ふれあいママブログ

バービー人形大好きです。魅力を語らせて下さい。エブリスタ(estar.jp)で小説も公開中。ペンネームはmasamiです。大人も子供も楽しめる作品を、特に貧困や格差をテーマに書いてます。

あなたのバービーは何を語る?⑨中編

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「四年前、私は、ライリーの…つまり、昔の

 あなたの家を訪ねた。広大な敷地に立つ、大

 豪邸だったわ。門から玄関まで、20分は歩い

 たわね。家も、あまりにも大きいし、幾つも

 玄関があって、どのドアを叩いたらいいのか

 わからなかった。とりあえず、一番近くの

 ノッカーを鳴らしたけれど、家人の耳に届く

 とは思えなかったから、30分ぐらいも、叩き

 続けたの。やっと、あなたが、出てきた時に

 は、緊張してたのが、すっかり取れてたわ」f:id:fureaimama:20211222050359j:image

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「君は誰だ?」

「あの…ライリーさんですか?」

「ああ、そうだが」

「未亡人共済組合から来ました。寄付をお願い

 します」

「寄付か…ポケットマネーでよければ、すぐ」

「いや、あの…出来れば、その…その、小切手で

 お願いします」

「ここには無い」

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「…」

「…」

「仕方がないな…まあ、入って」

「ありがとうございます!」

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「小切手を取りに行くから、ホールで待ってい

 てくれたまえ」

「いや、あの、その、あの…ご一緒します」

「書斎にあるんだ。遠い」

「でも…行きますわ。もし、よ、よければ…」

「ふむ…良くはないが、考えてみれば、悪くも

 ない。好きにしたまえ」

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「広いですわね。まるで迷路だわ。迷子になり 

 ません?」

「2、3の部屋しか使ってない。従ってルート

 は、いつも同じだ。迷う事は無い」

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「素晴らしいお屋敷ですけど…あちこち電球が

 切れてるし、ゴミが落ちてますわ。奥様は、

 使用人の方に、注意した方がいいわ」

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「結婚はしてないし、誰も雇っていない。僕は

 一人暮らしなんでね」

「え?こんな広大なお屋敷に、一人ですか?

 でも、家政婦さんくらいはいるでしょう?」

「完全に一人。一人っきりだ」

「どうですかね…それって…」

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「奇妙な言い方だな。どういう意味なんだ」

「べ、別に…深い意味はありませんけど…

 なんだか、このお屋敷、女性向けのデザイン

 の様に感じるので。女主人に合わせて作られ

 てるみたいに」

「そうか」

「…」

「着いたよ。この広間の奥が書斎だ。どうぞ」f:id:fureaimama:20211222082440j:image

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「いいお部屋だわ。立派な本棚…でも、本が

 ありませんね」

「本には興味が無い。ところで、小切手をどこ  

 にしまったか、思い出せなくてね。少し時間

 をもらおう。ソファにでも、座ってて」
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「ありが…いえ、止めておきますわ」

「なぜ、後退りするのだ?」

「なぜって、その…。

 肩掛けが置いてあるし、詩集が伏せたままで 

 す。まるで、その…その…」

「だから?」

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「一人暮らしだと仰ったけれど、誰か女性がい

 て…今は席を外しているけど、すぐに戻って

 くる…そんな感じがします。でも…花は枯れて

 ますのね。細く美しい手が、この花を活けて

 いた時は、色鮮やかに咲いていたでしょうに

 やっぱり、お一人なんですね…今は」

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「…」

「ライリーさん?大丈夫ですか?」

「え?ああ、何でもない。小切手を探そう」

「お願いします」

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「まったく…どこに仕舞ったんだか…ああ、紅茶

 かワインはいかがかな。悪いが、コーヒーは

 無い。見たくなくてね」

「いえ、結構です。ワインが沢山ありますのね

 みな、価値あるワインばかり」

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「ああ…そう…僕はよく知らないが。興味が無く

 てね」

「床に転がっている、そのワイン、稀少な逸品

 ですわ。なぜ、放り出していらっしゃるの」

「どうでもいいからだ」

「…」

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「やっと小切手が出てきた。

 宛先は…未亡人共和組合、だったかな」

「ええ」

「そうなのか?本当に?」

「ええ!」

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「それじゃ、これをどうぞ」

「ありがとうございます。では…私はこれで…」 

「見なくていいのか?」

「え?」

「小切手を渡されたら、必ず宛先と金額を確認

 するものだ。普通はね。なのに、君は、すぐ

 袖の中に突っ込んだ。見ていない。

 どうでもいいのかな」

「今、見ます!結構です、これで。それじゃあ

 私、帰りますわ。お邪魔しました」

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「玄関までお送りしよう」

「いえ!あの、その、大丈夫ですわ。ご足労

 いただかなくても。自分で帰れます」

「さっき、迷路の様だ、と言っていたが」

「順路は、覚えてますから」

「そうか。それでは、そうして貰おう。疲れた

 のでね」

「ドアに警報装置などありましたら、スイッチ

 を押していきますけど」

「警備は一切していない」

「警報ベルも無いんですか。こんな豪邸なのに

 無用心じゃありません?」

「守るべきものなど、もう何も無い」

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「そうですか…。わかりました。

 さようなら、ライリーさん」

「お嬢さん、お名前は?」

「シェモーナです」

「シェモーナ。君は、この後、仮装舞踏会にで

 も、行かれるのかな」

「いいえ。なぜです?私の格好、どこか変です

 か?」

「いや、ちっとも。ただ、仮面をつけている様

 に思えたのでね」

「…」

「気にしないでくれたまえ。

 さよなら、シェモーナ」

「ええ…さようなら」

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その夜…

 

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カチッ

 

「キャッ、いきなり何なのよ!」

「灯りをつけただけだ」

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「ライリーさん…」

「こんばんわ、シェモーナ」

「真夜中に、真っ暗闇の部屋で、一体、何して

 たのよ、あなたは!」

「最近、眠れなくてね。物思いにふけってた。

 いけないか?

 ところで、こちらからも幾つか質問がある」

「わかってるわ。答えるしかないでしょう?」

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「君、スカートはどうしたのだ?」

「どこかの部屋に置いてきたわ」

「今朝、君に寄付を渡した後、僕は君が、玄関

 から出るのを見ていない。いままで、潜んで

 いたのか。退屈だったろう?」

「いいえ。色々な部屋を見ていたから。確かに

 一見の価値がある屋敷だわね」

「そうか」

「…」

「…」

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「聞きたいのは、それだけ?」

「そんな訳が無いだろう。真夜中に、真っ暗闇

 の部屋で、君こそ何をしてるのだ?」

「それは、その…えっと…」

「言うまでもないと思うが、寝不足の人間は、

 短気で機嫌が良くない。作り話に興味は無い

 ズバリ、真実を話したまえ」

「私…美術品泥棒なの!」

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「専門外なので、僕は詳しくないのだが、君

 みたいな調子で、勤まるのか」

「初仕事だから、仕方ないでしょ!それに本業

 じゃないもの。本当の仕事は、美術品鑑定家

 …の卵…というか…志望」

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「なら、部屋を間違えているぞ。美術品の部屋

 は、向かい側だ」

「宝石の中にも、美術品と呼ばれる物があるの 

 よ。『青の貴婦人』とか」

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「青の…何だって?」

「知らないの?莫大なお金を出して、自分で

 買ったんでしょ!ああ…わかった。興味が

 無いのね。このコレクションは全部、誰か

 他の人の為に揃えたのね」

「なぜ、わかる」

「ここは、どう見ても女性の為の部屋だもの。

 靴が落ちてるし」

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「…」

「でも、その人、もういないのね…悲しい事が

 あったのね…」

「ああ。だが、何も言いたくない。だから、

 君の話を聞かせてくれ。何でもいい。例えば

 なぜ、泥棒になったのか」

「『青の貴婦人』は、盗むのが難しいの。

 贋作がたくさん出回ってて、本物と同時代

 に作られた偽物もある。スキルがいるのよ」f:id:fureaimama:20211222174751j:image

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「うちのは、本物か?」

「間違いなく、本物だわ」

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「持って行きたまえ」

「は?え?は?」

「宝石が欲しいのだろ。持って行きたまえよ」

「どういう事?」

「簡単な話だ。『青の貴婦人』とやらは、僕の

 物だ。君に譲渡する。それだけだ」

「それはダメでしょ、普通」

「なぜ、ダメなのだ?わからんね」

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「こういう物はね。個人の所有物であっても、

 そうじゃないのよ。文化的な、人類の資産。

 悪者に渡すのは、芸術への侮辱だわ」

「君の主張は、さっぱり理解できんね。

 そこまで言うのに、なぜ、盗む」

「ギャンブルで借金を背負わされちゃって…

 債権が、芸術専門悪党グループに渡ったから

 なの。スキルを使って、借金を返せって言わ

 れて…『青の貴婦人』を持っていかないと、

 私、生皮剥がされちゃうのよ!」

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「誰のギャンブル代だ?」

「私のよ、もちろん」

「君の?いや、失礼。てっきり、ロクデナシの

 父親とか、能無しの兄弟とか、放蕩者の恋人

 とかの借金を、被ってしまったのかと…」

「そんな訳ないでしょ。他人の借金なんか、

 知った事じゃないわ。自分のだから、困って

 いるんじゃない。それも、ものすごい額」f:id:fureaimama:20211222175451j:image

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「だったら、尚更、持って行きたまえ」

「闇から闇へ、そんな扱いを受けるべきじゃ

 ないのよ」

「君が?」

「『青の貴婦人』の事よ!文化的な…」

「知るか」

「え?」

「知った事じゃないと言ったんだ!

 偉大な美術品だかなんだか知らないが、今、

 大事なのは、君が、生皮剥がされないように

 することだろうが。

 僕にも、美術品を愛でる気持ちが無いという

 訳ではない。悪者に渡すべきでないという

 意見にも、まあ賛成する。

 だが、物は物でしかないんだ、シェモーナ。

 目の前の、人間一人の命と、天秤にかけられ

 る美術品など、この世に一つも無い。

 持っていかないなら、この…なんだ…えっと…

 『青の貴婦人』か…窓から投げ捨てるぞ!」f:id:fureaimama:20211222175351j:image
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 後編に続きます。

 後編は、現在に戻って、サンディ(ライリー)

 とシェモーナのお話です。


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エブリスタで、小説も公開中。

ペンネームはmasamiです。

「いつもの帰り道」は、ノスタルジックな作品

覗いてみて下さいね。