ふれあいママブログ

バービー人形大好きです。魅力を語らせて下さい。エブリスタ(estar.jp)で小説も公開中。ペンネームはmasamiです。大人も子供も楽しめる作品を、特に貧困や格差をテーマに書いてます。

あなたのバービーは何を語る?⑦前編

 

「出てきたまえ」

「…。」

「茂みに隠れてるおじょうさん。君に言ってい

 るんだよ。出てきなさい」

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「バレちゃった?でも、良かったかも。ここ、

 蚊がすごいの。痒くてたまらない」 

「それは気の毒に。これを使ってみてごらん」

「何?」

「虫刺されの薬だよ」

「ありがとう。ふーっ。すうっとして、気持ち

 いい!」

「それはよかった。ちょっと、じっとしてて」

「ええっ?」

「もう取れたから言うんだけどね。髪に毛虫が

 ついてたよ」

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「すごいドキドキした。何?何?って思った」

「何?と思っているのは、僕も同じだ。                

 君ね。この一週間、ずっと僕を尾行している

 けど、一体、何が狙いなのかな?僕にして

 欲しい事でもあるの?」

「うん、あるの」

「立ち話も何だから、座って話そう。

 僕はサンディ。君の名前は?」

「メアリー。

 ねえ、サンディってさ、一週間前に、隣の郡

 の、カントリーフェアに行ったでしょ?」

「話、もう始まったんだね。

 聞き出すのに苦労すると思っていたのに、

 意外だな。確かに、行ったよ」


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「暴れ馬レースで一等になってたよね。

 すごい、本当に。毎年、怪我人続出のゲーム

 なのに」

「運が良かっただけだよ」

「そうは思えないなあ。身体が乗馬を覚えてい

 る感じだったよ。まあ、それはともかく、

 賞品にさ、大きなクマのぬいぐるみ、貰った

 でしょ。本当はトロフィーだったんだけど、

 フェア主催者が失くしちゃったんだよ。普段

 はパン屋さんで、時々、フェアの会長さんを

 するからね。私のパパとママ」

「二人で?」

「ママもパパも、二人一緒でなきゃ、何もしな

 いんだよ。その上、ミスまでしちゃって。

 あのクマね、本当は私の物なの。

 手違いで、景品になったけど…私のだから、

 返して欲しいワケ」

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「それだけの事なら、何もつけ回す必要は無い

 よね?一週間も」

「黙って取り返す方がいいと思って、隙を狙っ 

 てたんだよ。

 一度、人にあげた物、返してって言いにくい

 じゃない?」

「なるほど…いや、何だかよくわからないんだ

 けど、まあ…いいか。

 その、出来れば、もちろん、クマは君に返し

 てあげたいよ。でも、無理なんだ。

 僕の手元には、もう無いんだ」

「知ってるってば、そんなの。あなたの部屋は  

 調べたから」

「…ちょっと待った、メアリー。

 君は、僕の部屋に、無断で入ったのかい?」

「サンディってさ、出かける時、よく鍵を掛け

 忘れるよね。あれ、あんまり良くないと思う

 よ。もっと気をつけなくちゃダメ」

「…。」

「ホラ、泥棒とか…さ、わかるでしょ」

「…次から気をつけるよ」

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「あのクマ、どうしたの?返して」

「そんなに大事な物だとは知らなかったんだ」

「言い訳はいいから。クマ、どこにやったの?

 白状しなさいよ」

「なんで、責められてるんだろう…。

 クマはね、会場にいた、小さな女の子にあげ

 ちゃったんだ。キャンディ・アップルを落と

 して、それで泣いていたから」

「何歳ぐらいの子?」

「えーと、3歳くらいかな」

「名前は?住所は?取り返しに行くんだから。

 大丈夫、代わりのぬいぐるみを、ちゃんと

 その子にはあげるよ」

「代替え品とは、いいプランだ。こうしたら

 どうかな?今から、ショッピングセンターに

 行って、君に好きなぬいぐるみを買ってあげ

 る、っていうのは」

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「その子の身元は?」

「あのクマでなきゃ、嫌なんだね。気にしなく

 てもいいよ。ダメ元の提案だったんだ。

 その子の事だけど、僕は全く何も知らない」

「一緒に探して」

「クマを?」

「女の子を探すの!顔を知ってるのはサンディ 

 だけなんだから」

「いや、その、あの、君…君の方が向いている

 んじゃないかな、人探しは。

 地元の人だし、か…会長の娘だし。特徴を

 説明すれば、見当がつくよね。似顔絵を描い

 てもいい」

「会長はボランティアなんだよ。私には、その

 女の子が誰かなんて、わからない。小さい子

 に興味ないし。似顔絵、上手なの?」

「あまり自信がない…」

「あの地域の家を、かたっぱしらから訪ねる

 つもり。人に会ったら聞き込みする。今から

 行こうよ」

「え…今すぐ?」

「午後は何も予定は無いんでしょ」

「なんで知ってるんだい?」

「家捜しした時、スケジュール表も見たの」

「勝手に覗いたらダメだ。同じことされたら

 嫌なはずだよ」

「別に嫌じゃないけど」

「そう言われると…お説教しにくいものだね」

「バスが来た。あれで行こうよ。大丈夫、クマ

 を失くした事は、もう責めないから」

「それはどうも。ありがとう」

 

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「なかなか、うまくいかないね。期待していた

 ほど、小さな町じゃないし、人も多い。

 怪しまれるばかりだ」

「暑いね、サンディ。疲れちゃった」

「すみません、奥さん。ある女の子を探してま

 して。特徴は…」

「サンディったら!待ってよ」

「はあ…ご存知ないですか…お手数をお掛けし

 ました。え?手作りチーズ体験?いいですね

 今度、お尋ねします…ありがとう、奥さん。

 さようなら…」

「サンディ!」

「邪魔したらダメだよ、メアリー」

「疲れた」

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「いい子だからね、もう少し頑張るんだ」

「あそこにアイスクリーム屋さんがあるね」

「…。」

「私、アイスクリーム大好き」

「…わかった、わかったよ。ほら、小銭がある 

 から、買っておいで」

「一緒に買いに行こ」

「僕は、ここで聞き込みを続けてるから…」

「一緒じゃなきゃ、いや」

「もう大きいんだから、一人で行けるよ」

「16歳だよ。サンディと一緒に食べたいんだも

 の。一人で食べたって、美味しくないよ、そ

 うでしょ」

「クマを見つけるのが先だろう?」

「アイスクリーム…」

「わかった、わかったから。一緒に行こう。

 何のフレーバーがいい?」

「イチゴ!いや…バニラ?やっぱりサイダー!

 それともチョコ…でなかったらチョコチップ

 かと…キャンディ味も捨てがたし…」

「それは、ぜんぶ欲しいという意味かな」

「そうじゃないけど、そういう事にする」

「ハハハ…」


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「結局、今日は手掛かり無しだったね」

「もう、帰っちゃうの?」

「夕暮れだ。すぐ暗くなる。早くお帰り。明日

 は、学校があるんだろ」

「3時には終わるから、広場で待ち合わせね」

「明日は、一軒一軒、家を尋ねた方がいいね。

 あの子は普段着にサンダル履きだったし、

 ベビーカーもなかった。会場の近くに住んで

 る可能性が高い」

「車で来ていたのかもしれないよ」

「それにしては、お母さんの手荷物が多かった

 からね。タオルだの、オムツだの、着替えだ

 の、籠バックから覗いていた。車があれば、 

 車に置いておきそうなものまで」

「へえ…」

「それに、今、思い出したんだ。立ち去る間際

 目の隅をかすめたんだよ。その子のお母さん

 は、コブタのコンテストの審査員に挨拶して   

 いた気がする。知り合いなんだ。やはり、

 近場の人だよ」

「サンディ…」

「どうしたの?」

「サンディって、本当に良い人なんだね。私の

 為なんでしょ…そんなに一生懸命になってく 

 れて」

「クマの為では無いな、確かに」

「やっぱり、迷惑?」

「仕事は、君と同じく3時に終わらせるから。

 大丈夫、心配しないで。きっと見つかるよ」

「なんで、そんなに親身になれるの?」

「君にとって、大切な物みたいだからね」

「そう…理由は言えないけど、とても大事」

「それなら、僕も頑張れる。さあ、お帰り」

「サンディ…」

「どうしたの?泣きそうな顔して」

「なんでもない。明日ね!」

「じゃあね…」

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「サンディ!こっち、こっち…大丈夫?」

「心配かけて、すまない。僕は暑さに弱くてね

 すぐにグッタリしてしまうんだよ」

「あそこまで、歩ける?」

「大丈夫、そこまで酷くはないよ」

「この噴水、地下水を使ってるから、真夏でも

 ヒンヤリしているの。縁に座るといいよ」

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「水飛沫が心地いいね。こうしてると、夏も

 悪くないと、そう思えるね」

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「だったら…えーいっ!」

バッシャーン!

「ゲホッ、ゴホッ、いきなり突き落とすなんて

 卑怯だよ、メアリー!君も、道連れだっ」

「キャア!」

バッシャーン!

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「水の中、気持ちいいね、サンディ!上を見て

 虹が、かかってるよ!」

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「噴水から、出なさい!」

「大変!会長さんだ、怒られるう!」

「え?君のパパ?」

「違う、違う、噴水の会長さん」

「噴水会長もいるのか…」

「こっちに走ってくるよ、逃げなきゃ!」


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「この噴水、もしかして立ち入り禁止タイプの

 噴水だったのかい?メアリー、君ったら…」

「早く出て、サンディ!走って!話は後!」

「了解」

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「逃げきれたね、うるさいよ、噴水会長は」

「今、気がついて、いささか手遅れなんだけど

 ね、メアリー。こんなにずぶ濡れで、どうす

 れば、人探しの聞き込みが出来るんだい?

 怪しすぎて、誰も答えてくれないよ」

「確かに。目立ちすぎだね、街中じゃ」

「まてよ…それを利用する手もあるね」

「今日は、諦めようよ」

「いや…このまま街の広場のど真ん中で、座っ

 ていよう」

「注目の的になっちゃうよ」

「だから、いいんだ。注目してくる人の中に、

 クマの持ち主の女の子や、そのお母さんが

 いるかもしれない」

「それは、ちょっと嫌なやり方だな」

「誰のせいなんだ、メアリー」

「だって、もしさ、友達とかが、通りかかって

 見られたら…そうか、逆にいいかも…うん、

 いいね、そのやり方」

「…。」

「そうしよ、サンディ」

「君は、興味深い子だね、メアリー。僕は

 君が何を考えているのか、いまいち、わから

 ないんだけど」

「これから、解り合えるよ、きっと」

「…まあ…まあね」

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「みんな、ジロジロ見てくよ」

「僕達が探し歩くよりいいよ。のんびり座って

 いられるしね」

「あら?あなた…この前、娘にぬいぐるみを

 下さった方じゃ、ありません?」


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「ウソ…!サンディの言った通りになっちゃっ

 たよ」

「こんにちわ、奥さん。またお会いできて、

 嬉しいですよ、本当に。僕はサンディと

 いいます」

「私、ヘレンと言いますの。どうなさいました

 の?ずぶ濡れですわね」

「うっかり噴水に落ちまして」

「うちにお寄りになりません?乾かさないと」

「ご親切に、ありがとうございます。でも、  

 大丈夫です。今日は暑いので、すぐ乾きます

「この間は、親切にしていただいて…」

「とんでもない。喜んでいただければ、それで

 いいんです。娘さんは、とても良い子ですね

 キチンとお礼が言えるなんて、驚きました。

 ところで、ヘレンさん。あのクマは、まだ

 お手元にありますか?」

「それが…娘は、あのクマが気に入って、どこ

 にでも連れ回して…それがいけなかったんで

 すわね。ピクニックに行った時、盗られて

 しまったんですの」

「そんなの困るよ!」

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「失礼。こちらはメアリーさんです」

「ごめんなさいね」

「ひどいよ!」

「少し、黙っておいでね、メアリー。

 誰に盗られたか、わかりますか?」

「タヌキです」

「え?タ…タ…ええっ?」

「裏山の…タヌキです」

「タヌキ…」

「後ろに山が見えますでしょ。あそこに住んで

 おりますタヌキです」

「タヌキ…」

「本当に、申し訳ないですわね」

「いや…いやいや、お気になさらないで下さい

 タ…タヌキじゃ、その、あの、どうしようも

 ありません…からね」

「お詫びと言ってはなんですが、サンディ。

 来月、ここでアップルパイ・コンテストが

 ありますの。是非、来ていただきたいわ。

 この間は、とても楽しくお話できました。

 ゆっくりまた、お会いしたいですから」

「ありがとうございます。楽しみにしてます」

「では、その時にまたね。さようなら。

 ああ…メアリーさんも、ぜひ、いらしてね」

「さようなら」

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「私、付け足しだったよね」

「え?ああ…親切な人だね…」

「大丈夫?サンディ」

「ちょっとショックだ」

「だよね…」

「しかし!仕方がない。無いものは無い。

 ショッピングセンターに行こうか」

「は?」

「どれでも、好きなぬいぐるみ、買ってあげる

 からね」

「どうして、そういう発想になるわけ?」

「僕も、不思議なんだ。なぜ、僕が買う羽目

 になるのかな…と」

「違う!裏山を捜索してからでしょ!」

「な…後ろを見たまえ、メアリー。裏山という

 と、なんだか丘みたいなイメージがあるけど

 現実は厳しい。明らかに、裏山は山だ」


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「何を言ってるのか、わからない。サンディは

 女の子とお母さんを、一緒に探してくれた

 じゃない?同じだよ、タヌキを探すのも」

「同じじゃない。タヌキじゃなく、クマを探す

 んだ」

「たいして違わないよ。同じ事だもん」

「同じじゃない」

「サンディ。パニックになってる?」

「かなりね」

「一緒に探してくれなきゃ、ダメ」

「…。」

「お願い!大事な事でなきゃ、頼まないよ」

「何が入っているんだ?」

「え?」

「あのクマだよ、メアリー。中に何が入って

 いるんだい?嘘を言っては、いけないよ」

 

中編に続きます。

 

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