃったんですよ。すぐ

 イーヴィを追いかけなさい、と…」

「私は、あなたが人を怒らせがちな理由を、

 説明しただけですわ。怒らせておけばいいん

 ですのよ」

「そして、あなたも怒っていらっしゃる?」

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「私達が、一緒に食事したのは、二週間と3日

 も前ですのよ」

「お互い、仕事が忙しかったからでしょう」

「あなたにしては、ひどく馬鹿げた言い草です

 わ。どんな時でも、人は食べますわよ」

「僕が言いたいのはですね…いや、止めときま

 しょう」

「なぜ、止めるんですの」

「言えば言うほど、困った展開になりそうです

 からね」

「私達、お友達ですのに…寂しいですわ」

「あなたと食事したい人は、沢山いますよ」

「だから、何ですの?サンディ…体調は大丈夫

 です?言ってる事が変ですわ」

「確かに、マズイ事ばかり言いましたね。

 じゃあ、六日後『リーラの店』で、お食事し

 ませんか」

「六日も後ですの?それじゃあ、私達、1ヶ月

 も、会えない事になってしまいますわ!」

「その計算は、あまり正確とは言えませんよ」

「それに、あのレストランは、私、嫌いです」

「まだ行ってないでしょう。六日後が、オープ

 ニング・パーティーなんですから。実は、前

 からお誘いするつもりだったんですよ」

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「あそこのメニューは、あなたがお作りになっ

 たんですってね」

「よく知ってますね…。オーナーが友人なんで

 す。メニュー作成を手伝っただけですよ」

「私以外のお友達とは、お食事なさるのね」

「食事したわけじゃ、ありませんよ」

「食べないで、メニューの作成など出来ません

 わ」

「味見くらいは…いや、ダイナさん。こんな事

 をなさっちゃ、いけませんよ」

「私がいけないんですの?」

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「そうです。あなたは、間違っていますよ。

 僕にとって、あなたは、とても大切なお友達

 です。メニューについても、あなたのご意見

 を伺いたいのですよ。それなのに、断られた

 ら、僕はとても傷つきます」

「…。」

「…。」

「本当に…そうですわね。私…間違っていました

 わ。大好きなお友達を独占したいと思うのは

 いけない事でしたわね。ごめんなさい…」

「誰でも、そういう気持ちは持ってますよ。

 気になさらないで下さい。パーティーには、

 来てくれますね」

「仲直りできますの?」

「友達同士の間で、仲直りなど、必要ありませ

 ん」

「私…ただ不安なんですの…いなくなってしまわ

 ないで下さいね、サンディ…」

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「たとえ、そうなっても、あなたは大丈夫です

 よ」

「わかっています…でも、サンディ…お願い!」

「僕も、どうにか出来れば…と思います。でも

 どうにもならない事ですからね。今を大切に

 するだけです。それしか出来ない」

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「そうですわね…困らせて、ごめんなさい。

 さあ、もう、イーヴィの所に行ってあげて

 下さい。パーティーには私、うんと綺麗にし

 て行きますわ」

「いつだって、あなたは美しいですよ。

 楽しみにしています。じゃあ、その時に」

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「気をつけてね…サンディ」

「え?ああ…あの子の事ですか。大丈夫です。

 それじゃあ、さようなら」

「さようなら、サンディ」

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「待たせてしまって、ごめんね、イーヴィ」

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「やっと来た!あの人、あのダイナさんって

 ひと、何なの?あの人がくれた服、見てよ。

 ダサいよ」

「一晩で作ったなんて、さすがはダイナさん。

 いつか服のお店を持ちたいというのが、彼女

 の夢なんだよ」

「絶対に流行らないね。センスが古いもん。

 あんなオンボロ・アパートに住んでるのに、

 デザイナーになりたいなんて、笑っちゃう」

「彼女はゼロからスタートしたばかりなんだ。

 最初から、うまくはいかないよ。それでも、

 少しずつ顧客がついてるんだよ」

「私、こんな服は嫌だと言ったのに、あの人

 すごい頑固。ピンクの靴下も、ブーツも、

 預かるとか言って、取り上げられたんだよ。

 これから私が行く所がどこであれ、この

 ワンピースの方が似合うとか…変なの」

「僕には、女性の服など、よくわからないけど

 今の君は、とても可愛いと思うよ」

「本当?ねえ、本当に?それなら、いいけど」


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「ところで、今日は、ファッションの話をしに

 来たのではない。君のこれからについて、

 話しに来たんだよ。それで…」

「私、もう決めたんだ。あの掃き溜めみたいな

 場所には、もう戻らない。サンディと一緒に

 暮らす事にする」

「ダメだ」

「迷惑掛けないって。自分の食い扶持くらい

 稼げるし」

「ダメだ」

「なんでよ。私の事、好きならいいじゃない」

「ずっとずっと前から、君の事は大好きだよ、

 イーヴィ。ただし、それは恋愛感情ではない

 けれどね。

 僕は、君の将来について、プランを立ててあ

 る。もちろん、受け入れるかどうかは、君の

 自由だ。でも、とても良い案だと思うから、

 聞いて欲しいんだ。説明させてくれないか」

「やだ」

「聞くだけでもいいから。頼むよ、イーヴィ」

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「い・や・だ!嫌、嫌、嫌!聞きたくない!

 なんで、サンディと一緒に、自由気ままに

 暮らしちゃいけないのよ?私の事、嫌いなん

 でしょ。でなきゃ、断らないもん。好きだ

 なんて、嘘ばっかり。みんな、嘘ばっかり

 だよ、もうウンザリ!」

「僕は嘘などつかないよ」

「私の事なんか、誰も好きじゃないんだよ!

 みんな、みんな、大嫌い!特に、あんたは

 大嫌い!私、誰の事も信じやしないよ!

 誰も必要ない、要らない!これ以上、私に

 構ったら、ただじゃおかないから」

「イーヴィ…」

「近寄らないでよ!もう、傷つけられるのは、

 飽き飽きしたよ!そうはさせないから!

 あっちへ行って!傍に来たら、これで切って

 やる。ズタズタにしてやるからね」

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「ナイフを下ろすんだ、イーヴィ」

「嫌!切り裂いてやるから、あんたなんか」

「ナイフを下ろすんだよ…ハンナ」

「…。」

「…。」

「やっぱり…やっぱり、知っていたんだね、

 本当の名前。なんとなくわかってたけど…

 ずっとずっと昔に捨てた名なのに…」

「そう思えるだろうね、君には。でも、実際は

 そう昔の事ではない。まあ、僕の隣にお座り

 お話をしてあげよう。

 ナイフは、捨てなくてもいいけど、せめて、

 体から離して持ちなさい。躓いて、自分を

 刺してしまうといけない」

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「お話なんて、して貰ったことないよ」

「昔…と言っても、わずか三年前の事だけど

 今にも崩れそうな、家というより小屋から、

 一人の少女が出ていった。10歳だった。

 彼女の両親は、娘を放置したあげく、捨てて

 しまっていた。幸運な子供にとっては、家と

 路上は大違いだけれど、不幸な子供にとって

 は、違いは大して無い。そのまま、出ていく

 だけだ」

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「最初はむろん、彼女を利用しようとする連中

 がやって来た。が、わりとすぐに手を引いた

 ね。彼女は、怖いもの知らずで、情け知らず

 何をするかわからん子でね。とても残酷で、

 危険極まりない。操るには、あまりにも恐ろ

 しい。まるで、爆弾だったからね」

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「でも、僕は、その子が好きだった。それに

 とても賢い子だとも思ったね。彼女は、路上

 の連中を操りだし、やがてリーダー格になっ

 ていく。利口でないと、出来ない事だ。

 実際、どうしてなのかは千古の謎だが、彼女

 は、何桁もの足し算引き算、かけ算割り算を

 電卓の様な正確さと素早さで、やってのける

 難しい本も読めるし、世界中の国の名前も言

 えた。なぜ雪が降り、雷が鳴るのかも知って

 いる。学校に行った事がないのにね」

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「そこで、僕は、ある学校の校長と話をした。

 全寮制かつ少人数制の、とても良い学校なん

 だ。議論は白熱したが、結果、君ならば、

 という結論になった」

「どういう事?」

「人を選ぶという行動は、不快だ。したくはな 

 いさ、誰だって。しかし、全員を救う訳には

 いかない。だから、僕達は君を選んだ」

「そんな資格、私にはなかったよ」

「お話は最後まで聞くものだよ、ハンナ。

 僕は友人達から寄付を募った。学費には多す

 ぎる程の金額が集まったよ。それから、これ

 はと思う人に頼んで、君をいささか無理やり

 に…と言うより騙して、学校に連れていった

 最初は失敗したね。3日と待たず、脱走して

 しまったよ」

「どうして、サンディがしてくれなかったの?

 表に出てこなった。私は、誰が手を差し伸べ  

 てくれたのか、知らなかった」

「最初は、逃げ出すだろうと思っていたからだ

 二回目から、僕は名乗ろうと思っていた」

「私は、サンディの行為を無駄にした。最低だ

 よ。学校の人達も、すごく良くしてくれたの

 にさ…どうして逃げたのかわからない。軽蔑

 されるよ、恥ずかしいよ」

「それは間違いだよ、ハンナ。逃げ出したのは

 ごく自然な行動なんだ。ずっと路上で、自分

 の才覚一つで生きてきて、いきなり学校に

 溶け込めるはずはない。どんなに良い環境で

 も、馴染みがなければ、人は恐怖と居心地の

 悪さを感じるんだ」

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「軽蔑しないの?怒らないの?」

「全然」

「どうして?」

「理由が大事なの?」

「聞きたいよ」

「…。」

「聞かせてよ、サンディ」

「待て、待ってくれ。考えさせて欲しい」

「…。」

「で?」

「理由は…理由は…無い」

「あれだけ考え込んで、何、それ」

「真剣に考えたんだよ、ハンナ。でも、理由は

 無いんだ。強いて言うなら、君が君だからか

 な」

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「しかしね、ここからが計算違いだった。すぐ

 に見つけられる自信があったのに、君が発見

 出来ないんだ。焦ったよ。気が気でなかった

 やっと見つけたのが、昨日だ」

「地下道で会った時、何か感じたんだ。もしか

 したら、この人なのかな…って」

「学校に戻るんだ、ハンナ。話はもうついてる

 校長も、先生達も、君が来るのを待っている

 よ。君の状況は、きちんと理解してくれてる

 から大丈夫。誰も、怒ったり非難したりしな

 いよ」

「施しは受けない」

「施しじゃない。君の力になりたい人が沢山

 いる…それだけなんだ。

 それに、ただ貰える訳ではない。返さなけれ

 ばならないんだ。君が、正しく幸せな人にな

 る事で、みんなの善意に応えなければならな

 い。それは大変な事だ。でも、君なら出来る

 よ、ハンナ」

「できるかな」

「一つ、厳しい事を言うよ。

 これが最後かもしれないんだ。

 見捨てられるなんて、思わないで欲しい。

 決して、君を見限ったりしない。

 ただ…僕にはあまり、時間が無いんだよ」

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「急ぐよ、サンディ。私、急ぐよ。

 あなたに見せたい私を、見せる為に。

 急ぐよ。きっと急ぐから」

「立ち止まるな、ハンナ。過去を振り切り、

 前だけを見て、突っ走れ。ありったけの

 勇気を見せてくれ」

「参観日とかには、来てくれる?」

「約束はできない。でも、行ける時は、必ず

 行くよ。来ない時は、よほどの事だと思って

 欲しい」

「わかった」

「さあ、手を繋いで、一緒に行こう」

「私の未来に?」

「そう、君の未来に。後、一つ…大事な事を

 言い忘れていた」

「何?」

「長い間、辛い思いをさせたね。悪かった。

 許して欲しい」

「私も、サンディに辛い思いをさせた。許し

 てね」

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次は、バービー・メアリーさんのお話です。

お楽しみに。

 

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覗いてみて下さいね。