ふれあいママブログ

バービー人形大好きです。魅力を語らせて下さい。エブリスタ(estar.jp)で小説も公開中。ペンネームはmasamiです。大人も子供も楽しめる作品を、特に貧困や格差をテーマに書いてます。

あなたのバービーは何を語る?⑩ライリー最終編

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「辛いのではありませんか?あなたは、こちら  

 に目を向けられないでいる。無理もないで

 す。僕が、あなたをお訪ねすれば、傷つけず  

 にはいられない。迷いました。決して軽々し

 く判断した訳ではありません」

「お手紙を頂いてましたから。会うのを選んだ 

 のも、私です。心構えは出来ていたつもりで

 したけど…やっぱり…。少し時間を下さい」

「もちろんです。僕は、いつまでも待ちます」f:id:fureaimama:20220927090958j:image

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「何度も話を中断して、ごめんなさい。

 サンディ…と、今のあなたは名乗ってる。

 でも、私には…私には…。

 いえ、大丈夫です。

 あなたは、もうライリーではない。

 それは、あなたにとっては真実でも、私が  

 受け入れるには、やはり時間が掛かります。

 そう…とても辛い」

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「でも…もしも、ライルが…昔の彼のままで、

 私の元に戻っていたら…それも、やはり、

 辛く 苦しく…ひどく戸惑ったでしょう。

 それが私の罰なんです。

 だから、私の事は、気にしないで下さいね。

 聞きたいのでしょう?過去の自分の事を…

 でも、なぜ、今?あれから、ずいぶん長い時

 が経ってます。

 責めているのではないのよ。ただ、あなたと

 同様、私も知りたいだけなんです」

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「戻った訳ではありません。

 僕はもう、二度と、ライリーには戻らない。

 今日だけ、お訪ねしたのです。

 なぜ、今になって…というなら、ここを去っ 

 てから数年は、ライリーの事など知らなかっ

 たし、サンディとして生きるのに懸命だった

 からですよ。だが、その内…サンディとして

 出会った、沢山の友達が、少しずつ、それと

 意識しないながら、僕をここに導いた。

 僕一人では、辿り着きはしませんでした」f:id:fureaimama:20220929084800j:image

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「ライリーだった頃、あなたに友達はいなかっ 

 たわ。私以外、誰も」

「そのようですね。だから、あなたの処へ来た

 のです」

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「ライリーだった頃の記憶は?全く無いの?」

「完全に消えています」

「なら、見事にやり遂げたのね、レイシーは。

 彼女は言ったわ。ライリーを助け出す、と。

 どんな事でもする覚悟だったのだと思う」

「レイシーは、ライリーに…僕に…何をしたの

 ですか?」

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「あなたは…いえ、あの頃のライリーは死にか

 けてた。

 苦しみ、絶望していた。たった一本の命綱で

 崖からぶら下がっているよう状態だったの。

 二十年近くもそんな状態では、誰だって神経

 がおかしくなるのに、そんな、安定とも言え

 ない安定さえ、失う寸前だった。

 肝心の、命綱が保たなくなっているのに気が

 ついてしまったのよ。

 全てを託した綱は、切れかかっていた」

「命綱とは?」

「レイシーよ」

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「珍しいですね。普通は、ほら、母親とか…」

「その通りよ。

 レイシーは、ライルの母のマグダラが、彼に

 引き継いだ命綱だった。

 マグダラとライルは、二人共、与えうる限り

 の愛情をレイシーに注いだわ。その愛は本物

 だった。それは否定しない。でも、正しい愛

 ではなかったのだと思うわ。

 レイシーへの愛に…なんとか生きる意味を

 見い出していた。その為の愛だったから。

 レイシーに全てを与えたがっていた。

 そうすれば、自分達が満たされるから」


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「迷惑な話ですね。レイシー…僕は憶えていま

 せんが、彼女が気の毒です。

 誰だって、そんな役目は負いたくない」

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「昔ね、私、ライルに話した事があるの。

 レイシーが、まともに育ったのが不思議だっ

 て。でも、私は間違っていた。何もわかって

 いなかったのよ。

 レイシーが、一番、まともでなかった」

 「彼女が、一番、苦しみ、追い詰められてた

 と?」

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 「私は、それに気が付かなかった。

 それで、あんな事態になった。  

 残念だわ…でも、例え、キチンとした理解が

 出来ていても、私には、あの悲劇は止められ

 なかったと思う。私は、無力だった。それが

 慰めね。事件を防ぐ資格が、私にはなかった

 というのが」

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「それは嘘だ。あなたは、慰めなど見い出して

 いない。今でも苦しんでいる。違いますか」

「そうね…ごまかしては、いけないわね。私の

 心はまだ、あの日で止まったまま…」

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「すみません…言い過ぎました。僕は、何も

 知らないのに」

「レイシーを妬んでる。今でも羨んでるの。

 変な話よ。彼女は、殺人未遂犯なのよ」f:id:fureaimama:20221024083101j:image
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「レイシーは、ライリーに何をしたのです?」

「塔の窓から、彼を突き落とした」

 

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「ライルはガラスを突き破った。

 落ちていった」

 

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「何階の窓です?誰の部屋でしたか?」

「私の部屋。4階。ライルはまっ逆さまに落ち

 て、下の広場に激突した。噴水と池の側よ。

 普通なら、死んでいたわ。

 レイシーは、それを承知で突き落とした。

 でも、憎しみからじゃない。

 あなたを救うには、それしか無いのだと、

 そう確信したから、落としたのよ。

 そんな事、誰が出来る?レイシー以外の、誰

 に出来るって言うの!」

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「落ち着いて、アマンダ。大丈夫ですか。

 呼吸できてますか」

「レイシーには迷いがなかった。正しい事を

 するのだ…ライリーを助けるのだ…彼女は

 少しも動転しなかった。私にはわからない。

 本当に、そうだったのか…」

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「結果を見れば、正しい事だったんでしょう。

 僕は生き延び、今は幸せに暮らしているの

 ですから。でも、レイシーがライリーを…

 その、僕を殺そうとした時には、もっと別の

 思いに支配されていたと思います」

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「どんな?」

「恋…親の代から続く愛憎…何より…多分…」

「何?」

「若さですよ」

「若さ?」

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「自分が正しいと信じる一途さ。自分が何とか

 しなければ、という信念。自分なら出来ると

 いう自信。これは、成熟した、または老成

 した心には生まれないのですよ。

 実際の年齢とは関係なく、レイシーには、

 そうした若さがあり、あなたには無かった。

 どうしようもない事です。

 あなたの言う通りです。どんなに望んでも、

 あなたには、レイシーと同じ事は出来ない」

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「それより僕は、もっと具体的な事が知りたい

 のですよ。なぜ、レイシーはあなたの部屋に

 いて、なぜ、ライリーが現れたのか」

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「私の部屋に、レイシーを匿った事は、話した

 でしょう。部屋に案内した時、レイシーは、  

 驚いていたわ。権力者の一族を率いる身で、

 大豪邸に住んでいるのに、この部屋は何なの

 アマンダ?廃墟みたいよ、と」

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「ボロボロのベッドに、壊れた子供用の椅子。

 他には、何も無い。本当に、何も無いの。

 レイシーは、ふざけて言ってたわ。

 私が嫌いだから、わざと、使ってない部屋を

 あてがったんでしょ…って。 

 違うのよ。本当に、私の部屋だもの。

 お金持ちでも、お金持ちでないだけ。」

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「どういう意味です?」

「私は、子供の頃から、埃と黴だらけの塔の

 一室に住んでいたわ。痩せこけて、汚れて、

 臭かった。

 子供は喧しいからと、私の部屋は、塔の

 てっぺん。夏は蒸し風呂、冬は冷凍庫。

 いつもお腹が空いていて、泣いても誰も来な

 かった」

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「信じられませんね。ご両親は?家政婦や

 子守り、家庭教師がいたでしょう?」

「いたのかもね。時々、やって来たと思う」

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「まだ、よくわかりません」

「彼らは、誰一人、私に関心がなかった。

 欠片の関心も無ければ、どれほどお金があっ

 ても、役には立たないのよ」

「可哀想に…辛かったですね」

「生き延びたわ。もう、大丈夫よ」
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「しかしね、ライリーの家も同じだったので

 しょう?

 レイシーの物を除いたら、他には何も無いの

 ではありませんか?空っぽの廃墟だ」
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「ライリーもマグダラも、大富豪だった。

 美しい物、贅沢品が溢れていたわ。

 でも、二人は、レイシー以外、何も必要とし 

 てなかったし、レイシーは、物に興味が無い

 子だった」

「やはり、廃墟だ」 

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「我が家には、客用寝室は無いのか、レイシー

 に聞かれたわ。

 私には、わからないと答えた。

 今でも、邸にどんな部屋があって、誰が住ん

 でるのか知らない」

「ご家族は?」

「両親には、時々、会うわ。会社とか、知人宅

 で。元気みたいよ。でも、屋敷に住んでいる

 のかは知らないわ。引退したから、リゾート

 地にでも住んでいるのじゃない?」

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「自分の家に、誰が住んでいるかわからない…

 何か変な感じがしますけどね。ムズムズする

 ような…落ち着きませんよ」

「あなたの…サンディの家は?今のあなたは、

 どんな暮らしを?」

「1間のアパート暮らしです。住んでいるのは

 僕一人ですけどねえ…いや…そうなのかな…?

 友達や、友達の知り合いや、顔見知りやら、

 顔に見覚えのない他人やら…果ては大家さん

 や、彼女の身内まで…実に沢山の人が出入り

 してましてね。鍵を掛ける暇もなくて…

 ついには、鍵がどこかにいっちゃいまして。

 だから、僕も、人の暮らしを、変わってる

 云々、言える立場じゃありません」

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「楽しそうね」

「賑やかです。イメージとしては、市場か…

 年中無休のパーティー会場ですかね」

「私達と一緒にいた時は、楽しかった事なんか

 なかったクセに」

「私達?」

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「私もレイシーも、あなたを幸せにしたくて、

 あなたと一緒に幸せになりたくて、ただ、

 それだけが望みだったのよ。

 なのに、あんまりだわ、酷いわ、ライル!

 私達と一緒の時は不幸で、離れたら幸せだ

 なんて」 

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「僕が不幸だったのは、あなた方のせいでは

 ないし、今、幸せなのも、あなた方のおかげ 

 ではありません」

「そうね…そうね…その通りなのよね、本当は。

 なのに…人はどうして、こうも愚かに間違え  

 てしまうのかしら…」

「そう…なぜでしょうね」

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「レイシーが家出して…ライリーは、どうなり

 ました?」

「会社にも出てこないし、電話にも出ない。

 訪ねても、誰もいない。どの屋敷にいるのか

 さえ、わからなかったわ」

「レイシーの捜索は?」

「魂を失ったのよ。ライリーは、しばらくの間 

 は、動くことすら出来なかったのだと思う」f:id:fureaimama:20221023071352j:image

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「レイシーの意志を尊重しようとしたのかも 

 しれません」

「努力はしたと思うわ。自制したのでしょう。

 少しの間は、それが出来た。

 すぐには、禁断症状は出ないものよ。

 ああ…本当にレイシーはいなくなってしまっ

 たんだ…と実感するまでは、苦しみにも麻酔

 が掛かってる。真に辛くなるのは、それから

 よ」

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「結局、ライリーは耐えられなかった?」

「そうね」

「情けない奴だ」

「あなたは、自分に厳しいのね。人間だもの。

 仕方ないじゃない」

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「ライリーは、あなたの家にやってきた?」

「二週間ほど後だったの。訳のわからない事を

 言ってたわ。宝石を窓から投げ捨ててたら、

 私の部屋に灯りが見えて、あっ…レイシーは 

 あそこにいるって、そうピンときた…とか

 何とか…意味わかる?

 レイス…レイス…会いたい…会わずにいられな

 い…うわ言みたいに繰り返して、助けて…

 レイス…僕を助けて…って。止めたけれど、私

 なんか目に入らないみたいだった。

 手を伸ばして、私をどかして…邪魔な家具を

 どかすみたいに…憑かれた様な目をして…

 塔を登っていった」

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「レイシーは、驚きました?怯えた?」

「全然。わかっていたみたい。ライリーが来る

 のを、彼女は待ってた」

「二人の間に、何が起こったのです?」

「レイシーは言ったわ。これが最後よって。

 私を抱きしめて…ライリー、そこから

 初めましょう…私と現実を生きようって…」

「それでも、ライリーは、彼女を拒んだ?」

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「生身の彼女を愛せるなら、とっくにそうして

 いたわ。

 レイシーは、私とは違う。

 美しいだけじゃなくて、何と言うか…地に

 根付いた官能美、泥臭いまでの女らしさ

 があった。身体も、ふっくらと柔らかで」

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「ライリーは、彼女を抱くのを拒んだ。彼女

 無しでは、生きられないのに?」

「だからこそ、だと思うわ」

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「レイシーは、ライリーを、愛していたんです  

 ね。普通の恋がしたかっただけなのに、叶わ

 なかった。

 フラれて、冷たく突き放されるなら、まだ 

 理解できるし、受け入れる事も出来る。

 でも、ライリーは、レイシーを溺愛し、可愛

 がり、甘やかし…いつも側にいて、優しく話

 を聞き、そして触れ合う。常に、ライリーの

 温もりを体に感じる…現実的にね。

 それなのに、恋愛対象として見てくれない?

 あまりに辛い事です。苦しかっただろうし…

 やがて、憎しみも生まれたでしょうね」

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「レイシーは、ただ普通の人間として扱って

 欲しかったのだと思うわ」

「十年以上も、ずっと求めていたのに…」

「叶わなかった」

「だから、レイシーはライリーを突き落とした

 それから、どうなりました?」

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「私は、階段を駆け下りて、ライリーの元へ

 走ったわ。実際には、酷い損傷があった訳だ

 けれど、その時は、わからなかった。見た目

 には、何の外傷も無い様に見えたから。

 意識ははっきりしなかったけれど、息は安定

 していたし…4階から落ちたとは思えなかっ

 たわ」

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「レイシーは、どうしてました?」

「しばらく経ってから、下りてきたわ。

 寝間着から着替えて落ち着いていた。

 旅支度だった」

「アマンダ?」

「…。」

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「普通、そんな事件が起これば、悲鳴を上げて

 助けを呼ぶし、すぐに警察や救急車を呼ぶの

 ではありませんか?」

「うちの屋敷では、何が起きても不思議では

 ないのよ。誰も、駆けつけはしないわ。

 野次馬にすら、ならないでしょうよ」

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「倒れているライリーを見下ろして、あなたと

 レイシーは二人きり。何があったのです?」

「話したくないわ」

「それはそうでしょう。でも、話して下さい。

 気が楽になるかもしれませんよ」

「そうね…ああ、ライル…私達、なぜ、こんな

 事になってしまったのかしら?なぜ?

 あの時…あの日の、あの後…私は…私は」 

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その日…。

 

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「逃げなさい、レイシー」

「警察に行くわ、私。見たでしょ、アマンダ。

 私は、ライリーを殺した」

「彼は大丈夫。生きているわ」

「それでも、私は罰を受けるべき…」

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「バカ言わないで。わかってるクセに。例え

 死んでも…まあ、死にかけても、ライリーは

 あなたのせいだなんて言わないわ。決して。

 自分で窓から落ちた、と言い張る。

 万に一つも、あなたは刑務所には入らない。

 入ったとしても…想像がつくでしょ?

 ライリーは、全財産を投げうってでも、自分   

 の権力の底までも浚って、牢屋をホテル・

 リッツに変えるでしょうよ。

 インテリアコーディネーターに造園家に、

 室内プール、豪華なコース料理…」

「私は、どうなるの、アマンダ?」

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「卑怯者なら、この場に留まるでしょうね。

 罪など、どこにもない。

 万事、今までと変わらない毎日が送れるわ。

 ライリーの宝物」

「…。」

「レイシー?」

「嫌よ、嫌。それだけは…絶対に嫌」

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「だから、この場から去りなさい、レイシー。

 今を逃せば、もう終わりよ。 

 ここでライリーと離れれば、まだチャンスが 

 ある。あなた達ふたり共、変われるかもしれ

 ない」

「ふふふ」

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「何よ」

「そうなのね、そういう事なのね、アマンダ」

「何が」

「あなたが、ライリーを愛しているのは知って

 いたわ。ずっとずっと昔から、幼い頃から

 ずっとよね。

 可哀想に、孤独なアマンダ…ライリーだけが 

 あなたの中の、暖かく、形ある人間だったの

 よね。

 あなたの様な存在は、とても貴重なのに…

 それがライリーにはわからなかった。

 ライリーは、私以外、何も目に入らないの

 だから」

「そうね、レイシー」
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「あなた、どれほど私を憎んでいたのよ、ねえ

 アマンダ?

 私がいなくなる様に仕組めば、ライリーは

 あなただけの人になる。

 そうでしょ?」

「ええ、その通りよ、レイシー」

「いいのよ、アマンダ。私は、それもわかって

 いて、この道を選んだのだから」f:id:fureaimama:20220924134127j:image
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「もう二度と会う事は無いわ、私達。

 さようなら、レイシー」

「さようなら、アマンダ。

 さ…さようなら…さようなら…ライリー。

 寂しい…とても寂しいわ…」

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「レイシーは去って行ったわ。

 後は、説明の必要はないでしょう?

 あなたは…ライルは…一命を取り留めたけれど

 全ての記憶を失い、ある日、病院から脱走し

 てしまったの」

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「そして、僕はサンディになった」

「完全な記憶喪失は、とても珍しいそうね。

 もしかしたら、過去から逃れたいのかも

 知れない…と、お医者さんには言われたわ」

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「サンディ…黙ってしまったのね。

 どんな気持ち?」

「あなたに対して、気が咎めているのです」

「そう…あなた、今の暮らしは、幸せ?」

「とてもね。貧乏ですし、健康でもなく、そう

 長生きも出来ません。

 でも、大好きな仕事、大切な友達…

 それだけで…ええ…とても幸せです」

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「だったら、それでいいのよ」

「あなただけを、置き去りにして、逃げ出した

 ようで…。たくさん、人を傷つけた。

 レイシーのことも」

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「だとしても、それが人生じゃなくて?

 生まれた場所に留まる人もいれば、離れて

 いく人もいるわ。

 出会いもあれば、別れもあるし、その過程で

 誰かを傷つける事もある。故意にそうしたの

 でない限り、罪は無いわ。ただ、そうなって

 しまっただけで」

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「あなたは、幸せですか、アマンダ?」

「いいえ、大して。でも、それは私の問題よ。

 あなたに…つまり、サンディにも、ライリー

 にも、責任は無いわ」

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「ありがとう、アマンダ。

 あなたに会いに来て良かった」

「こちらこそ、ありがとう。

 ライリーが生きていて、幸せだとわかって、

 どんなに嬉しかったか…」

「レイシーは、どうでしょう。今、どこにいる

 のか、ご存知ですか?」

「いいえ。でも、あの子は心配いらないわ。

 多分、きちんと自分の人生を歩んでいる」

「きっと、そうですね」

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「では、本当のお別れを…。

 さようなら、アマンダ」

「さようなら、ライリー。永遠に。

 そして、サンディ…あなたは、レイシーに命

 を与えられた。体を大切に…精一杯、幸せに

 生きてね…お願い」

「約束します」

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終わり

 

エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasami。

おすすめは「いつもの帰り道」かな…?

 

 

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