ふれあいママブログ

バービー人形大好きです。魅力を語らせて下さい。エブリスタ(estar.jp)で小説も公開中。ペンネームはmasamiです。大人も子供も楽しめる作品を、特に貧困や格差をテーマに書いてます。

あなたのバービーは何を語る?⑨前編

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「起きて、起きて…えーと、サンディ…だった

 かしら…起きて」

「…。」

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「起きてったら!ねえ…もう…起きてよ」

「うーん…」


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「起きなさい!」

「え…はあ…はい!?いきなり、電気をつけなく

 ても…眩しい…」

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「起きて!」

「目が開いたんで、気がついたのですけどね。

 あなた、誰です?」

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「私の事、忘れちゃったの?」

「待って下さいね…まだ、寝ぼけていて…少し

 時間を貰わないと。えっと…その…いいえ、

 失礼ですが、あなたとお会いした記憶はない

 ですね。

 申し訳ないんですけど…って、よく考えたら

 あなたこそ、失礼じゃないですか?

 夜中の…えっと…3時か…こんな時間に、僕の

 部屋に押し入ってきて、叩き起こすなんて。

 僕は、気持ちよく寝ていたのに…」

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「よく眠れるようになったのね。良かったわ。

 でも、早く逃げないと」

「は?逃げる?なぜ?この世の終わりの鐘でも

 鳴りましたか?地球が真っ二つに割れでも

 しました?」

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「あなたは、時計を見間違えてるわ。3時じゃ

 ない。もう、4時27分に近いのよ。明るくな

 り始めてる」

「いや、そこが話のポイントじゃないんですよ

 時間なんて、どうでもいいでしょう?」f:id:fureaimama:20211127053354j:image

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「良くないわ。彼らがやって来る」

「彼らって?サンタクロースですか。それとも

 妖精かな」

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「悪い人達よ。あなた、襲われてもいいの?」

「もう、目が覚めているはずなんですけどね。

 あなたの言う事が、一言半句も理解できない

 んですよ。

 もしかして、部屋を間違えてませんか?」
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「頭がおかしいんじゃない?」

「どの口が、それを言いますか。僕は、悪党に

 襲われる様な物は、何一つとして持っていま

 せんよ。貧乏ジャーナリストですから」

「それにしては、素敵な部屋に住んでるわね」f:id:fureaimama:20211127053548j:image

「大家さんが、とても良い方だから」

「この椅子も、とっても座り心地がいいわ」f:id:fureaimama:20211127071452j:image

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「ありがとう。でも、僕が買ったんじゃない。  

 友達が作ってくれた物なんです」

「クッションを切り裂いたら、怒る?」

「はあ?そんな事は、させませんよ」

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「このマントルピースも、豪華ね」

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「友達が…」

「まさか、これも、友達が作ったなんて言わ

 ないわよね?」

「僕が作れるわけがないじゃないですか」f:id:fureaimama:20211127053948j:image

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「ぶち壊したら、まずい?」

「絶対にダメです。大事にしてる」

「私を止められるの?」

「出来ますよ。ただ聞けばいい。何を探して

 いるんです?」

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「彼らは『青の貴婦人』を探してる。どこにあ

 るの?」

「それ、誰です?知りませんよ、そんな人」

「そう、惚けたいなら、惚けていればいいわ。

 あなたの留守中に、何度か、この部屋は

 家捜ししたわ。でも、見つからなかった。

 余計な事を言うようだけど、出かける時は、  

 鍵を掛けた方がいいわよ」

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「今、反省してますよ。僕の部屋を見学したい

 人が、やたらと多いらしい。ルーブル美術館

 でもないのに」

「何の話?」

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「僕にも、わかりません」

「本当に変な人!」

「僕が、ですか?あなたも、十分に変ですよ」

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「あなた、拷問されてもいいわけ?」

「いきなり、何を言い出すんです?もちろん、

 良くないですよ」

「殺されてもいいの?」

「それも、良くはないですね」

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「まあ、そこまではしないけど。多分」

「どっちですか…」

「あいつらに捕まれば、はっきりするわよ。

 試してみる?彼らは『青の貴婦人』を探して

 る。あなたが行方を知っていると、思い込ん

 でるのよ」

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「僕は、そんな人、知りません」

「人じゃないわよ!」

「そんなに、怒る事はないでしょう。

 普通、貴婦人と言ったら、人間です」

「その話は、後にしましょう。

 今はまず、逃げなきゃ。早くベッドから出て

 着替えなさい!」

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「さっきから、疑ってたんですけどね。

 もしかしたら、あなた…」

「思い出した?私の事…」

「酔っ払ってませんか?」

「馬鹿!」

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「僕が?」 

「他に誰がいるのよ?」

「あなたがいます」

「そう、死にたいなら、そうすれば。

 置いていくわよ、いいのね?」

「ぜひ、そうして下さい」

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「ダメ!あなたの事を救いたいのよ。あなたの

 為に、わざわざ駆けつけたのに…」

「わかりました、わかりました。何も、泣く事

 はないでしょう。逃げればいいんでしょう、

 逃げれば。何から逃げるんだか、まだ、よく

 わからないんですけどね」

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「窓から飛び降りるわよ!」

「二階ですよ、ここは」 

「だから何よ?私だって、窓から忍び込んだん

 ですからね!」

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「威張って胸張る事ですか、それが」

「早く、早く!窓ガラス、破る?」

「窓の鍵だって、掛けた事がないですよ。

 だから、あなただって、忍び込めたんだ。

 なぜ、窓ガラスを割る必要があるんです」f:id:fureaimama:20211127072711j:image

「そんな事、言ってる場合なの?」

「そもそも、どんな場面なんですか。

 今まさに、踏み込まれそうだというなら別

 ですがね。静かな夜だ。本当に、その悪党達

 やって来るんですか?」

「今日じゃないかもしれないけど」

「え…ええ!?」

「襲撃の日時は知らないのよ」

「…はあ!?」

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「踏み込まれる寸前で慌てるなんて、間違って

 るわ。被害に遭う前に、逃げなくちゃ。

 早めの行動が大事。常識ないの?」

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「多分、無いんですよ、僕は。

 なぜって、ドアから出ますからね」

「危険よ。鉢合わせしたら、どうするの」

「足の骨を折れば、危険が回避できると?」

「待って!置いていかないで!」

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「で?」

「それは、僕のセリフです」

「これから、どうしよう…」

「それも、僕のセリフですね」

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「何から話せばいいのか、わからないわ」

「とにかく、二人とも落ち着くべきです。

 夜もすっかり明けたし、暖かくて美しい秋の

 日だ。コーヒーでも買って散歩しましょう」f:id:fureaimama:20211127075551j:image

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「変わったわね、あなた。雰囲気が違う」

「いつの僕と比べて?」

「四年前」

「四年前…か」

「四年前のあなたは…コーヒーが嫌いだった」
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「落ち着きましたか?」

「ええ…ありがとう。もう、大丈夫だわ。

 でも、まだ頭がゴチャゴチャしてて、あー、 

 もう…もう…もう!何をどうしたらいいのか、

 わからないの」

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「だったら、まだ、大丈夫でもないし、落ち着

 いてもいないのですよ。

 しばらく黙って、お互いに考えをまとめる

 のは、どうですか」

「やってみるわ」

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「…。」

「…。」

「ダメ!」

「ダメ?」

「ダメ、ダメ、ダメ!私には無理。そのうち、

 月行きのエスカレーターが出来る日が来る

 かもしれないけれど、落ち着く日なんか、

 こないわ。何か質問してちょうだい、お願い

 そうしたら、多分、全て説明できるから」f:id:fureaimama:20211127075950j:image

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「いいですよ。じゃあ、まず、最初の質問。

 あなたのお名前は?」

「シェモーナ」

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「美しい名前だ。僕はサンディ」

「違うわ」

「何がです?」

「あなたの名前は、サンディじゃないわ」f:id:fureaimama:20211127080500j:image

「自分の名前を間違う人がいますかね」

「いるかもしれないわよ。

 今のあなたが、サンディと名乗っているのは

 知っているわ。

 でも、本名ではない。なぜ、誤魔化すの?」f:id:fureaimama:20211127080530j:image

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「誤魔化してはいません」

「四年前、どうして失踪したの?」

「失踪?僕がしたんですか」

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「質問して、とは言ったけど…全て疑問形に

 しろ、という意味じゃないのよ。

 からかってるの?それとも、私を信用でき

 ないから?無理ないけど、でも…」

「違う、違いますよ。そうじゃなくて…その、

 それは…その…」

「話にくい事みたいね。でも、私は引き下がら

 ないわよ」

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「そのようですね…。

 実は…覚えていないのですよ、過去を。

 サンディとして生きてきた、この三年間以外

 全ての記憶がなくなっているんです」

「そうだったの…それは…辛かったでしょうね」f:id:fureaimama:20211127080847j:image

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「嘘だ、と言われるのを、覚悟していたんです

 けどね。すぐに信じてくれるんですか?」

「まあね。信じるわ。でも、困ったわ。

 俗に言う…記憶喪失なの?」

「らしいですね」

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「確かに、頭を怪我したりすると、人格が変化

 したり、一部の記憶がなくなったりはする 

 みたいよね。でも、全ての記憶を失うという

 のは、珍しいのじゃなくて?」

「飛行機事故で、記憶が完全になくなった人の

 話を、聞いた事があります。稀ではあるが、

 実際に起こりうる。その人は、婚約者の存在

 すら、忘れてしまったそうですから」

「あなたには、何が起こったのかしら」f:id:fureaimama:20211127081140j:image

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「わかりません。でも、お医者さんによれば、

 僕は、過去のどこかで…多分、数年前に、

 大怪我をしたらしいのです。ここにいるの

 だから、生還したのは確かだけれど、助かっ

 たのは奇跡的だったのだろう…そう言ってま 

 した。その事故のショックで、記憶も消えた

 のでしょうね」

「元気になって良かったわ」

「それは違う。生還した…と言うと、人は皆、

 ピカピカの健康体に戻ったと思うみたいです

 けどね。そうではない。

 体の内外に負った重傷のせいで、寿命の

 大部分が失われてしまいましたから」f:id:fureaimama:20211127081235j:image

「私の言葉を誤解しているわ。元気になって

 良かった…というのは、怪我が治った云々の

 意味じゃないの。以前のあなた…私が知って

 いた過去のあなたは…全く生気がなかった。

 不幸そうで…悲しそうで…底知れない、闇の

 絶望があった。手で触れる事ができる程に。

 今のあなたは、そうじゃない。どれだけ死が 

 近くても…幸せそうだわ」

「もしかしたら、思い出したくない過去が、

 僕にはあるのかもしれない。だから、無意識

 の内に、記憶を消したのじゃないかと…。

 それが一番、怖かったのです。誰かを傷つけ

 ていたら…それが怖い」

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「私と出会ったのは、多分、事故の前だわ。

 記憶を失っていなかったし、怪我している

 様子もなかった」

「話してくれませんか。過去の僕の事を」

「力になれないのよ。

 私は、あなたの友達ではなかった。

 ほんの僅かな間、顔を合わせただけ。

 あなたの知りたがっている事を、明らかに

 出来ないと思う」

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「いいんですよ。気にしないで。それは、僕の

 問題で、あなたには、何の責任もない。

 ただ、聞きたいだけなんです。

 それに、あなたの側の事情もあるでしょう。

 『青の貴婦人』でしたか…大事な話なので

 しょう」

「そう…どの道、話さなくてはいけないのね。

 許して」
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「あなたの、以前の名前は、ライリー」

「変わってますね」

「一族の名前だと言ってたわ。代々、引き継ぐ

 血のつながり。逃れる事は出来ない運命…

 それを表すのだそうよ。

 名前は、簡単に捨てられないから」

「僕は、捨てたようですがね」

「簡単に、ではないでしょう」

「初めて会った時の事を、話して下さい」

「いいわ」

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中編に続きます。

 

エブリスタで、小説も公開中。

格差をテーマにしたものが、多いです。

ペンネームはmasamiです。