ふれあいママブログ

バービー人形大好きです。魅力を語らせて下さい。エブリスタ(estar.jp)で小説も公開中。ペンネームはmasamiです。大人も子供も楽しめる作品を、特に貧困や格差をテーマに書いてます。

あなたのバービーは何を語る?⑤後編

 

「大事な話とは何ですか…普通は、そう聞きま

 すわ、サンディ。なのに、あなたは、ずっと 

 黙ったままでいらっしゃる」

「そうですね…つい、うっかりしてました。

 決して関心が無いわけではないんです。

 ただ、この場所の神秘的な美しさに、心打た

 れていました」

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「昔は、ここに何かあった…のでしょう。

 お城とか豪奢なお屋敷が」

「今は、すっかり廃墟ですね。苔むした階段だ

 けが残って、石の割れ目から、若木が枝を伸

 ばしている。美しい」

「私は、ずっとここが好きでした。でも、今日

 は何とも思わないのです。代わりに思うのは

 あなたの事だけですのよ。サンディは、どう

 感じているだろう…とか、サンディは、私の

 事を好いていてくれるかしら…とか。変です

 か?」

「人と接すれば、その人に対して感情が生まれ

 ます。ごく自然で、それでいいのです。

 ちなみに、僕はあなたがとても好きですよ」

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「昨日、あなたは、何度もお尋ねになりました

 どうして、この小さい島に、一人きりで暮ら

 しているのか、と」

「僕が聞いたのは、二度だけですよ」

「そうでしたわね…あなたの問いが、心の中で

 反響し続けて、それで、繰り返し聞かれた様

 に感じたのですわ、きっと。

 昨夜、私、一生懸命に考えましたの。今まで

 訪れなかった、頭の中の小部屋を、一つ一つ

 ひっくり返して、調べて回りましたの。それ

 で思い出した事があるんです。

 むろん、私に直に告げられたものではなく、

 幼かった日々のどこかで、秘密の話を盗み聞

 きしたんだと思います。漠然とした罪悪感も

 共に記憶しておりますから」

「無理にお話にならなくても、いいんですよ」

「なんでも、私の父は…何か非常に危険な計画

 を立てているのだそうです。実行に移せば、

 私の命も危ないのだとか。それで、ここに

 いるのですわ。一人で」

「一種の疎開ですかね。お父上は何を考えて

 いらっしゃるのだろう」

「人類削減計画だそうです。多くの人々を消し

 去り、地球を住みやすいパラダイスに変える

 という計画。誰にとっての楽園なのか、あま

 り考えたくありませんけれど」

「すごい事をサラリと言いますね。僕が、違う

 種類のジャーナリストなら、あなたを質問

 責めにするところです」

「でも、なさらない?」

「しませんね」

「なぜですの?」

「僕が今、顔を合わせて話をしているのは、

 お父上ではなく、あなただからですよ。

 僕の興味を引くのは、いつだって、かけがえ

 のない、一人一人の個人です。世界を揺るが

 す巨大な陰謀なんて、関心がありません」

「あなたが、公表する事で、たくさんの命が

 救われるとしても?」

「お父上が何をしようと、滅亡する時はするし

 生き残る人は生き残ります」

「生き延びる側にいたいと、思いませんの?」

「思いません。だって、人間は、いつか必ず死

 ぬんですよ。それに、僕は長生きは…いや、

 長生きには興味がない。むしろ、死ぬまでど  

 う生きるか、いつも、それを考えています」

「不思議…とても不思議ですわ。こんなお話を

 しましたのに、私…今までの人生で、一番、

 幸せを感じているんです。心が軽く、明るく

 なって、未来には希望が、生きていく事に

 喜びがあると、そう信じられるのです。

 こんな気持ちになるのは、いけない事ですか

 しら?」

「ちっとも、いけなくありません。

 これからずっと、もっともっと、そういう

 気持ちが増えていくといいですね」

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その夜…。

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「サンディ…サンディ…」

「うーん…あなたは、よほど僕を叩き起こすの

 がお好きですね…どうしましたか?」

「ごめんなさい、でも…」

「泣いているんですね。怖い夢を見ました?」

「ええ…とても怖かったのです…でも、内容は

 覚えていませんの…今もまだ、恐ろしくて、

 震えが止まらなくて…」

「僕の傍においでなさい。手を握ってあげます

 からね。暖かいでしょう。もう、悪夢の中に

 いないのですよ」

「胸が苦しいんですの。全身が締め付けられて

 いるみたいで…」

「その、寝巻きのせいではありませんかね。

 ピッタリしすぎですよ」

「そんな筈はありませんわ。今まで、悪夢など

 見た事ありませんもの。でも、今夜は…何か

 に追い詰められているような…怖くて…」

「何が追いかけて来たのかな。白いお化けです

 か?それとも、虹色のお化け?怪獣かな?

 紫色の怪獣なら、心配いりませんよ。

 僕の友達ですからね」

「いやですわ、サンディ。ふざけてばかり」

「でも、笑ってくれましたね」

「落ち着きましたわ、やっと…。でも、まだ

 不安ですの。一緒にいてもいいですか?」

「もちろん、構いませんよ。あなたが寝付くま

 で、僕は起きてますから。大丈夫です。

 しっかり見張ります」

「もうしばらく、手を繋いでいて下さい…」

「いいですとも。安心して、お休みなさい」

「友達って、いいですわね」

「本当にね。僕も、そう思います」

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 数日後…。

「サンディ!何していらっしゃるの?」

「おはよう、ダイナさん。野生のお芋を見つけ

 たんです。これで、美味しい朝食でも、と」f:id:fureaimama:20210505055223j:image


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「呑気な方!今日で一週間が経ちましたのよ」

「…僕が来てから、一週間?もう?」

「そうですわ」

「生活物資の補給ボートがやって来る日?」

「多分、そうですわ」

「何時に来るかは、わからないんですよね?

 乗り過ごしたら、また一週間後になる。

 すぐ荷物をまとめて、海に向かい、桟橋で待 

 たなければ。ああ…ダイナさん…本当は百もの

 花束でも捧げて、24時間でも丸々と使って、

 あなたにお礼を言いたい所ですが、そうも

 いかない事情ですから…」

「落ち着いて下さいな、サンディ。私がお教え

 しなければ、のんびりお芋を掘ってらしたん

 ですからね。それに、まだ、夜が明けたばか

 りで、海も相当に荒れてます。あと、数時間

 はボートも来れませんわ。それに、私も一緒

 に行きますから、お話する時間は、十分に

 あります。万が一、乗り損ねたら、イカ

 でも作ればいいんですのよ。今まで、思い

 つかなかったなんて、どうかしてましたわ。

 冗談ではなく、本気です、私」

「その手がありましたか…ありがとう、落ち着

 きました。それに、お見送りして下さるなん

 て、嬉しいです」

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「違います。私も…私も、あなたと一緒に、

 この島を出る、という意味です。あなたの

 住む街を、自分の目で見てみたいのです。

 私は…あなたをお泊めしました。だから…

 あなたも泊めて下さいますよね」

「…もちろんです。喜んで」

「どうして、そんな気になったのか、私には

 ちゃんと説明ができませんけれど…」

「説明など、要りませんよ。あなたがそうした

 い…それだけで、十分です」


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「これ、あなたの旅行バックですわ。少しだけ

 お待ちになって。私も準備いたしますから」

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「お待たせしました」

「…驚きました。そんなお洋服もお持ちだった

 のですね」

「作りましたの。ベッドカバーを使って。変で

 すかしら?」

「とても素敵です。いや…誤解なさらないで

 下さい。今までのお洋服だって綺麗でした

 よ。でも、あなたがお作りになった、その

 服の方が現代的だし、お似合いです」


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「でも…私、とてもドキドキしていますの。

 だって、これから、どこでどうすればいい

 のか、全然わからないのですもの。

 とりあえず、服についていた宝石を全部もぎ

 取ってきましたけれど、持っている物は、

 それだけ。不安なんです。あなたに、ご迷惑

 をお掛けしないかと…」

「そんな心配は要りません。あなたは、僕に

 迷惑など掛けないし、掛けたとしても、ほん

 の短期間でしょう」

「そうですか?」

「僕の目にはね、ダイナさん。あなたは、どこ

 にいても、うまくやっていける人に見えます

 よ。大丈夫です」

「では…参りましょうか」


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「今、気がついたのですけど。そのボートの

 人達、私を乗せてくれますかしら。父の指示

 を受けているのでしょう。父には会ったこと

 もないのですけれど、私が島を離れるのを、

 喜ぶとは思えません。そういえば…あなたは

 よく乗せてもらえましたわね、サンディ」

「そのうち…あなたにもわかる時がきます。

 世の中には、自分で意識していなくとも、

 善意を心に秘めている人々が、それは沢山

 いることが。

 例え、言葉に出さなくても、善意同士が惹き

 つけあって、一つの行動になる事もある。

 あなたの力になりたいと願う人は、普通、

 あなたが思うより多いのですよ」

「私、決して忘れませんわ」

「そうありたいですね」


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「ふう…」

「緊張しますか?」

「海に近づくほどに、心が乱れますの。怖くて

 でも、ワクワクしたり、足が震えます。

 しかも、初めての靴ですものね。フラフラし

 てたまりませんわ」

「そのヒールではね、綱渡りしているのも同然 

 ですな」

「こんな気持ちの時、どうすればいいんですの

 どう気持ちを整理したらいいのでしょう」

「まだ、何も決めなくていいと思いますよ。

 ちょっと旅行して、また、ここに戻ってきて

 もいい。戻らなくてもいい。

 一大決心しなくてはならない時なんて、現実

 には無いんです。

 その場その場の状況に合わせて、少しずつ、

 ゆっくりと、小さな決断をしていけばいい。

 それに…あなたが、この先、どんな道を選ぼ

 うとも、僕は友達として、必要な時はいつで

 も傍にいますし、全力であなたを支えます。

 お約束します」

「じゃあ…お友達として…よろしく、サンディ」

「よろしく、ダイナさん」


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 次回はバービー・イーヴィさんのお話です。

 お楽しみに。

 

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 ペンネームはmasamiです。

 覗いてみて下さいね。