あなたのバービーは、何を語る?⑦中編
「な…なんで?どうして…そんな風に思うの?」
「もしかしたら…と思って、言ってみただけだ
なんだよ。でも、否定しなかったね」
「別に。何も入ってない」
「今さら遅いよ。さあ、白状したまえ」
「どうして、バレたのかな」
「なぜ、君が、あのクマに執着するのか、色々
考えたんだ。でも、どうにもわからなくてね
あのぬいぐるみは、新品だった。長年、大切
にしてきて、思い入れがある…という訳じゃ
なさそうだ。だったら、君はぬいぐるみ・
コレクターなのか?これも、違う。あのクマ
は、大量生産品で、ショッピングセンターに
は、同じ物が山になってる。
なら、大事な人からの、プレゼントなのか?
例えば、好きな人からの…とか。だけど、君
の行動を見ていると、どうもね。それらしく
ないような…」
「ひどい!ひどいよ!」
「そんなに叫ぶほど、変なこと言ったかな」
「別に!でも、サンディに言われたくない」
「はい?いつも通り、よくわからないんだが…
まあ、いいか。
とにかく、あのタヌキ…違う!クマには、何
か秘密があるんだ。そうだね?」
「今は、まだ知らなくていいよ」
「いやいや、ぜひ、知りたいんだけど。
なにしろ、あのクマ…じゃなかった、タヌキ
の巣を、探す羽目に陥ってるんだから。
まさか…違法な物じゃないだろうね」
「しょうがないなあ。見つかったら、中身を
見せてあげる。でも、サンディだけに、
特別に見せるんだからね。他の人には、絶対
絶対、秘密だよ」
「今の段階では、約束はできない。まだ、君は
質問に答えてないからね。違法な物かどうか
聞かないと」
「大丈夫、大丈夫」
「良かった。ちなみにメアリー。君は、何が
違法で、何が合法だか、ちゃんと知っている
んだろうね?」
「あんまり、詳しくない」
「うーん…」
「悩む事ないよ、サンディ。クマが見つかれば
全部、解決する事じゃない。明日から、この
山、一緒に捜索できるよね?いいよね?
私、山が好きなんだ。涼しいし、緑を見てい
ると…草木に埋もれていると…悲しみや辛さや
苦しみも、すうっと消えていくから。
サンディはどう?」
「僕も好きだよ。自然の中にいるのは…大好き
だよ」
「良かった、嬉しい!じゃあ、明日ね!」
「ああ…明日ね」
翌日…。
「彼女は嘘つきだ」
「私、嘘つきじゃないよ」
「君の事じゃない。ヘレンさん…彼女は嘘つき
だ。裏山だなんて…ここはK2じゃないか」
「大袈裟だなあ、なんてことないよ」
「あー!頼むから気をつけてくれ、メアリー!
こんな崖、落っこちたら大変だよ。骨折は
免れない」
「余裕だよ。ホラホラ、こんな事しちゃう」
「やめなさい、メアリー!怪我するよ」
「心配性なんだね、サンディ」
「君は下が見えないのか?目が眩む高さなんだ
ぞ!」
「そう?」
「見なくていい!危ない!」
「喚いてないで、早くおいでよ」
「そう言われても…なかなか…ハアハア」
「遅いなあ。山登り、下手なの?」
「今、下手だとわかったところ」
「あそこ、なんか怪しくない?タヌキが住んで
そうな気配」
「カモシカ以外…ハアハア…誰も住めないと思う
けど…ハアハア」
「違う違う、もっと上だよ、崖の頂上」
「頂上まで行くのかい?」
「当然。行かないなら、なんで登ってるのよ」
「まあ、そうだね…」
「サ…サンディー!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。この木の根が
邪魔で…」
「待てないよ!ここまで来ちゃった!高いよ」
「良かったね」
「怖いよー!高いぃ!怖いぃ!動けないぃ!」
「は?はい?今ごろ?今ごろ、なんで怖がる
の?」
「いつ怖がったって、いいじゃない!」
「まあね。それはそうだ。そのまま、じっとし
ておいで。すぐに行くから」
「ヒィーン!」
「馬みたいな声、出さなくても大丈夫だよ。
ほら、着いたから。手を出して。すぐ上に、
平らな場所がある。引っ張り上げるよ。
そら、もう大丈夫、大丈夫」
「ありがと。やった!サンディと手を繋げた。
いざとなると、すごい勢いで登れるんだね。
かっこいい!」
「君って子は…本当は怖がってなかったね」
「うん!」
「コラ!」
「へっちゃらだもん!」
「崖の上で、走らない!」
「この穴、怪しいと思ったんだけどなあ。何も
いないね」
「今日は、もう下山しよう。続きは明日ね」
「えー!もう?」
「日が暮れる前にね。無理は禁物だよ」
「疲れた?」
「君と違って、おじさんだからね」
「まだ、二十代でしょ」
「たぶん…二十代後半か、三十代前半。そんな
ところかな」
「どういう事?サンディ、自分の年、わからな
いの?」
「え?ああ…少し事情があってね。はっきりし
ないんだ」
「…まあ、よくある事だよ。気にしないで」
「よくある事ではないだろうけど。確かに
あまり気にしてないな」
「明日も絶対に来ようね!」
「見つかるまで、来ようね」
一週間後…。
「何が裏山だ。ハア…ここはエベレストだ」
「…。」
「どうしたの、メアリー。珍しく大人しいね」
「サンディ…」
「疲れたのかい?」
「お腹、空いちゃった…」
「そう言うだろうと思っていたんだ。オヤツの
時間だものね」
「恥ずかしいけど、お腹が鳴っちゃう」
「なにも恥ずかしくない。育ち盛りなんだから
たくさん食べなくちゃ。よし、この崖を登り
きったら、ピクニックしよう。食べ物、沢山
持ってきたよ」
「それで、そんなに大きなリュック、持ってた
んだね。ああ…サンディ、最高!」
「ちょ…速すぎるよ、待ってくれ」
「早く、早く!私の手につかまって!」
「サンディ。私、今、すごく幸せ」
「そうだね。風が吹き抜ける度に、木漏れ日が
チラチラ…きれいだね。草の香りも甘やかで
本当に気持ちいいね…」
「うーん…あ…あれ?まずい、ついウトウトして
しまった。メアリー?わっ!」
「突然、登場しないでくれたまえ。
至近距離で驚いたよ。ごめんね。長く眠って
いたかな?」
「うえーん!」
「ど、どうしたの?なんで、泣くんだい?
何か怖い事でもあった?」
「違うぅ!」
「違うんだ…じゃあ、淋しかったのかい?」
「ちーがーうー!びえーん!」
「ああ…それも違う…」
「サンディ…ちょっとだけ、抱っこして」
「いいとも、おいで。かわいそうに、どうした
んだい…よしよし…」
「ごめんね、サンディ」
「なぜ、謝るの?」
「振り回しちゃって、ごめん。今日は必ず、
クマが見つかるよ。約束する。
そうしたら、もう、私に付き合わなくてすむ
から。ごめん、ごめんなさい!」
「謝らなくていいんだよ。それは僕だって、
最初は面食らったさ。それは認める。
けれど、君と過ごしている時間はね、本当に
楽しいんだよ、メアリー。今日だってね。
だから、いいんだよ」
「本当に?楽しい?」
「クマの中に、何が入っていようともね」
「クマの中身を見たら、きっと怒るよ」
「かもしれないな。それでも、楽しかった事実
が変わるわけじゃない」
「そうだね。こっちに来て、サンディ。まっす
ぐこの先に、クマがある気がする」
「なぜ、わかるんだい?」
「もうすぐ見つかるべき時だから」
「???」
「ほら、あったよ、サンディ!」
「また、なんて所にひっかかってるんだ!崖ば
かり、なぜ、あるんだ?」
「やっと見つけたね!」
「君は知っていたみたいだけどね。喜ぶのは
まだ早い。下までどれくらいの高さがある
ことやら…。僕が行くから、君はここで
待っているんだ…って、メアリー!」
「大丈夫、大丈夫。私、木登り上手だもん」
「ああ…もう…気をつけてくれよ、メアリー」
「取れた!」
「ああ…そ…それは、おめでとう…」
「やったあ!」
「すごいね、メアリー。君の運動神経は、大し
たものだ。悪巧みの方もね」
「悪巧みなんか、しないもん」
「それはどうかな。ここにあることが、わかっ
ていたんだよね。どういう事か、説明願いた
いな」
「どうしようかな…」
「…」
「わかったってば。恐い顔もかっこいいから、
もう少し見ていたいけど…」
「中を見せたまえ」
「ドキドキしちゃうんだもの」
「僕もドキドキしてるんだよ、メアリー。何が
なんだか、さっぱりわからないんだから」
「ちゃんと、カッター持ってきたよ。今、クマ
のお腹を開けるから…でも、どうしよう?
中身みても、イラッとしないでね」
「早く見せてくれないと、今、イラッとくるか
もしれないよ」
「ジャジャーン!これが中身」
「これは…な…な…何?」
「開いてみて!」
「な…何がなんだか…」
後編に続きます。
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ペンネームはmasamiです。
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