ふれあいママブログ

バービー人形大好きです。魅力を語らせて下さい。エブリスタ(estar.jp)で小説も公開中。ペンネームはmasamiです。大人も子供も楽しめる作品を、特に貧困や格差をテーマに書いてます。

あなたのバービーは何を語る?⑥前編

 

「失礼、お嬢さん。

 こんな所で、何をしてるの?」

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「私は…あっ…」

「ん?」

「私…私に言ってるの?」

「他には誰もいないよね。女の子が一人で、

 こんな地域の、薄暗い地下道に座り込んで。

 昼間とはいえ、危ないよ」

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「あなただって、座ってるじゃない」

「僕は、仕事の帰りなんだ。それに、今、座っ

 たんだよ。君が心配でね。

 放っといて、は言っちゃダメだ。どうせ、

 僕は聞かないよ。

 どうしたの?何があったの?」

「別に…説明できない」

「確かに、人が解り合うのは、難しいね」

「だったら、放っと…いや、どっか行ってよ」

「君が、安全な所に身を移すまで、僕は傍を

 離れないと思うな」

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「一人でいたいの」

「わかるよ。僕も、普段はプライバシーを重視

 する方なんだ。君が、もっと治安の良い地域

 で、自分と向き合いたいと言うなら、その

 希望は尊重するんだけどね。

 お名前は?」

「言うべきなのか、わからない」

「僕はお役所じゃない。自分の教えたい名を

 言えばいいんだ。偽名だって、構わないよ」

「イーヴィ」

「可愛い名前だね。僕はサンディ」

「あなた、本当にお節介だね」

「そうかな。困っている人に声をかけるのは、

 当然だと思うけど」

「困ってなんか、ない!勝手に知ったかぶりし

 ないで!」

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「ごめんね。でも、君が話してくれないから、

 いけないんだよ。決めつけるしかなくなっ

 ちゃうからね」

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「怒鳴って悪かったよ。あなたが、良い人だっ

 て事はわかってる」

「ありがとう。そう在りたいと、いつも思って

 るよ。君だって、そうじゃないかな?

 でもね、良い人でいる為には、生きてないと

 いけない。だから、せめて、もう少し明るい   

 所に出ておいで」

「わかった」
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「出たよ。それで?」

「…。」

「あのさ…サンディ?」

「…。」

「何で黙ってるの?」

「…ごめんね。もう話せるよ」

「隠さなくてもいい!私がイヤなんでしょ!

 妙な世話なんて焼いて、後悔してるはずだよ

 私みたいな子、どうなろうと、放っておくべ

 きなんだよ!」

「どうして、そんな話になるの?そんな事、僕

 は一言だって言ってないよね」

「もう手遅れなんだよ、私。サンディだって、

 皆と同じ。私なんて、大嫌いなクセに」

「質問してくれないかな」

「え?はあ?」

「僕は、ちゃんと答えるよ。だから、聞いて

 欲しいんだ。嫌いなクセに…ではなく、嫌い

 なの?ってね。ちゃんとね」

「意味がわからない」

「僕は、君といるのが嫌ではないよ。無理に    

 一緒にいるのではない」

「でも、楽しそうじゃないもん」

「それは、君のせいじゃなく、後ろの人影の

 せいだ。振り返ったりしないで。廃屋の中に

 潜んで、こちらを観察してる。よく見えない

 けれど、数人はいる…三人かな?」

「よくわかったね…」

「気がつかないフリをするんだ。彼らがどうい

 う態度にでるか、わからないんだから」 

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「怖い?」

「怖くはないよ。注意してるだけだ」

「もう行った方がいいよ…サンディ。私の事は

 いいから。大丈夫だからさ」

「僕に逃げろと?」

「常識のある人間なら、皆、そうするよ」f:id:fureaimama:20210515051914j:image

「僕が逃げてしまったら、君には都合が悪いん

 じゃないかな」

「…大丈夫だよ」

「ちっとも大丈夫じゃないよ。君の立場上ね」

「何を言ってるの?それ、どういう意味?」

「イーヴィ…あそこにいる、危険な連中は、君

 を狙ってる訳じゃない。君の仲間だよね。

 君は、悪い側の人だ。違うかな?」

「…。」

「絶句する程、バレない自信があった?」

「どうして、わかったのよ」

「昔はね、この辺では、ひったくりや辻強盗が

 多かった。平和な時代だったんだね。

 でも、今じゃ、犯罪が当たり前の日常になっ  

 てしまったから、金目の物は、誰も持ち歩か

 ない。かっぱらいは出来なくなった。

 そこで、だ。通りかかった奴を、巣に誘い

 こんで監禁し、身内に、ごくごく少額な身代

 金を要求して、受けとったら人質を解放する

 そんなやり方が流行っている、と聞いたから

 ね」

「ボーイフレンドとケンカして、置いてきぼり

 にされたって、そう言うつもりだったんだ。

 だから、家まで送ってって…」

「ひっかかる人間がいる事が不思議だ。でも、

 自分では、うまくいく自信があったんだよ

 ね。なぜ、僕を誘い込まなかったの?」

「理由はあるよ。でも、言いたくない。勘違い

 かもしれないし」

「そうか。無理には聞かない。ただ、今は逃げ

 なくちゃね」

「逃げる?なぜ?」

「物事は、長い目で見て判断しなければ、いけ  

 ないよ、イーヴィ。こんな事を繰り返してて

 自分の将来が明るいとは、まさか思わないだ

 ろう?」

「…わかった。止めるよ」

「え?もう決断するのかい?やけに素早いね」

「理由はあるよ。でも、やっぱり言いたくない

 今はね」


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「決心がついたら、ぜひ聞かせて欲しいな。

 でも、そろそろ時間だ」

「なんの時間切れよ?」

「君のお仲間の忍耐力が切れるよ」

「もともと、少ないもんね」

「あの路地が、見えるかい?あの先に、車が

 停まってるはずだ。友達が助けに来てくれ

 てるから。車に飛び乗って、逃げるんだ。

 友達は女性でね。ダイナさんという名前だ。

 あとは、彼女に任せればいい。安全な所に

 匿ってくれるよ」

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「いつ、連絡したの?携帯、持ってるの?」

「盗られるのがオチだから、持ち歩かない」

「携帯の意味がないね。携帯できないんじゃ」

「ダイナさんは、不思議な勘の持ち主でね。僕

 の危機がわかるんだよ」

「恋人?」

「違う。大切な友達だよ」

「一緒に来て、サンディ」

「ダメだ。明日の午後には訪ねるから。さあ、

 行くんだ。僕は、ここに残らなきゃならない

 君のお仲間と、話し合いをしないと」

「危ないよ。死ぬかもしれない。私が交渉しに

 行くよ」

「猛ダッシュで、ここから逃げて欲しいんだ

 けどね。怒鳴らないとダメなのかな?僕は、

 大声を出すのが好きでないんだよ。走れ!」

「わかったよ!」

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「やれやれ…」

「サンディ!」

「また…はあ?」

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「本当に、恋人じゃないの?」

「いいから、行きなさい!」

「明日、必ず来てよ!」

「約束するよ。行きなさい!」

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「やっと逃げたね。全く、あの子は…」

「おいっ、テメエ…って、ゲエッ、サンディ…」

「グーピーじゃないか。潜んでいたの、君だっ

 たの」

「あんただって、知らなかったんだよ、悪かっ

 たよ。ほら、俺、目が悪いから、よく見えな

 かったんだ。だからさ…」

「君のその目…医者に行かなくちゃダメだよ、

 グーピー。どんどん酷くなってる。見えなく

 なってしまうぞ」

「金が無い」

「待ちたまえ」

「何を書いてるんだ?」

「紹介状だよ。この紙を持って、地下鉄駅前の

 眼科に行くんだ。タダで治療してくれるよ。

 あそこのお医者さんは、僕の友達なんだ」

「だからって、タダはねえだろう」

「友達や、友達の知り合いは、特別扱い…それ

 が当たり前の社会は、良い社会じゃない。

 決して、認めるものじゃない。

 でも、紛れもなく、僕らは、そんな社会に

 生きているんだ」

「恩は受けない」

「どうして?それで、僕に対して、なんらかの

 想いが芽生えるのが怖いのか。責任が生じる

 のが怖いのか」

「ああ…怖い。俺は、臆病者だ」

「そんな事はない。ごく自然な怯えだよ。

 だけど、なるべく意識しないように努めて

 欲しい。せめて、目が治るまでは」

「…わかった」

「必ず、医者に行くんだよ」

「ああ…ありがとう」

「ところで、イーヴィだけどね」

「あいつ、どうしたんだ?」

「ここだけの話だけどね。君はイーヴィと組ん

 ではいても、彼女の友人ではないし、彼女が   

 好きですらない。そうだろ?」

「当たり。いなくなってくれて、せいせいした

 よ。戻って来ないだろうな…。でも、なんで

 そんな事、知ってるんだよ、サンディ?」

「長い話さ。とにかく、イーヴィは、僕に任せ

 てくれ」

「わかった。じゃあな、サンディ」

「絶対に、医者に行くんだぞ」

「ああ…約束する」

「元気でね」

「あんたもな」

 

 後編に続きます。


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