ふれあいママブログ

バービー人形大好きです。魅力を語らせて下さい。エブリスタ(estar.jp)で小説も公開中。ペンネームはmasamiです。大人も子供も楽しめる作品を、特に貧困や格差をテーマに書いてます。

あなたのバービーは何を語る?⑥前編

 

「失礼、お嬢さん。

 こんな所で、何をしてるの?」

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「私は…あっ…」

「ん?」

「私…私に言ってるの?」

「他には誰もいないよね。女の子が一人で、

 こんな地域の、薄暗い地下道に座り込んで。

 昼間とはいえ、危ないよ」

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「あなただって、座ってるじゃない」

「僕は、仕事の帰りなんだ。それに、今、座っ

 たんだよ。君が心配でね。

 放っといて、は言っちゃダメだ。どうせ、

 僕は聞かないよ。

 どうしたの?何があったの?」

「別に…説明できない」

「確かに、人が解り合うのは、難しいね」

「だったら、放っと…いや、どっか行ってよ」

「君が、安全な所に身を移すまで、僕は傍を

 離れないと思うな」

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「一人でいたいの」

「わかるよ。僕も、普段はプライバシーを重視

 する方なんだ。君が、もっと治安の良い地域

 で、自分と向き合いたいと言うなら、その

 希望は尊重するんだけどね。

 お名前は?」

「言うべきなのか、わからない」

「僕はお役所じゃない。自分の教えたい名を

 言えばいいんだ。偽名だって、構わないよ」

「イーヴィ」

「可愛い名前だね。僕はサンディ」

「あなた、本当にお節介だね」

「そうかな。困っている人に声をかけるのは、

 当然だと思うけど」

「困ってなんか、ない!勝手に知ったかぶりし

 ないで!」

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「ごめんね。でも、君が話してくれないから、

 いけないんだよ。決めつけるしかなくなっ

 ちゃうからね」

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「怒鳴って悪かったよ。あなたが、良い人だっ

 て事はわかってる」

「ありがとう。そう在りたいと、いつも思って

 るよ。君だって、そうじゃないかな?

 でもね、良い人でいる為には、生きてないと

 いけない。だから、せめて、もう少し明るい   

 所に出ておいで」

「わかった」
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「出たよ。それで?」

「…。」

「あのさ…サンディ?」

「…。」

「何で黙ってるの?」

「…ごめんね。もう話せるよ」

「隠さなくてもいい!私がイヤなんでしょ!

 妙な世話なんて焼いて、後悔してるはずだよ

 私みたいな子、どうなろうと、放っておくべ

 きなんだよ!」

「どうして、そんな話になるの?そんな事、僕

 は一言だって言ってないよね」

「もう手遅れなんだよ、私。サンディだって、

 皆と同じ。私なんて、大嫌いなクセに」

「質問してくれないかな」

「え?はあ?」

「僕は、ちゃんと答えるよ。だから、聞いて

 欲しいんだ。嫌いなクセに…ではなく、嫌い

 なの?ってね。ちゃんとね」

「意味がわからない」

「僕は、君といるのが嫌ではないよ。無理に    

 一緒にいるのではない」

「でも、楽しそうじゃないもん」

「それは、君のせいじゃなく、後ろの人影の

 せいだ。振り返ったりしないで。廃屋の中に

 潜んで、こちらを観察してる。よく見えない

 けれど、数人はいる…三人かな?」

「よくわかったね…」

「気がつかないフリをするんだ。彼らがどうい

 う態度にでるか、わからないんだから」 

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「怖い?」

「怖くはないよ。注意してるだけだ」

「もう行った方がいいよ…サンディ。私の事は

 いいから。大丈夫だからさ」

「僕に逃げろと?」

「常識のある人間なら、皆、そうするよ」f:id:fureaimama:20210515051914j:image

「僕が逃げてしまったら、君には都合が悪いん

 じゃないかな」

「…大丈夫だよ」

「ちっとも大丈夫じゃないよ。君の立場上ね」

「何を言ってるの?それ、どういう意味?」

「イーヴィ…あそこにいる、危険な連中は、君

 を狙ってる訳じゃない。君の仲間だよね。

 君は、悪い側の人だ。違うかな?」

「…。」

「絶句する程、バレない自信があった?」

「どうして、わかったのよ」

「昔はね、この辺では、ひったくりや辻強盗が

 多かった。平和な時代だったんだね。

 でも、今じゃ、犯罪が当たり前の日常になっ  

 てしまったから、金目の物は、誰も持ち歩か

 ない。かっぱらいは出来なくなった。

 そこで、だ。通りかかった奴を、巣に誘い

 こんで監禁し、身内に、ごくごく少額な身代

 金を要求して、受けとったら人質を解放する

 そんなやり方が流行っている、と聞いたから

 ね」

「ボーイフレンドとケンカして、置いてきぼり

 にされたって、そう言うつもりだったんだ。

 だから、家まで送ってって…」

「ひっかかる人間がいる事が不思議だ。でも、

 自分では、うまくいく自信があったんだよ

 ね。なぜ、僕を誘い込まなかったの?」

「理由はあるよ。でも、言いたくない。勘違い

 かもしれないし」

「そうか。無理には聞かない。ただ、今は逃げ

 なくちゃね」

「逃げる?なぜ?」

「物事は、長い目で見て判断しなければ、いけ  

 ないよ、イーヴィ。こんな事を繰り返してて

 自分の将来が明るいとは、まさか思わないだ

 ろう?」

「…わかった。止めるよ」

「え?もう決断するのかい?やけに素早いね」

「理由はあるよ。でも、やっぱり言いたくない

 今はね」


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「決心がついたら、ぜひ聞かせて欲しいな。

 でも、そろそろ時間だ」

「なんの時間切れよ?」

「君のお仲間の忍耐力が切れるよ」

「もともと、少ないもんね」

「あの路地が、見えるかい?あの先に、車が

 停まってるはずだ。友達が助けに来てくれ

 てるから。車に飛び乗って、逃げるんだ。

 友達は女性でね。ダイナさんという名前だ。

 あとは、彼女に任せればいい。安全な所に

 匿ってくれるよ」

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「いつ、連絡したの?携帯、持ってるの?」

「盗られるのがオチだから、持ち歩かない」

「携帯の意味がないね。携帯できないんじゃ」

「ダイナさんは、不思議な勘の持ち主でね。僕

 の危機がわかるんだよ」

「恋人?」

「違う。大切な友達だよ」

「一緒に来て、サンディ」

「ダメだ。明日の午後には訪ねるから。さあ、

 行くんだ。僕は、ここに残らなきゃならない

 君のお仲間と、話し合いをしないと」

「危ないよ。死ぬかもしれない。私が交渉しに

 行くよ」

「猛ダッシュで、ここから逃げて欲しいんだ

 けどね。怒鳴らないとダメなのかな?僕は、

 大声を出すのが好きでないんだよ。走れ!」

「わかったよ!」

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「やれやれ…」

「サンディ!」

「また…はあ?」

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「本当に、恋人じゃないの?」

「いいから、行きなさい!」

「明日、必ず来てよ!」

「約束するよ。行きなさい!」

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「やっと逃げたね。全く、あの子は…」

「おいっ、テメエ…って、ゲエッ、サンディ…」

「グーピーじゃないか。潜んでいたの、君だっ

 たの」

「あんただって、知らなかったんだよ、悪かっ

 たよ。ほら、俺、目が悪いから、よく見えな

 かったんだ。だからさ…」

「君のその目…医者に行かなくちゃダメだよ、

 グーピー。どんどん酷くなってる。見えなく

 なってしまうぞ」

「金が無い」

「待ちたまえ」

「何を書いてるんだ?」

「紹介状だよ。この紙を持って、地下鉄駅前の

 眼科に行くんだ。タダで治療してくれるよ。

 あそこのお医者さんは、僕の友達なんだ」

「だからって、タダはねえだろう」

「友達や、友達の知り合いは、特別扱い…それ

 が当たり前の社会は、良い社会じゃない。

 決して、認めるものじゃない。

 でも、紛れもなく、僕らは、そんな社会に

 生きているんだ」

「恩は受けない」

「どうして?それで、僕に対して、なんらかの

 想いが芽生えるのが怖いのか。責任が生じる

 のが怖いのか」

「ああ…怖い。俺は、臆病者だ」

「そんな事はない。ごく自然な怯えだよ。

 だけど、なるべく意識しないように努めて

 欲しい。せめて、目が治るまでは」

「…わかった」

「必ず、医者に行くんだよ」

「ああ…ありがとう」

「ところで、イーヴィだけどね」

「あいつ、どうしたんだ?」

「ここだけの話だけどね。君はイーヴィと組ん

 ではいても、彼女の友人ではないし、彼女が   

 好きですらない。そうだろ?」

「当たり。いなくなってくれて、せいせいした

 よ。戻って来ないだろうな…。でも、なんで

 そんな事、知ってるんだよ、サンディ?」

「長い話さ。とにかく、イーヴィは、僕に任せ

 てくれ」

「わかった。じゃあな、サンディ」

「絶対に、医者に行くんだぞ」

「ああ…約束する」

「元気でね」

「あんたもな」

 

 後編に続きます。


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エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasamiです。

よろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑤後編

 

「大事な話とは何ですか…普通は、そう聞きま

 すわ、サンディ。なのに、あなたは、ずっと 

 黙ったままでいらっしゃる」

「そうですね…つい、うっかりしてました。

 決して関心が無いわけではないんです。

 ただ、この場所の神秘的な美しさに、心打た

 れていました」

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「昔は、ここに何かあった…のでしょう。

 お城とか豪奢なお屋敷が」

「今は、すっかり廃墟ですね。苔むした階段だ

 けが残って、石の割れ目から、若木が枝を伸

 ばしている。美しい」

「私は、ずっとここが好きでした。でも、今日

 は何とも思わないのです。代わりに思うのは

 あなたの事だけですのよ。サンディは、どう

 感じているだろう…とか、サンディは、私の

 事を好いていてくれるかしら…とか。変です

 か?」

「人と接すれば、その人に対して感情が生まれ

 ます。ごく自然で、それでいいのです。

 ちなみに、僕はあなたがとても好きですよ」

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「昨日、あなたは、何度もお尋ねになりました

 どうして、この小さい島に、一人きりで暮ら

 しているのか、と」

「僕が聞いたのは、二度だけですよ」

「そうでしたわね…あなたの問いが、心の中で

 反響し続けて、それで、繰り返し聞かれた様

 に感じたのですわ、きっと。

 昨夜、私、一生懸命に考えましたの。今まで

 訪れなかった、頭の中の小部屋を、一つ一つ

 ひっくり返して、調べて回りましたの。それ

 で思い出した事があるんです。

 むろん、私に直に告げられたものではなく、

 幼かった日々のどこかで、秘密の話を盗み聞

 きしたんだと思います。漠然とした罪悪感も

 共に記憶しておりますから」

「無理にお話にならなくても、いいんですよ」

「なんでも、私の父は…何か非常に危険な計画

 を立てているのだそうです。実行に移せば、

 私の命も危ないのだとか。それで、ここに

 いるのですわ。一人で」

「一種の疎開ですかね。お父上は何を考えて

 いらっしゃるのだろう」

「人類削減計画だそうです。多くの人々を消し

 去り、地球を住みやすいパラダイスに変える

 という計画。誰にとっての楽園なのか、あま

 り考えたくありませんけれど」

「すごい事をサラリと言いますね。僕が、違う

 種類のジャーナリストなら、あなたを質問

 責めにするところです」

「でも、なさらない?」

「しませんね」

「なぜですの?」

「僕が今、顔を合わせて話をしているのは、

 お父上ではなく、あなただからですよ。

 僕の興味を引くのは、いつだって、かけがえ

 のない、一人一人の個人です。世界を揺るが

 す巨大な陰謀なんて、関心がありません」

「あなたが、公表する事で、たくさんの命が

 救われるとしても?」

「お父上が何をしようと、滅亡する時はするし

 生き残る人は生き残ります」

「生き延びる側にいたいと、思いませんの?」

「思いません。だって、人間は、いつか必ず死

 ぬんですよ。それに、僕は長生きは…いや、

 長生きには興味がない。むしろ、死ぬまでど  

 う生きるか、いつも、それを考えています」

「不思議…とても不思議ですわ。こんなお話を

 しましたのに、私…今までの人生で、一番、

 幸せを感じているんです。心が軽く、明るく

 なって、未来には希望が、生きていく事に

 喜びがあると、そう信じられるのです。

 こんな気持ちになるのは、いけない事ですか

 しら?」

「ちっとも、いけなくありません。

 これからずっと、もっともっと、そういう

 気持ちが増えていくといいですね」

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その夜…。

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「サンディ…サンディ…」

「うーん…あなたは、よほど僕を叩き起こすの

 がお好きですね…どうしましたか?」

「ごめんなさい、でも…」

「泣いているんですね。怖い夢を見ました?」

「ええ…とても怖かったのです…でも、内容は

 覚えていませんの…今もまだ、恐ろしくて、

 震えが止まらなくて…」

「僕の傍においでなさい。手を握ってあげます

 からね。暖かいでしょう。もう、悪夢の中に

 いないのですよ」

「胸が苦しいんですの。全身が締め付けられて

 いるみたいで…」

「その、寝巻きのせいではありませんかね。

 ピッタリしすぎですよ」

「そんな筈はありませんわ。今まで、悪夢など

 見た事ありませんもの。でも、今夜は…何か

 に追い詰められているような…怖くて…」

「何が追いかけて来たのかな。白いお化けです

 か?それとも、虹色のお化け?怪獣かな?

 紫色の怪獣なら、心配いりませんよ。

 僕の友達ですからね」

「いやですわ、サンディ。ふざけてばかり」

「でも、笑ってくれましたね」

「落ち着きましたわ、やっと…。でも、まだ

 不安ですの。一緒にいてもいいですか?」

「もちろん、構いませんよ。あなたが寝付くま

 で、僕は起きてますから。大丈夫です。

 しっかり見張ります」

「もうしばらく、手を繋いでいて下さい…」

「いいですとも。安心して、お休みなさい」

「友達って、いいですわね」

「本当にね。僕も、そう思います」

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 数日後…。

「サンディ!何していらっしゃるの?」

「おはよう、ダイナさん。野生のお芋を見つけ

 たんです。これで、美味しい朝食でも、と」f:id:fureaimama:20210505055223j:image


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「呑気な方!今日で一週間が経ちましたのよ」

「…僕が来てから、一週間?もう?」

「そうですわ」

「生活物資の補給ボートがやって来る日?」

「多分、そうですわ」

「何時に来るかは、わからないんですよね?

 乗り過ごしたら、また一週間後になる。

 すぐ荷物をまとめて、海に向かい、桟橋で待 

 たなければ。ああ…ダイナさん…本当は百もの

 花束でも捧げて、24時間でも丸々と使って、

 あなたにお礼を言いたい所ですが、そうも

 いかない事情ですから…」

「落ち着いて下さいな、サンディ。私がお教え

 しなければ、のんびりお芋を掘ってらしたん

 ですからね。それに、まだ、夜が明けたばか

 りで、海も相当に荒れてます。あと、数時間

 はボートも来れませんわ。それに、私も一緒

 に行きますから、お話する時間は、十分に

 あります。万が一、乗り損ねたら、イカ

 でも作ればいいんですのよ。今まで、思い

 つかなかったなんて、どうかしてましたわ。

 冗談ではなく、本気です、私」

「その手がありましたか…ありがとう、落ち着

 きました。それに、お見送りして下さるなん

 て、嬉しいです」

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「違います。私も…私も、あなたと一緒に、

 この島を出る、という意味です。あなたの

 住む街を、自分の目で見てみたいのです。

 私は…あなたをお泊めしました。だから…

 あなたも泊めて下さいますよね」

「…もちろんです。喜んで」

「どうして、そんな気になったのか、私には

 ちゃんと説明ができませんけれど…」

「説明など、要りませんよ。あなたがそうした

 い…それだけで、十分です」


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「これ、あなたの旅行バックですわ。少しだけ

 お待ちになって。私も準備いたしますから」

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「お待たせしました」

「…驚きました。そんなお洋服もお持ちだった

 のですね」

「作りましたの。ベッドカバーを使って。変で

 すかしら?」

「とても素敵です。いや…誤解なさらないで

 下さい。今までのお洋服だって綺麗でした

 よ。でも、あなたがお作りになった、その

 服の方が現代的だし、お似合いです」


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「でも…私、とてもドキドキしていますの。

 だって、これから、どこでどうすればいい

 のか、全然わからないのですもの。

 とりあえず、服についていた宝石を全部もぎ

 取ってきましたけれど、持っている物は、

 それだけ。不安なんです。あなたに、ご迷惑

 をお掛けしないかと…」

「そんな心配は要りません。あなたは、僕に

 迷惑など掛けないし、掛けたとしても、ほん

 の短期間でしょう」

「そうですか?」

「僕の目にはね、ダイナさん。あなたは、どこ

 にいても、うまくやっていける人に見えます

 よ。大丈夫です」

「では…参りましょうか」


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「今、気がついたのですけど。そのボートの

 人達、私を乗せてくれますかしら。父の指示

 を受けているのでしょう。父には会ったこと

 もないのですけれど、私が島を離れるのを、

 喜ぶとは思えません。そういえば…あなたは

 よく乗せてもらえましたわね、サンディ」

「そのうち…あなたにもわかる時がきます。

 世の中には、自分で意識していなくとも、

 善意を心に秘めている人々が、それは沢山

 いることが。

 例え、言葉に出さなくても、善意同士が惹き

 つけあって、一つの行動になる事もある。

 あなたの力になりたいと願う人は、普通、

 あなたが思うより多いのですよ」

「私、決して忘れませんわ」

「そうありたいですね」


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「ふう…」

「緊張しますか?」

「海に近づくほどに、心が乱れますの。怖くて

 でも、ワクワクしたり、足が震えます。

 しかも、初めての靴ですものね。フラフラし

 てたまりませんわ」

「そのヒールではね、綱渡りしているのも同然 

 ですな」

「こんな気持ちの時、どうすればいいんですの

 どう気持ちを整理したらいいのでしょう」

「まだ、何も決めなくていいと思いますよ。

 ちょっと旅行して、また、ここに戻ってきて

 もいい。戻らなくてもいい。

 一大決心しなくてはならない時なんて、現実

 には無いんです。

 その場その場の状況に合わせて、少しずつ、

 ゆっくりと、小さな決断をしていけばいい。

 それに…あなたが、この先、どんな道を選ぼ

 うとも、僕は友達として、必要な時はいつで

 も傍にいますし、全力であなたを支えます。

 お約束します」

「じゃあ…お友達として…よろしく、サンディ」

「よろしく、ダイナさん」


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 次回はバービー・イーヴィさんのお話です。

 お楽しみに。

 

 エブリスタで、小説も公開中。

 ペンネームはmasamiです。

 覗いてみて下さいね。

 

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑤中編

 

「もう、すっかり夜ですね」

「そういえば…え…ええ…夜ですわね」


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「お宅には、電気は来ていないんですか?」

「え?ええ…何も無いので、たぶん無いかと…危

 ないから…だと…思いますわ…」

「確かに、目の玉が飛び出そうな請求書を送り

 つけてはきますね。危険極まりない」

「それは…お気の毒で…すわね…」

「暗くなったら、寝てしまうんですか」

「月を見て…星を見たら…寝ますわ」

「なかなか詩的な生活ですね。

 さて…これ以上、引き延ばせないようなので 

 率直にお願いします。次にボートが来るま

 で泊めてもらえませんか?そもそも、ボート

 が再び現れるならの話ですが。それまで野宿

 というのも、ぞっとしませんので」

「そんな…もちろんですわ」

「ありがとう。本当にホッとしました」


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「二階に一部屋…ありまして…寝室なので…そこ

 で…寝ていただいて…」

「あなたの部屋を、取り上げるわけにはいきま

 せんよ。僕は、一階で寝かせてもらいます」

「でも…板の間ですのに…」

「大丈夫ですよ」

「二階も…広いですから…ご一緒に寝ても、私は

 一向に構いません…けど…」

「いや、あなたは構わなくても、僕は、大いに

 構います。夜も暖かいし、ここでも、気持ち

 良く過ごせますよ」

「そう…ですか…それじゃあ、失礼いたします」

「お休みなさい」


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「あの…その…すみません…」

「うーん…何です…どうしました?まだ、夜中だ

 と思いますが…何かトラブルでもありました

 か?」

「寝ていらっしゃった?」

「ぐっすりとね」

「じゃあ…失礼を…」

「待って下さい。何か話でもあったのでは?

 大丈夫。目は半分とじていますけど、ちゃん

 と聞いていますよ」

「私…私は…その…あの…」

「…。」

「…。」

「大丈夫、聞いてますよ」

「あの…あなたが…お尋ね下さって…ここに…

 いて下さって…本当に…とても…そ、その…

 嬉しいんです…話ができるのが…」

「それを言いに、わざわざ?」

「言いそびれて…しまいまして…ごめんなさい」

「とんでもない。いいんですよ」

「じゃあ…これで…よくお休みになって…」

「寝てましたけどね、僕は。あなたに起こされ 

 るまではね。

 でも、話をして下さって、本当に嬉しく思い

 ます」

「おやすみなさい…いいですわね…誰かに挨拶

 できるのは」

「そうですね。おやすみなさい」


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「おはようございます、ダイナさん」

「サンディ!おはようございます。よく眠れま

 して?」

「思わず、これから一生、板間で寝ようと決心

 してしまう程にね」

「お待ちしてましたのよ」

「実は、一時間ほど前には起きていたんです。

 あなたを捜索するのに、時間がかかりました

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「巡り会えて良かったですわ」

「普通、自分の庭では、まず聞かれないセリフ

 ですね」

「昨日、おすすめし忘れてしまって。お風呂に

 行きません?外にあるんですが」

「場所を教えていただければ、嬉しいです。

 ただし、一緒には入りませんよ」

「もう、遠慮はなさらないで」

「そういう問題ではないんです」

「体にいい温泉だそうですけど、とてもぬるい

 湯ですの。この島は、そうとうに暖かですか 

 ら。水浴びに近いですわ。お水はお好き?」

「好きですよ」

「じゃあ、参りましょう。歩くのは、一緒でも

 よろしいんでしょう?」

「冗談を言っていただけるとは、驚きました」

「え?」

「冗談じゃありませんでしたか…」


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「ここですの」

「素敵ですね」

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「本当に、後でよろしいの?」

「今は、あなたを見ているだけで、十分、清々

 しいですから」

「そうですか?」

「ダイナさん。ずいぶんなめらかにお話される

 ようになりましたね」

「私、ちゃんと喋れますのよ。ただ、昨日は、

 あまり驚いて。いつも一人きりでしたもの」

「長かったでしょうね」

「私…忘れていましたの。人と話すのが、こん

 なに楽しい事」

「だったら…本当に来て良かったな」


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「今日は、お水が気持ちいいわ」

「ここの気候のおかげで、僕も体がとても楽で

 す。寒くてジメジメしてると、痛みが…ね」

「サンディ…体が不調ですの?」

「病気ではありません。ただ、古傷が辛くて」

「傷など、見えませんわ」

「服の下にあるんです。たくさんね。一緒に入

 らないのは、そのせいです。怖がる人もいま

 すから」

「なんて事をおっしゃるの。私、あなたの事を

 怖がったりしませんわ!」

「…わかっています。僕がいけませんでした。

 正直な言葉ではなかった。お詫びします。

 言い直しますと、僕が、見られるのが嫌な

 のです」

「もう、いいんですのよ。大丈夫、安心なさっ

 て。傍にいますけれど、後ろを向いてます」

「ありがとう」

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「それほど体がお楽なら、サンディ。ここに

 住んでみてはいかが?」

「僕には向きません」

「誰にも向かないのかもしれませんわ…ね」

「そうですね」

「サンディ…大事なお話がありますの」

「いいですよ。ただ、その前に食事しませんか

 僕は、すごくお腹が空いてるんです」

「気がつかなくて、申し訳なかったですわ。

 私、食べ物に関心がなかったものですから」

「当然ですよ。昨日、食料部屋を見て、驚きま

 した。缶詰めやら乾燥食料ばかりだ。調理の

 道具も一切ないし、あれじゃあ、誰だって、

 食欲がなくなりますよ」

「昔は、世話してくれる女性と住んでましたで

 しょう。彼女は料理してくれましたわ。でも 

 彼女が島をでるのと同時に、台所も無くなっ

 て。危ないからだと思いますけど」

「そんなに危ないかな…。その女性は、なぜ、

 ここを出たんでしょう」

「こんな生活は、間違っていると言って…。

 私と別れる時は、泣いてましたわ。優しい方

 でした」

「なるほど。あなたの姉を名乗った女性が誰だ

 か、なんとなくわかりました」

「え?」

「いや、何でもありません。大丈夫。僕に任せ

 て下さい。空き缶と薪で、絶品レシピを作っ

 てみせます」

「私もやってみたいですわ」

「それは助かります」

「危なくはないのでしょう?」

「自分をちょん切らず、野菜を切っていれば、

 安全です」

「野菜など…」

「食べられる野草を、ずいぶん見ました。摘み

 ながら行きましょう」


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「そんなに笑う事は、ないでしょう」

「空き缶を鍋にするとおっしゃったのに。あれ

 はドラム缶じゃありませんか」

「それでも足りなくなるところでしたよ」

「私、すごく食べましたものね。おいしかった

 ですわ」

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「何でもかんでも、片っ端らから入れて、あん

 なに素晴らしいシチューが出来るとは。

 奇跡のレシピだ。しかし、ずいぶん食材が無

 くなってしまいましたよ。大丈夫ですか?」

「一週間に一度、いつの間にか補充されていま

 すの。服やタオルも、その時に届けられるの

 ですわ。今まで、よく考えもしなかったので

 すけれど、もしかしたら、あなたが乗ってこ

 られたボートは、そういった物を補給する為

 に、やって来るのかもしれません」

「誰が手配をしているのでしょうね」

「それをお話したかったんですの」

「大事な話がある、とおっしゃっていましたよ

 ね」

「でも、ためらってしまいますわ。楽しい時を

 台無しにする話ですもの」

「明るい話しかされなかったら、僕は落ち込み

 ますよ」

「なぜですの?」

「信頼されてないのかと、そう思います」

「散歩しながらお話ししたいわ。じっとしてい

 たくないんです」

「気持ちはわかります。いいですよ」

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   後編に続きます。

 

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 ペンネームはmasamiです。

 

 

 

あなたのバービーは何を語る?⑤前編

  

 今日は、この美しい島に、バービー・ダイナ

 さんをお訪ねしました。

 

「こんにちは。ダイナさんですか?」

「…。」

   
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「勝手にお庭に入ってしまったようで、申し訳

 ありません。びっくりなさったでしょう?

 なにしろ、だだっ広くて、門も塀もないし、

 どこまでが、お宅の敷地かわかりませんで」

「…。」

「僕はサンディといいます。あなたのお姉さま

 にお会いした時、あなたをお訪ねするように

 おっしゃいまして。これが紹介状です」

「…。」

「あの…ダイナさん?」

「え?ああ…はい…そうですか…どうぞ…お入り 

 になって…」

「もう入っているようですが。でも、不法侵入

 している気がしてたんで、お招きいただいて

 落ち着きました」

「そう…ですか…」

  
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「…。」

「…。」

「しかし、美しい所ですね。あそこにあるのは  

 何の花ですか?」

「あ…よく…わかりませんけど。黄色の…花じゃないかと…」

「え…と、やっぱりね。僕も黄色い花だとは思    

 いましたが」

「…。」

「この島には、長いのですか?」

「その…幼い時分から…」

「誰と住んでいらっしゃるんです?」

「一人で…」

「まさか」

「昔…うんと昔には…世話してくれる女性がいま

 したけれど…今は…一人です…」

「なぜ、そんな事に?」

「さあ…どうですか…は?」

「え?」

「は?」

「え?」

「…。」

「…。」

「あの…私…その…歩きますけど」

「は?ああ、お散歩ですか。いいですね。僕も

 ご一緒していいですか?」

「あの…ええ…もちろん…」

  
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「伺ってもいいですか?」

「え…ええ…」

「果てしなく歩いている気がするんですが。

 お家はあるんですか?」

「あの…ええ…何も無い…その…山小屋で…」

「僕達は、そこに向かっているんですか?

 行き倒れる前にね、念のため」

「ぜひ…その…あの…お寄りいただきたいと…」

「ありがとう。あ、でも、忘れてました。

 女性一人のお宅に伺うわけにはいきません」

「大丈夫ですわ…私にはわかってますから」

「は?」

「あなたは…良い人…悪い事はなさらないわ」

「…それはどうも。信頼を裏切らない様、努め 

 ます」

      
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「やっと着きましたね。また…ずいぶん立派な

 山小屋ですね」

「…。」

「…。」

「永遠に、ドアの前に立っているんですか?」

「あの…失礼しました…どうぞ…」

「滝でずぶ濡れでね。タオルで拭いてからにし  

 ます。旅支度はしてきたんで。先に入ってて

 下さい」

「え…ええ…あの…そうですわね…」

  
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「お邪魔します。鍵はかけてないんですね」

「島には…私しか…」

「そんな…信じられない。どうしてです?」

「さあ…わかりません…あの…どうぞ…お掛けに

 なって…」  

「僕もそうしたいんですけど。椅子がなくて」

「え…ええ…」

「広いけれど、何も無いですね。不便じゃない

 ですか?」

「え…さあ…」

「…。」

「…。」

「ああ、もうっ」

「あの…その…怒っていらっしゃるん…です?」

「そんな事は…いや、ええ、怒ってますね。

 僕は怒ってますよ」

「それは…申し訳ないと…」

「僕はね、人と話をして、その人の事を知るの

 が好きなのです。仕事でもある。それなのに

 あなたときたら…怒ってるかって?怒ってま

 すね」

「そう…ですか…」

「…。」

「…。」

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「僕は、もう帰った方がいいと思います。失礼

 しました」

「あの…あの…ボートで、お帰りです…の」

「来た時と同じくね。まさか、泳いでは帰れな

 いでしょう?」

「ボートは…その…三日に一回しか…」

「…今日、乗ってきたんですよ」

「じゃあ…次は一週間後かと…」

「三日?一週間?どっちなんです?」

「さあ…あの…」

「わからない?愚問でしたね。無線とか、あり

 ますか?」

「…え?」

「わからない?愚問でしたね…」

「…。」

「やれやれ。これは、やり方を変えないといけ

 ませんね」

「え?」

「コーヒーとか、あったりします?」

「あちらに、食べ物のストックがあるので…

 多分…」

「僕、飲みたいんです。貰っていいですか?」

「ええ、もちろん…でも…場所が…」

「二人で一緒に探しましょう」

「あの…その前に…その…」

「なんです?」

「あの…」

「聞いてますよ」

「私…あの…姉など…おりませんけど…」

「ゲホッ、ゴホッ、ゲホッ。失礼、ビックリし

 てしまいまして。それ、今、言いますか?」

「言い忘れて…しまいまして…」

「じゃあ、ここに来るように言った女性は誰

 なんです?」

「さあ…」

「わからない?僕もです」

「あまりご心配なさらずに…」

「いや、僕はさほど…あなたが、心配されるべ

 きでしょう?」

「なぜです?」

「いや…なんでもありません。コーヒーを見つ

 ましょう」

 

 ちょっと奇妙な場所に来てしまいましたが。

 なんとかなるでしょう。

 中編をお楽しみに。

   
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  よろしくお願いいたします。

あなたのバービーは何を語る?④後編

 

 「本日は、バービー・ケリーさんと、

  バービー・マリアさんの、トンネル・

  アートを見せていただきます。

  本当に、楽しみにしていたんですよ」

 「じゃあ、ここから入って」

  
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 「ここから…。あの、今、気がついたんです

  けど。懐中電灯を忘れました」

 「そんな物、要らないわ」

 「じゃあ、ロウソクでも?変なガスが溜まっ

  ていないかも、チェックできますしね」

 「明かりは、使ってはダメ」

 「冗談でしょう。真っ暗ですよ」

 「大丈夫、私達が先に行くから」

 「なんで、明かりはダメなんです?」

 「地下の住人には、危険な人もいるわ。後を

  つけられたくないの」 

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 「な、何にも見えませんよ!ケリーさん?

  マリアさん?傍にいるんですか?どこに

  いるんです!どこですか?」

 「落ち着いて。ほら、ここにいるでしょう。

  今から、あなたに触れるわよ、ね?」

 「とんでもないですよ。僕は、閉所恐怖も、

  暗闇恐怖症もないつもりでしたけど、突然

  両方にかかったみたいです。

  ふ、ふ、ふう…。息苦しいっ。ここには、

  空気がないみたいですよ。さもなきゃ、

  毒ガスが溜まってるんだ。ものすごく臭い

  し、窒息しそうです。苦しい」

 「空気はあるわ、心配しないで。トンネル・

  アートが見たいんでしょう?」

 「ど、どうかな…。今、したいのは、逃げる

  ことだけです」

 「そんな事を言わないで。あと少し歩けば、 

  明かりの差し込む、特別なトンネルに着く

  わ。もうちょっと、頑張って」

 「嫌ですね。もう黙っていられない!」

 「自分では気がついてないんでしょうけど、     

  あなた、さっきから喋りっぱなしよ」

 「そんな事は、どうでもいい!なぜです?

  なぜ、こんな所で暮らすんですか? 

  一体、ここに何があるんです?何がしたい

  のです?どうして、あなた方、こんな…」

 「静かにして、もういいのよ。着いたわ」 


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 「見て。あれが光のトンネル。私達のアート

  は、あの先にあるの」

 「あ…見えます、光が。助かった…」  

     
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 「このトンネルに入って、少し進むの」

 「少しの明かりがあるだけで、こんなにも楽

  になれるんですね。この先は、どこに通じ

  ているんですか?」

 「忘れられ、遺棄された町。ゴーストタウン

  の下にあるトンネルなの。向こう側には、

  頑丈な鉄柵があるから、あっちからは入れ

  ないのよ。だから仕方なく…。恐がらせて

  ごめんなさい」

 「本当に、すごく怖かったですよ。でも、僕

  が望んだ事ですからね」

 「さ、入って」

 「目が痛い、眩しいです。これでも、まだ

  トンネルの中なんですよね。でも、ずっと

  楽になりました」

 「少し、目を慣らしてから、進みましょ」

   
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 「もう、大丈夫です」

 「じゃあ、真っ直ぐ、明かりの方へ…」

 「これは…」

 「ようこそ、私達の、トンネル・アートへ」

 「これは…トンネル版秘密の花園?」

  
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 「むしろ、秘密の花壇ね。廃材で作ったの。   

  トンネル内に草を繁らせ、花を咲かせるの

  はすごく大変だった」

 「とても美しいですね。すごく綺麗だ」

 「ありがとう」

 「スプレーを使った絵だと思ってたんです」

 「それもアートだし、これもアートよ。

  ねえ、地下生活では、何が一番、大事だと

  思う?何が最も必要だと思う?」

  
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 「食べ物ですか?」

 「違うわ。トンネル内を旅して、荒れた都会

  に行けば、食べ物は手に入る。むろん残飯

  だけれど」

 「地下の生活に不足しがちなのは、感情よ。 

  喜びや、穏やかな気持ち。美しい物…。

  ここにこうしていると、安らぐの。

  トンネルの安らぎとは、また別の安全。

  だから、みんなの為に、これを作ったの。

  地上から排除された子達の為に。

  地上に上がるのを、諦めてしまった人達の

  為に」

 「あなた方は、諦めてないはずだ。地下の

  世界を捨てようとは思わないのですか?」

 「出来ると思うけど…」

 「トンネルから出て、上の世界で園芸家に

  なろうとか、思いませんか?」

 「いつかはね」

 「そう、いつかは。私達は地上に戻る。普通

  の生活もするでしょうね。でも、今は…

  今は、ここにいたい」

 「理屈じゃない。今は、ここにいたいの」

    
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 「そうですか…。いや、もう何も言いません

  見せてくれて、本当にありがとう。とても

  嬉しく思いました。あなた方なら、きっと

  正しい決断ができます」

 「次回は、バービー・ダイナさんをお尋ね

  します。お楽しみに」

 

 

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  覗いてみて下さい。 

あなたのバービーは何を語る?④中編

 

  ここ数日、バービー・マリアさんと、

  バービー・ケリーさんを捕まえよう

  と苦心しているんですが、どうにも

  うまくいきませんね。

  彼女達のトンネルには、何しろ沢山

  入り口出口があって、どこがどうなって

  いるのやら…。

 

  「こんにちは」
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  「ひっ…!びっくりさせないで下さい。

   いつも突然に声かけて、悪い癖ですよ」

  「ごめんなさい。でも、そんなものなの、

   私達の世界は」

  「心臓発作を起こさせる事が?」

  「相手が自分を見つける前に、自分が

   相手を見つける事がね、時には身を

   守るのよ」

  
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  「ずっと、考えていたんですよ」

  「何を?」

  「あなた達のトンネルに入れてもらう 

   方法をね。どうしたら、信頼して

   もらえるのかな、と」

  「ああ…その事。なんで、そんなに気に

   するの?」  

  「トンネル・アートが見たいからです!

   それで、ずいぶん悩んだんですが、

   結局、わからないんですよ。初めて

   の経験なんで。

   もうこれは、率直に聞くしかないかな、

   とね。

   食べ物やお金をあげたら、見せてくれ

   ますか?気を悪くしないで欲しいんで

   すが」

  「そんな物、いらないわ。難しく考え

   ないでいいのよ」

  「いや、難しいですよ。他の子供達が

   怖がるんでしょう?」

  「他の子供達って?」

 

   
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  「あなた達と一緒に、地下に暮らす

   ストリート・キッズの事です。

   あなたが言ったんですよ。地下の

   トンネルには、大勢のホームレス

   の子供達がいる、と」

  「なんだ、そんな事を心配していたの」

  「固い絆で結ばれた仲間なんでしょう。

   あなた方の事を知りたいけれど、誰

   も傷つけたくないですからね」 

  「大丈夫よ。グループは解散したから」 

  「え?」

  「みんないなくなったわ」

  「なんか恐ろしい悲劇でも起こったの

   ですか!」

  「別に。よくある事だから」

  「だって、この間、お話を聞いてから、

   まだ一週間しか経っていませんよ」

  「だから?ストリート・キッズは、すぐ

   グループを作るけれど、すぐバラバラ

   に解散するのよ。これで六回目だもの」

  「よくわかりません」

  「例えば、親に殴られてばかりで、家から

   逃げ出す子供がいる。でも、少し経って

   親より強くなれば…体格が、あるいは

   メンタルがね、そうすれば、もう怖がる

   事はない。だから、親元に戻る」

  「それは一例だけど。ホームレスになる

   理由は、一人一人、違うわ。地上に戻る

   理由も、一人一人、違う」

  「グループ内に、熱い友情など無いと?」

  「いいえ。一緒に暮らしてる時は、本当

   の愛情があるわ。お互いに支え合い、

   優しさを分かち合う」

  「でも、すぐに別れる?」

 


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  「そうね」

  「それはなぜです?」

  「たぶん、子供だからよ」

  「子供だから…?」

  「子供は、大人より、ずっとスピードが

   ある。臨機応変に状況に合わせるし、

   はるかに厳しい自己責任の世界にいる。

   何より、いつも成長している。未来に

   向かい、過去を振り切る力が強いの」 

  「まだ、よくわかりません」

  「いいのよ。トンネルの中を見たいなら、

   構わないわよ。トンネル・アートの場所

   まで案内するわ」

  「あんなに悩んで、バカみたいだ」

  「気にしないで、こっちよ」

  「わかりました。次回はトンネル・アート

   をお見せします。後編をお楽しみに」

 

  
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   よろしくお願いいたします

   

あなたのバービーは何を語る?④前編

  本日は、バービー・マリアさん

  バービー・ケリーさんのお話をお聞き

  するはずなんですが…

 

  
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  「こんにちは」

  「なんて事だ。どこから現れました?」

  「この穴よ。あなたが、後ろを向いている

   隙にね。ビックリした?」

  「まさか、嘘でしょう。こんな小さな隙間

   通り抜けられるはずがない。犬か猫でな

   ければ」

  「さもなきゃ、ネズミか。私達の家には、

   ウサギよりも大きなネズミが、山ほど

   いるわ」

  「何がなんだか、わからないんですが」

  「怖がっているからだわ」

  「正直に言えば、怖いです。ここらは、

   最悪のスラムの中心地だ。ほとんど

   ゴーストタウンじゃないですか。いつ

   襲われてもおかしくない」

  「私達といれば大丈夫よ。コミュニティ

   のメンバーが見張っていてくれてるの。

   みんな一緒に暮らしてる。なんでも分か 

   ち合う仲間なの」

  「誰もいないようですが。でも、落ち着か

   ない。視線は感じるんです。敵意も」

  「あなたが、信用できるか観察してるの」

  「メンバーは、どこにいるんです?」

  「この穴の先、地下深くに」

  「地下?穴の中に隠れているんですか?」

  「本当に何も知らないのね。あなたの足の

   下には、数百キロメートルもの空間が広  

   がっているのよ。一部は岩盤、一部は

   廃棄されたガス管。そのまま、東へ数

   キロ行けば、廃線になった昔の地下鉄

   トンネルに行き当たる。ここらの地下は

   私達、ストリート・キッズの街よ」

  「中は迷路状態。出入り口も沢山あるわ

   いつでも逃げられるようにね」

  「ちょっと腰を下ろしていいですか。

   なんと言うか、視線が気味悪いんです。

   それに、まだよくわからない。地下深く

   で何をしているんです?」

  「スラムの路上暮らしは、とても危険よ。

   襲われない場所を探していて、この穴に

   潜りこんだの。中がまるで洞窟みたいで

   驚いた。最初は、私達二人だけだったけ

   ど、酷い目にあってる子達を連れてきて

   いる内に、かなりの人数になったわ」

 

   

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  「お二人は姉妹ですか」

  「幼なじみなの。17番街のA32公営団

   で、隣の部屋に住んでたの」

  「え?あそこですか…」

  「この世の地獄。13歳で家を出たわ。

   私達の親は、悪人ではなかったのよ。

   ただ、私達に食べさせられなくて、悲し

   くて、それが彼らの不幸だったから。   

   地下でもう四年、ベテラン・サバイバー

   だわ」

  「待って下さい、待って下さいったら!」

  「落ち着いてちょうだい。メンバーが不安

   になるわ」

  「申し訳ない。いや、ダメです。あなた方

   は若くて美しい。もっとマシな場所にい

   るべきでしょうが。スラム、地下の世界

   に、何があるんです?」

 

   
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  「アートがあるわ」

  「はあ…え?何ですって?アート?」 

  「私達、トンネル・アーティストなの」

 

  
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  「聞いたことも無いんですが」

  「私達は、トンネルに閉じ籠っているわけ

   ではない。食べ物を探したり、ちょっと

   した仕事をするのは地上よ。でも、家…

   ホームは地下。アトリエも地下。他の子

   も同じ。みんな地下じゃアーティスト、

   そして家族なの」  

  「トンネルの中を見れますか?」

  「それはダメだわ。私達が安全でいられる

   唯一の場所だから。他の子達が怖がる」

  「トンネル・アートを見たいんです。

   あなた方だって、世の中に公開したいで

   しょう?」

  「いいえ」

  「なぜです?」

  「私達は、地上から拒否された者よ。

   地上では、お金がなければ、人間として

   扱われない。

   私達のアートを、必要としてくれるのは

   地下の仲間達だけなの」

  「そうじゃなくて、拒否されるのを恐れて 

   いるんじゃないですか?」

  「奴らの事なんて、どうでもいい」

  「奴らとは?」

  「地上の人達。普通の善良な市民様」

  「これは、長期戦になりそうですね。

   続きは、次回にしましょう。

   何がなんでも、あなた方のアートを見せ

   てもらいますからね」 

  「なんでよ?」

  「知り合いたいからです。それだけです」

 

   
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   中編に続きます。

 

 

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